プロローグ BREEEEZE GIRL
これは愛知で燻っていた1人の男と
同じく愛知の片田舎で誰かを待っていた
小さな水色のバイク
゛2人〟が歩み続けてきた轍を辿った物語である。
そしてその轍は今もゆっくりと伸び続けている。
2018年夏
東京都 新宿駅 時刻は夜0時過ぎ
夜なのにうだる様な暑さ
煌びやかな街
ゴミが散らばる路上
何もかも故郷の小牧と比べものにならない、
大都会新宿の駅近く。
歌舞伎町から歩いてほど近い駅の階段に腰掛け
ため息をついてる男
それが俺だった。
「しまった‥やっちまった」
俺は天を仰いだ
あえて何があったのかは言わない
酒に呑まれたわけではない
結論から言えば
俺は見知らぬ土地で終電を乗り逃した。
泊まる予定だった世田谷に住む友人のそうたの家まで地図を見て計算すると約5km
決して歩けない距離ではない
「しゃあない‥歩くか」
とぼとぼとJR病院の方向に向かって歩いた
1時間後
「まて、渋谷広すぎやろ!ここどこだよ!」
よくわからない渋谷区内にある住宅街の公園で道に迷った
「やつに誘導頼むか」
LINEをそうたに送ると
「今どこおんの?」
とすぐに返ってきた
LINEに地図のデータを添付する
「すぐ行くわ」
短いメッセージが帰ってきた
20分後
遠くから
トコトコトコトコ…
と小さなエンジン音を鳴らしながら緑色のカブが近づいてくる。
ヘルメットを外すそうたがニヤニヤと笑った。
「何してんだよ」
「聞くな、いろいろ訳あってあって終電逃した」
「アホやな」
そうたは呆れながら笑ってキーを抜いた。
「この人?」
カブの姿がふっと揺らいだ。
次の瞬間、そこに立っていたのは
緑かかった髪のロングヘアーで中肉中背な女の子が口を開いた。
見た感じ160cmぐらいだろうか?
緑と白の組み合わせのジャージを着てちょっと眠そうな顔だ。
そうたが言う。
「ほら、前に話した俺の幼なじみの」
「あー小牧のやつ」
女の子が笑う。
「あたし、みどり」
「スーパーカブ50の‥妖精?妖怪?まぁ解釈はなんでもいいや」
標準語の中にちょっとイントネーションが柔らかい関西弁寄りの言葉であくびをしながら答えた
確か、三重出身の祖母がこんな話し方してたような‥ と思った。
「バイク女子?」
「まあそんな感じ、なんでもあんたが好きな通りでいいんじゃね?」
適当かつスーパーアバウトなそうたに
適当かつなんだかすごく大雑把なみどり
パッと見の印象だけどすごい似合ってる。
話しながらさっきまでそうたが乗っていたカブを思い出した。
交番の警察官や新聞配達業者が使ってるバイクの印象しかない実用的なバイク
今まではまったく興味がなかったが、ただ不思議とその時は興味がわいた
「乗ってみる?」
不意にそうたが口を開いた
「え?」思わず俺は素っ頓狂な声を出した。
俺は当時、総合病院のリハビリテーション科で看護師をしていたから
バイク事故の悲惨さを知ってる。
そもそも、高校でバイクの4ない運動とかを嫌ってほど聞かされたからか
バイク=危ない乗り物のイメージだった。
そんな躊躇いを知ってから知らずかそうたは続けて話す。
「楽しいぞ、自転車乗れるなら大丈夫だからさ」
みどりも口を開いた
「いいよ〜あたしの背中貸したげるよ。カブ楽しいよ」
俺はおっかなびっくりとワクワクが混じり合った感情でキーを持つと、たちまちみどりの姿は
一台のスーパーカブに変わった。
鍵穴に鍵をさして軽く回した
カチッ ハンドル周りにランプがつく
ゆっくりギアをNから1へ変え
スロットルを回した
ゆっくりと走り始めた。
そこから少し走らせてみた。
トコトコトコ…
不思議だった。
速くない。でも‥
なんか楽しい。
初めて自転車に補助輪なしで乗った時のような気持ちだ!
「どうだ?楽しいでしょ」
バイクの姿のみどりが心の中で語りかけてくる
「ああ、楽しい‥」俺は呟いた
その夜。俺は初めて思った。
「バイクっていいな」




