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第9話 克服と創世

「だいぶ良くなってるね。何か吹っ切れたって感じの表情してる」

「えへへ。これも、シェリアとにゃーこのおかげかな」


 三属性複合を始めてから五日目の朝、アリスは初めてシェリアから好評価をもらった。毎日のように練習したことで、日に日に止められるまでの時間は伸びていた。でも、今日は自分の中で複合を終わらせるまで止められることなく続けることができた。


「よし、あとはそれを何度も何度も繰り返して体にしみこませるだけだね。星属性以外は、今と同じ要領でできるからね」

「は~い!じゃあもう一回!」


 それから何度も、魔力の属性の組み合わせを変えながら三属性の複合をし続け、気づいた時には太陽が真上に来ていた。それまで一度も止められることなく、ほとんどすべての属性の組み合わせの魔力を複合することができていた。


「よし、ちょっと休憩にしよっか。休憩が終わったら、少し発展した内容に変えていこうと思っているからさ」

「わかった!でも、魔力を全く外に出してないからあんまり疲れてないんだよね。それなのに休憩するのってすごい変な感じ」

「いいの。もう、その辺は本当に抜けてないね。休みたいときに好きに休んでいいよって言ってるのに、私が言うまで休憩しようとしないし」

「学園時代の癖が本当に抜けなくてさ……休みたくても休めなかったから、休むって選択肢が無いんだよね、私の中に」

「じゃあもう今作ろう。『原初の魔』でも、休むって選択肢は持ってるもん。人間も生きていく上で絶対に持ってる方が良いって。どれだけ限界が深くても、生命体である以上はいつか必ず限界にたどり着くから。これは特に、今から無限に近い時間を生きるアリスだからこそ必要なんだよ」

「あ、改めて言われると気が遠く……」

「あ~、大丈夫だよ。気づいたら現れるから。アリスみたいにね」


 他愛のない話をしながら、いたずらに時間が経つことを二人で楽しんでいた。この時間は、さっきまで使われていた魔力をすべて最初の状態に戻す意図もあったが、それ以上にアリスがどんな状態であっても「休む」という癖をつけるための時間でもあった。三属性複合の訓練を始めて三日目から行っているが、少しずつ効果は表れてきていた。

休憩を始めた日は、シェリアがどれだけ誘っても休もうとしなかった。何度優しく声をかけても、何度強い口調で声をかけても休もうとしなかった。その後何度か押し問答がありつつ、シェリアが最終手段で魔力の動きそのものを封じる鎖を使ってしばりつけて休ませた。それ以降は自分の意思で休憩に参加するようにはなったが、シェリアが呼びかけないと休むことはできなかった。


「よし!今日もちゃんと休めたし、次の段階に行こっか」

「やった!やっと動くことができ……」

「ア~リ~ス~~~?」

「怖い!ねっとり言うのやめて怖いって!もう嫌だよあの鎖に絡められたり、変な液体の中に閉じ込められたりするの!」

「冗談だよ。さて、少し発展させようかな。その前に、ちゃんと体に浸み込んでいるのかを確認しようかな。じゃあ……雷、光、闇属性の魔力を複合するところまでやってみて。できたらその魔力を維持したまま私に教えてね。じゃあ開始」

「はい!」


 シェリアの合図で、アリスが休憩前の感覚を思い出しながら魔力の複合を始めた。十数秒後、アリスが「ふぅ」と一息ついてからシェリアに向かって親指を立てた。


「……うん、ばっちり。それじゃあ、その魔力をそのまま外に解放して。いつも通り、穏やかな魔力の状態でね」

「わ、わかった。やってみる」


 アリスはゆっくりと目を閉じ、複合したばかりの魔力に集中し始めた。「いつもと同じように」を意識しながら。いつもと違う魔力を扱うという感覚は新鮮で、数日間地味な修行をしていたアリスにとって本当に楽しかった。

 アリスの周りに、三属性の魔力が、複合された状態で風を作り始めた。風はいつもより勢いはあるが、安定していた。少しでも暴発の兆候が見えたら止めようと思っていたシェリアは、アリスの大きな成長を感じ、ゆっくりと頷いた。


「……どうだった?」

「いいね、すごくよかったよ。正直、想像以上だった。これなら、本格的に複合属性魔法の修行に移行していけるかな」

「ほんとに!?やったー!私、やっと克服することができたんだね」

「そうだね、おめでとう。多分、全部話したからちゃんと吹っ切れたんだと思う。それはそれとして、今日はさっきの魔力の解放だけをやり続けていこう。魔力が少なくなっても問題なく使えるようにする練習も兼ねているから、そこも意識してね。明日からの修行も、今日やったことが基礎になって来るし、魔力の消耗も激しくなってくるからさ」

「わかった!次はどの属性を組み合わせたらいい?」

「そうだね……じゃあ、次は火、風、闇属性の複合から解放までやってみて。次からは合図無しで行こう」

「合図無し……わかった。やってみるね」


 アリスは属性の組み合わせを変えながら、ただひたすらに同じ手順を繰り返した。その中で一度も失敗することはなかった。さらに途中からは、解放によって生じる風が、普段のアリスと同じくらい穏やかで優しい風に変化していた。

日が落ちる頃には、魔力の属性の組み合わせは二周目中盤に差し掛かっており、次第に属性の複合にかかる時間が短くなっていた。


「よし、今日はこれで終わり。家に戻ろっか」

「え!?もう終わるの?」

「うん。三属性の複合、完全に習得できてるからね。これ以上やる意味はないよ」

「……じゃあ、今日は歴史の続き聞かせてくれる?」

「もちろん。時間もあるし、あの日以降全然できてなかったからちょうどいい機会かも。それに……あの後の話すべてが、この世界の歴史において本当に重要で大切な話だからさ」

「やった~!私、ずっと聞きたくてうずうずしてたんだから」

「はいはい。じゃあ、ご飯を食べてからね。途中で途切れるのは嫌でしょ?」

「もちろん!聞くならとことんのめり込みたいからね!」


 様々な要因が重なって飛び跳ねてはしゃいでいるアリスと、そんなアリスを見て優しく微笑んでいるシェリア。月明かりに照らされながら帰路を歩く二人は、本物の親子のような温かさと、月明かりにも負けない輝きを纏っていた。





・・・





「さて、前に話した続きからだね。準備はできてる?」

「もちろん!」

「ふふっ。じゃあ、話していくね……世界を旅する中で、魔王によって四体の原初の魔物が、魔女によって五つの原初の魔法が創られた。原初の魔物は今の四天王とよばれていて、原初の魔法は始祖魔法と呼ばれている。始祖魔法のうち、最初に創られたものは魔王と魔女だけが使えて、残りの四つは魔女と魔王、そして四天王が一つずつ使えるようになってる。人間が魔王のもとに到達できない一番の要因は、四天王に勝てないからなんだ。私が人間界から離れてから一回だけ魔王と話したけど、一度も四天王を突破できていないらしいんだ」

「始祖魔法……この後私が習得しないといけないやつだよね」

「うん。とはいえ、星属性魔法に比べて簡単だから大丈夫」

「さ、最高難易度と比べられましても」

「私がちゃんと教えるから大丈夫。さ、続き行くね。そうやって、魔物や魔法を創りながら世界を一周した。その後、二人で話し合った。魔物にもいつか終わりは来る。もちろん、『原初の魔』である私たちにも。もし私たちが終わりを迎えたら、この世界のバランスは一気に崩れてしまうかもしれない。それを回避するにはどうすればいいのか、と……長い話し合いの末、私たちは一つの結論を出し、それを実行した。それは……鍵の継承」

「鍵……それって、初めて会った時の?」

「そう。あの時、鍵については説明したよね。あの時は『創造神からのおくりもの』で、『呪い』だって。あれは半分正しくて、半分嘘だったんだ。この鍵は、寿命を止めるための『鍵(呪い)』であるとともに、『原初の魔』である証明なんだ。この呪いは、『原初の魔』二人が同時にすべての始祖魔法を同時にぶつけ合い、世界そのものが壊れた時或いは、今の私たちみたいに、全く同じ顔と魔力の質を持った者と出逢い、契約によって『正式に命名』された時に解けるんだ。前者は呪いそのものが消滅、後者は呪いの引き継ぎが実行されるという形でね」

「『正式に命名』……それじゃあ、今の私の名前はどうなるの?」

「それは、『原初の魔』の二人以外の記憶から消滅するようになってるよ。だから、間違っても自分から言わないようにね」

「き、気を付けます」

「よろしい」


 そこまで話したシェリアは、書き続けていた手を止めてペンを置いた。


「この後の話は、正直中身がない話だから……確か、前の歴史書にも書いていなかったはず。『人間』が誕生するまでのことは、ただの暇つぶしでしかなかったからね」

「あ、もしかして……今までの話って、ほとんど人間界の歴史書に書かれていない話だったりする?」

「えっと……そうだね、部分的に書いてただけのはずだよ。だってこんな話、書いたら大変なことになるでしょ?だから、『人間』誕生まではほとんど書かず、『人間』誕生からの話を正確に明記してあったんだ」

「なるほど!でも、ほとんど中身のない話だとしても聞きたいかも。『人間』が生まれるまでの話」

「そこまで言うなら……旅が終わった後は、私と魔王は戦いの中から魔法や新しい魔物を創り出すアイデアを探した。何度も何度も戦って、戦績はほとんど五分。若干私が勝ち越しているくらいだった。創られる魔法や魔物は下位から最上位に至るまで様々で、お互いに創り出されたもののランク付けをしながら日々を過ごしていた。だいたい8000年くらいかな。その間、四天王は始祖魔法の引き継ぎという形で代替わりを繰り返し、それまでに創られた魔物は子孫を残し続けていた」

「8000年も……でも、魔法も魔物も、一年に一種類と仮定しても種類的にはそこまで多くないよね。もしかして、消されたものとかあるんじゃ……?」

「違うよ。最初の1000年は順調だったけど、それ以降は複雑な魔法、魔物を創る必要があったから作り出すまでの時間がたくさん必要になったんだ。だからまぁ、そのせい」

「なるほど……さすがのシェリアも、属性の複合には苦戦したんだね」

「もちろん。私は全知全能じゃないからね。さてと……この続きはまた今度かな。この後に始まるのは、『人間』の歴史だからね。今日はもう遅いし、休もうか」

「は~い。なんというか、シェリアは本当に長い時間この世界のために生き続けていたんだね」

「そうだね。でも……その鍵はアリスに引き継いだし、私は最後の旅をするだけかな」


 そんな話をして笑い合いながら、シェリアは机の上に広げていた本やペンを片付けた。

 創世記とも言えるような歴史の話は、二人が住んでいる森の植物たちも聞いていた。自分たちが見守ってきた世界の歴史。その話を懐かしむとともに、自分たちを生み出した最初の『原初の魔女』が本当に最期に向かって歩いているのだという実感が、植物たちの中に芽生えていた。







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