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第10話 理論と実践

 それからの二人は、魔導書に記されている三属性複合の魔法、さらには四属性複合の魔法まですべて習得することに専念していた。その数は単属性魔法よりもはるかに多かったが、覚醒の兆候が出始めたアリスは一か月かからずにすべての三属性複合、四属性複合の魔法を習得した。

 旅に出るまで残り約五か月。シェリアは三属性の魔力複合の修行を始めたとき、旅に出るまで二年近くかかるか、旅をしながら修行することを覚悟したが……アリスの「原初の魔」に対する適性が高く、さらに技術の飲み込みが早かったため、その心配は杞憂に終わることになった。


「さて……今日からは五属性以上の属性複合の魔法に取り組むわけだけど、今までと少し感覚がずれると思うから――」

「あ~、もしかして一属性ごとの魔力量を減らさないといけないってこと?」

「……それ、誰の入れ知恵?」

「え?学園の先生がそうやって言ってたよ」

「はぁ……なんか、進めば進むほど頭を鈍器で殴られてるみたいな衝撃が来るよ……それ忘れて。あと、他に何か言われたことない?」

「えっと、すべての魔法に必要な魔力量は一定とか、多重平行詠唱魔法を一人でやるときはすべての属性が同じ魔力量である必要があるとか。あとは必要以上に魔力を解放すると、魔力の総量が一定期間減少するとかかな」

「あ、あぁ……はぁぁぁ。あはははははは……はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

「ど、どうしたの?!そんな狂ったみたいな感じになって」

「ごめんね、ちょっと……一旦それ全部忘れて。学園で教えられたこと全部ね。フレイザからの教えは全部私からの教えだから、そっちをメインにして」

「は、はい。そんなにひどいんだ、学園での教え」

「……ちょっと寄り道しちゃったから話し戻すね。感覚がずれる理由だけど、五属性以上を同時に複合すると暴発しなくなるんだ。その反動で、必要魔力量が増えるんだよね。ここまでわかった?」

「うん!学園で言ってたことと真逆だってことが分かった」

「そうだね。そうなんだよね~……そもそも、五属性複合は五人でやる想定の魔法だから魔力量増えるでしょなんでそんなこともわ……ごめん、本音が……まぁそういうことだから、これからの魔法は今まで以上に簡単になるよ」

「今日のシェリア、すごく楽しそう」

「なんで!?あ、いや……前にもなんかあったね、同じ話。まぁいいや。今からの修行で言うべき注意点は一つだけ。この先は戦いを想定しながら魔力量を選択して。目安として、休憩なしで五十発。最初はそこを目指していこう。最終的に一日中星属性魔法を撃ち続けても問題ない配分を探していこう」

「五十……よくわからないけど、頑張る」


 アリスは、シェリアの言葉を頭の中で反芻しながら五属性の魔力の複合を始めた。その途中で、明確に引っかかる言葉だけがアリスの頭の中に残り始めた。それは少しずつ大きくなり、修行に集中できないほどのノイズになっていた。


「……ねぇ、シェリア。さっき『戦いを想定しながら』って言ってたけど、私は何と戦うの?」

「あ~、それはあくまでイメージの話。魔法をただ使えるより、いざって時を考えて実戦的に使えるようにした方が絶対にいいからね。私も、魔法を使うときは戦いを意識して……というより、私は常に魔王と戦いながら魔法を創っていたからさ。どの魔法も実戦レベルだよ」

「そういえばそうだったね。もしかして私も、魔王と戦わないといけないかもしれないってこと?」

「あ~……やっといた方が良いね。うん、そうしよう。魔王にあいさつに行くとき、戦うことにしよう。その方が魔法の修行にも精が出るしね」

「わ、わかった……シェリアと同じ『原初の魔』の魔王……勝てるかな」

「大丈夫大丈夫。今はもう私の方が圧倒的に強いから。魔法はこの場所で修行することが最適だけど、それ以外のことは旅しながらできるからね」

「例えば……?」

「肉弾戦。魔法の潜在能力を最大限生かすなら、自分の肉体で戦える必要があるからね。とはいえ、弟子たちには全く教えられなかったんだけど」

「それはなんで?」

「体を動かしながら魔法を扱える人がいなかったから。端的に言うなら、そもそもの問題だね」

「それって師匠も?」

「フレイザは……あ~、一応フレイザには教えてある。すべてではないけど、基礎の部分は教えた。ただフレイザは、いざ戦いになると魔法に頼ってしまう癖がある。回避や距離を取るみたいな受動的なことは常に頭にあるけど、攻撃に関しては本当にできないね。それでも一番優秀だったけど」

「なるほど。じゃあ、学園でやってた棒立ちで魔法を撃つだけの修行は、実戦的なことを考えると全く意味がないことだったんだね」


 アリスが何気なく話した学園の現状によって、シェリアは何度目かわからない衝撃を受けた。体を動かしながら魔法を使うことができなくても、弟子全員には「魔法を使って戦うなら、動きながら使えるに越したことはない」と教えていた。

 それを一切実践していないということは、シェリアの教えを何も伝えられていないか、伝える気が無かったことを意味していた。

「そうだね。それこそ、ずっと四天王を突破できない原因はそこだと思う。彼らはフレイザと同じレベルの魔法使いか、私みたいに魔法と肉弾戦を組み合わせられる人じゃないとまともに戦うことすら厳しいからね」

「さすがは、シェリアたちと一緒に世界を旅した魔物たちだね」

「まぁね。それに、私と魔王の大事な大事な一番弟子たちだからね。実力は折り紙付きだよ。とはいえ、アリスはそんな彼たちにも勝てるようにしないといけないよ。だから最終的には、体を激しく動かしても魔法を安定して使えるようにならないとね……さ、これで少しは意識が変わったかな?」

「うん!すごい納得できた。ありがとう」


 そう言うと、アリスは修行を再開した。今までの修行とは違い、魔力を練るときにしっかりと目を開けた状態で。それはアリスなりに考えた「実戦的な修行」であった。


「……やっぱり、私と一緒だなぁ」


 思わずそんな言葉がこぼれた。基本に忠実で、段階を一つ一つ堅実に進める。ずっと一緒に生活した魔王にすら苦笑された、シェリアの「魔」に対する向き合い方が、今のアリスにはあった。


「この調子なら、私は見ているだけで大丈夫そうだね」


 シェリアは地面に腰を下ろして、アリスが修行している様子を見守り始めた。

 魔法の修行によって以前よりも明るく、温かくなった森の中。世界の喧騒が届かないこの場所で、真剣なまなざしの少女と、そんな少女を柔らかくて優しいまなざしで微笑みながら見守る少女が魔法の修行に励んでいた。毎日、同じ時間同じ場所で。

 そして、二か月程の月日が流れた。







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