第7話 学園と学生
学園の先生たちは、全員が王族の血筋の人たちだった。前は原初の魔女の弟子の魔法使いがいたらしいけど、今はもうその人たちの教え子だけになっていた。入学式では「魔法に境界なんてない」と話していたはずなのに、私だけは例外と言われて他の人とは全く違う扱いをされた。実習を伴う授業は参加できないことがほとんどだったし、学園内での行事も見学することしか許されていなかった。その代わり、特別授業と言われて、多重平行詠唱魔法の授業が私だけに用意されていた。もちろん、先生の中に多重平行詠唱魔法を一人で使える人はいなくて、図書館の魔導書の複写を渡されて、ただひたすら体にしみこませるように魔法を練習させられた。
最初から、先生たちは私のことを実験道具にしか思っていなかったんだと思う。授業中に少しでも休もうとすると「休むと記録が取れないから休まないでくれ」と言われたし、魔法を使えるようになっても機械的に進んでいくだけだったから。
学科とか普通の魔法訓練は参加できたけど、他の学園生と比べて劣っているところだけが評価の時に強調されていた。それも、一人にでも負けていたらって感じで。だから誰にも負けないように、主席であり続けた。入学後のテストだけは、まさか自分がそんな仕打ちを受けるなんて思っていなかったし、魔障に慣れていなかったから、散々な結果になって退学寸前まで追い込まれた。でも、それで火がついたんだ。今でも、その時に学園長から言われた言葉を覚えてる。
「所詮は農民のゴミか。ゴミはゴミらしく、魔法ごっこでもして遊ぶのがお似合いというわけだな」
私はその時初めて、「怒り」を感じた。それからは、その怒りを糧に誰にも負けないように努力し続けた。なぜかうまく使うことができなくなった魔法も、前よりも靄がかかっているような感じがする記憶も、その全てに抗ってやるって気持ちで努力した。とは言っても、相手は金持ちのボンボンたち。どれだけ先生たちが彼らに優位な条件を用意して、私が不利になる条件を用意していたとしても、すべてで完璧になれば絶対に誰にも負けないという気持ちで挑んでいたら、勝手に主席になっていたんだ。先生たちもどんどん意地になり始めていて、その度に私がその上を行くことが楽しくて楽しくてしょうがなかった。
中学三年生の進級試験からは、もう吹っ切れたみたいな感じになってて……やられている自分ももう清々しく思えるようなことを、先生たちはやり始めた。
いつも……というより、普通の学園生だったら事前に試験内容を知らされるんだけど、その時からずっと、私だけは当日急に言われるという形に変更になっていた。それは進級試験だけじゃなくて、定期試験も同じ形式になっていた。そして、少しでも基準値から逸れていると大幅に減点されて進級不可能とか、試験不合格とかにされる予定だったみたい。実際、高校一年生に進級して直後の定期試験は、闇属性の魔力量が規定値より少しだけ低かったから落とされた。再試験なんてあるわけがなく、進級できないからという理由で退学にもされた。
試験の時の話はこんな感じ。
これだけでも、今考えたら相当の仕打ちを受けてたと思った。でも、私にとってこの程度はまだ優しいと感じていたんだ。学園生活の中で辛かったのは、授業の時間だったから。
さっきも言った通り、私は実習授業をほとんど見学させられていたし、行事もいけなかった。それなのに、毎日のように先生に呼び出されて個別授業を入れられていた。そんなことをしていたら、私がクラスの中で浮くのはわかりきっていたことで……まぁ、入学式の日からすでに先生から私が特殊な試験を突破して入学した農民だっていうことを言いふらされてたから、最初から差別的な眼で見てくる人もいたんだけどね。でも、一部の人は話しかけにきてくれたり、友達になろうとしてくれたりしてくれたんだ。もちろん、フィルもそっち側だった。でも……その全員が、だんだんクラスで浮き始めていじめの標的になった私を見て関わらないようにしたり、先生たちの圧力で退学させられたりした。退学させられた人たちはみんな、「アリスのせいじゃないよ。自分で選んだ道だから」って話してくれたけど、私に関わったせいだって誰でもわかるくらい露骨だった。その後、その人たちがどうなったのかについて調べてみたんだけど……家柄は変わっていなかったけど、退学になった人は学園関係の人やや貴族専門の魔女から魔法を学ぶことができなくなっていた。そういう人たちの魔法教育を無償で引き受けていたのが、師匠だったらしいんだ。頻繁に王城に直談判しに行っていたらしくて、学園の先生たちがうっとうしそうに話していた。
授業内容とか、実習の内容は正直低レベルだった。昔から使われている教科書の内容をそのままなぞっているだけで、その中の言葉とか知識がなにを示しているのかわからないまま暗記する感じだったり、初級単属性魔法だけをただただ練習したり。師匠の講義の方がはるかにレベルが高かった。
その中でも一番ひどかった授業は歴史学。師匠から教えてもらっていた歴史の流れと、全く違う歴史ばかりだった。教科書もその授業だけは新しい内容になっていて、明らかに王族側の栄光と魔族の極悪さについて誇張されているような内容だった。もちろん、歴史学の本は学校の図書館にほとんどおいてなくて、正確な文献は師匠が持っているもの以外は焼却されているような感じだった。
必要ないと思うけど、改ざんされていた内容を少しだけ。
世界ができた時、人間と魔物は共に過ごしていた。人間を率いていたのは原初の魔女で、魔物を率いていたのは魔王だった。そんなある日、凶悪な魔物が人間を噛み殺した。それを機に人間と魔物の戦いが始まり、原初の魔女の力によって魔族側をかばっていた魔王を圧倒し、世界の反対側に追いやった。その後、原初の魔女と今の王族や貴族の先祖が協力して今の王都を建築した。農民や下流階級の人たちは、その時にあまり貢献できていなかったから王都の中ではなく、外に家を構える必要があった。今まで何度も王族や上流階級の人に抗議したり、革命を起こそうとしたりした人たちがいたけど、その全てが失敗に終わっていた。原初の魔女は王都ができてすぐ、この世界から姿を消した。「君たちはもうすでに私の力が必要ないほど、信頼できる存在になった。これからのことはすべて任せたよ」という、その言葉と一冊の魔導書を王族に託して。それから何度も魔族と人間の戦争が勃発したが、その全てで人間側が勝利した。だが、魔族は今なお人間を滅ぼそうとしており、王族直属の部隊が日々魔族と戦っている。学園は、その部隊に所属する資格があるのかを精査し、魔族と戦えるだけの実力を養う場所である。学園に農民や下流階級の人間が通うことができないのは、彼らの能力や志、責任感が低いからであり、それは王都を造った時から何も変わっていないことである。
こんな感じのことが大筋になっていた。私は中等部の三年間と高等部の少しの間の授業しか受けていないから大雑把なことしか教えられていないけど、この歴史の細かいこともきっと、しょうもない改ざんであふれているんだと思ってる。
もちろん、授業全てで先生や生徒の人から妨害とかいやがらせがあった。教科書を燃やされる、授業プリントを渡されない、筆記用具を捨てられる、机を捨てられる、睡眠魔法や混乱魔法みたいな妨害魔法をかけられる等々……魔法をかけられるのは、既に魔障があったせいであまり影響はなかったけど、授業の資料を捨てられるのはかなり辛かった。さっき教科書をただなぞっているだけって話したけど、そのなぞり先の教科書がなくなると本当に頭に入らなくなる。例えるなら、説明書無しで家を建てるみたいな感じ。それでも、中学生の時は授業から締め出されることは少なかったから何とかなったし、フィルが見せてくれていたからどうにかできたところもあった。高校一年生の時は授業に参加させてもらえないことがほとんどで、図書館にこもって勉強し続けてやっとといった感じだった。それだけ努力し続けた最後が、あの仕打ちだった。
シェリアには話したことなかったよね。私が、退学になった日の話。
とはいえ、退学になった瞬間の話はさっきしたんだけどね。だから、これから話すことは学園や王族がかかわっている確信がないことなんだ。
学園長や先生達に完膚なきまでにぼろくそに言われ、生徒たちに魔法で背中から攻撃され続け、学園の寮に置いてあった荷物全てを目の前で燃やされてから学園を出て家がある町に戻った私は、妙な不気味さを感じたんだ。なんて言えばいいのかな。異様なほど何もないって感じだった。でも、家に着いた時にその不気味さの正体に気づいたんだ。私の家族も、家も、両親が何よりも大切にしていた畑も……その全てが奪われた後だった。畑には、ボロボロになって内臓が外に飛び散っている両親の死体が転がっていたし、他の村の仲間の死体とか、生きているのか死んでいるのかわからない人もいた……私の家は跡形もなく消えてしまっていた。でも、私の家以外は無事で、明らかに私の家を狙った何者かの襲撃だったことは明らかだった。魔族の残り香が残っていたから、間違いなく魔族に殺されたのはわかったけど……正直、それ以上のことを考えられるような心の余裕はその時なかった。言葉も出なくて、現実だと信じることができなくて。両親の近くに行って、体をゆすった時に新しく内臓が体からこぼれ出てから、この光景が現実なんだと一気に感じさせられた。
その後は、ただひたすらに歩き続けてこの森にたどり着いた。その後のことは、もう話す必要ないよね。




