説明書なら捨てたよ
執務室に戻ってきた。
「今度逃げたら許しませんよ。」
「くっ…殺せ!」
「…はぁ」
逃げてないし。戦術的撤退だし。
「主な業務は書類処理です。基本的に危険な実務はありません。判断と承認が主ですので。」
なるほど。つまり——
「責任だけ重くて、全部あなたの仕事です。」
「最悪じゃん。」
「書類処理ですが、書類自体が効力を持っているので、権限を用いて修正すれば実際に反映されます。反映が確認された書類は消えます。」
えー、じゃあ爆発!!って書いたら爆発すんの?
「……何か変な事を考えてませんか?
流石に考えていないとは思いますが、星の爆発等を起こせば後始末で書類が膨大な量になりますよ?」
「は、はぁ?!違ぇし?!」
「……」
ねぇ俺の心読んでんの?毎度毎度鋭過ぎない?
「おっけおっけ。ま、とりあえずドーンて感じでやってくねー。」
「………………はい。」
あっは、めっちゃ間があんだけど。
話聞いてなかったんか?って感じの顔してんなコイツ…………コイツ?
「そういえばまだ名前も聞けて無いんだけど。」
そう言うと天使は不思議そうな顔をして、
「………?業務に必要ありませんが?」
……ハ、ハハ面白い冗談だ。…冗談だよな?
「い、いやいや冗談キツイって……。
そうじゃないでしょ、名前って。
業務に必要とかじゃなくてさ。呼ぶ時、不便でしょ?
それに、同僚の名前くらい知りたいけど。」
嘘でしょ……?
ここ牢獄だったりする…?
番号で呼べば良いのか……?
……逃げれないし牢獄ではあるかも。
どんなブラック企業だって流石に、互いに名乗りくらいはするだろうに…………する、よね…?
「あ、俺は直人ね、相良直人。」
「……ウリエルです。」
(……名前、ですか…。
私が、個として扱われるとは……)
そんな感じで、俺は天使──ウリエルと自己紹介を済ませたのだった。
「具体的な対処方法ですが……いえ、一度やってみる方が速いでしょう。
今回は私は後ろで見ていますので。」
なんか雑くね?
「説明面倒くさくなった?」
「違います。……権限の概要すら読んでいなかったので、冗長な説明は逆効果かと。」
俺は説明も聞けない馬鹿だと思われてるのか……。
確かに読んでねぇけど説明書(説明も聞けないバカ)
ていうか、なんで知ってんの?
ねぇなんで知ってんの?!ストーカー?!
……違うか。監禁犯だな。どっちかと言うと。
まぁ仕方ない。
とりあえず少しやってみるか。
俺達は書類のある机の方に歩んで行った。
うっわ……今更だけど何この椅子…。
我こそが神に座られるに相応しい椅子だ!って言わんばかりの華美さなんだけど……玉座かよ。
あの神こんなん座ってたん?笑
ハッ(鼻で笑う音)
まぁいいや、よいしょっと。
…………………………………………………………………
…………………………………………………………………
………………………はっっっ!!
気持ち良すぎて我を忘れる所だった。
……なるほどね。分かった。分かってしまった。
激務過ぎてこんなのでも座ってないとやってられないんだ…。2億だもんね。そうだよね…。
マジで気持ちいいな…派手だけど。
はぁ良い…派手だけど。
あーこのままちょっと一眠りし…
「っっ!」
寒気が、した。
身の危険を、感じた。
だ、ダメだ。
今は書類に向き合おう。
ってか、そもそもどうやって取るんだ?コレ…。
頂点なんて見えないし…
下から取ったら崩れるよな…?
あぁ管理者権限か。
便利やな…生前も欲しかったわ。
さっきとほぼ同じ感覚で良いかな?
「瞬間移動」
但し、対象は書類…っと。
その言葉を合図に、目の前に50cm分くらいの厚さの書類の束が現れる。
先程の瞬間移動の応用だ。
「んー、いいね。」
上手くいった。
まぁさっきのを少し弄っただけだしね。
ただ、思い通りにいくって言うのは気分が良いね!
……目の前に大量の書類が無ければ。
あまりにも多い書類の量に直人は、げんなりする。
あの東京スカイツリーですら麓から見ても頂点が見えるってのに、なんで紙重ねただけの物体の先端が見えないねん。
(……器用、ですね。書類の瞬間移動ですか。
インドラ様はいつも頂上まで飛んで行っていましたのに。)
やはりこの仕事に適正があるかもしれない、とウリエルが考えている一方、直人は
束の1番上の書類を取って、
「…………読めねぇじゃん。」
いや何語だよこれ。
絶対、神語とかだろ。だってもう字が偉そうだもん。まるで我こそが神に(以下略)
書類には、明らかに読ませる気の無さそうな、言語かも怪しい難解な文字列が記載されていた。
朕らは言語からして下界の愚民どもとは格が違うのじゃってか?……無いか。インドラ馬鹿っぽさそうだしな。
まぁいいや。読めなくても読むまでだ。
傍から見れば脳筋もいい所だが、これには理由がある。
そう、直人は読解力のスーパープロフェッショナルなのだ。自称だが。
読解力こそ、謙虚な直人が胸を張って誇れる数少ない生前の長所だ。
勿論、謙虚というのも自称である。
共通テストの英語でさえ単語も殆ど分からない中それだけで乗り切ったんだ。神の言語くらい読めなくてどうする。
……やってやるよ。
直人がそう気を引き締めた瞬間、
明らかに纏う雰囲気が変わった。その周りの空気が一段重く沈むように錯覚させる。
投げやりな態度から一変し、
その目から深い集中が見て取れる。
…………全然分からん。
神の言語は共通テストより難しいようだ。
当たり前である。
直人が書類と格闘し始めはや数分が経ち、遂にウリエルが声をあげる。
「もしかして、読めないんですか?」
「……ヨメテルヨ」
「権限の概要と一緒に創世語のパッケージも付いていたのでは?」
「……。」
創世語?
あぁ、この文字ね。
………説明書なら捨てたよ。
「それすら確認しなかったんですか……。」
だ、だって……
「あの説明書の名前言っていい?」
「?」
ウリエルは突然なんの話だ、と首を傾げる。
「 『インドラせんせいの
よくわかる!権限と世界のひみつ♡』 だよ? 」
「……。」
流石にイラッとしたのだろうか、ウリエルの眉が露骨に寄った。
「基本お淑やかな俺だけど、アレは流石にぶち殺すぞクソが。おほほほ。と言わざるを得ないよ。」
「権限で創世語を解析してみては?」
うーむ。そうなんだけど、
「やり方がよく分かんないんだよねー。」
説明書読んでないから。
瞬間移動も正直ノリでやったら出来たって感じだしなぁ。
ん?ってなるとさ、そもそも
「ねぇ、ウリエルさぁ今、日本語喋ってる?」
「っ……創世語ですが。おそらく最初の会話の際、インドラ様が意思疎通の為に創世語会話の能力だけインストールしたのでしょう。」
ふーん。中々やるじゃんインドラの癖に、
その時だった。直人の脳内にやたらと派手な
ジャンジャラジャーン!!
という音が響く。
……?
なんだ?管理者権限?
そう考え、直人が管理者権限を起動すると
『出産されたなう!!
産声あげる時に自分で後光差したら神の寵児だ!!とか言って崇められちゃったwww』
は?????
アイツ、人に仕事押し付けて異世界満喫してやがる……。次に会ったら絶てぇぶん殴る。
直人は拳を握りしめ固く決意した。
そもそもお前が行くなら転生じゃなくて良いだろ…
なに一丁前にセルフ後光出産とかいう高度なことやってんだよ、聞いた事ねぇよ。
ていうか出会った時のあれセルフ後光かよ。
『何満喫してんねん。ぶっ飛ばすぞ。』
返信の仕方は考えずとも自ずとわかった。
そういうものらしい。
『おぎゃーーー!!赤ちゃんだから分かんなーい!!』
コイツマジで……。
これが神とか末期だろ本当に。
『シバく。』
ダメだ。負けらんねぇ。
コイツに負けるとかプライドが許さなさすぎる。
いやもう、まず俺があんな奴らのやり方に合わせてたのが間違いだったわ。
それはそうとして、使えるものは使わして貰おう。
管理者権限、起動。
んーー、やっぱり難解だな。
まぁいい、適当だ適当。
結果さえついてこればいいんだよ!!!
─────出来た。いくぜ、
直人は書類に手を翳し言葉を紡ぐ。
「再構築」




