マジで行くの?!
「――そんな訳だから、異世界に行ってみないかい?」
神がそう言った。
後光が眩しくてその姿はよく見えない。
そして、俺は即答した。
「いや、自分で行けよ。」
「…………え、え?…は???」
神は固まった。
「いや、だから自分で行けば?」
俺は重ねて告げた。
「えぇー?!」
さっきから1文字しか発生していない神。
情けない声も相まって威厳と神々しさが台無しである。
そのままガックリ肩を落とすと口を開き…
「日本人高校生なら食いつくと思ったのに……。」
「偏見だろ。」
「だってみんな行くじゃん!!」
「いや行くの大体おっさんか引きこもりじゃね?」
俺どっちでもねーし。
「……確かに。」
神は悔しそうに歯ぎしりした。
光の中に歯だけ浮かんでて、普通にキモイ。
「それに俺トラックとこんにちはした訳でもねーし。」
トラックに轢かれて転生…
ってのはよく知られるジンクスだよね。
「そこは轢かれといてよ!!」
「轢かれといてよ!?」
……なんで俺神とこんなくだらない会話してんの?
轢かれてって何やねん。ドン引きなんだけど。
「いやぁ、でも僕世界の管理のお仕事あるからぁー。」
「じゃあ俺がやっとくわ、管理。」
「?!?!」
「大丈夫大丈夫。俺得意だぜ?あつまれどうぶ…」
「ちょ、ちょっと待った!!
それマズイからっ!!別の神の管轄だから!!!」
神界コンプラ激しいのか……。
「い、いやいや世界滅んじゃうよ。」
「いや得意だって言ってるだろ。あつまれどう……」
「ねぇ!?ダメって言ってるじゃん!!ワザとやってるでしょ!?僕が干されちゃうよ!!」
ウケる。
良く分からない流れになってきたぞ…とあたふたする神。動く度に目がチカチカするんだよ、正直やめて欲しい。落ち着けよ。
「えぇーーーー?ん〜〜〜〜〜。まぁ、いっか。もういいや!!管理者権限共有しとくね!あ、それ操作間違えると宇宙とかスクラップになっちゃうからね。よろしくね?じゃ、行ってきまぁーす!!」
……んぇ?
「?!……インドラ様!?!?!本気ですか?!正気ですか?!馬鹿なんですか!?!?」
隣にいたセミロングの金髪に氷青の瞳、背中に純白の双翼を持つ絶世の美女が言った。
その頭の上には淡く光る円環が浮かんでいる。
うわ、急に喋り始めたんだけど。
何、天使?生きてるの?
微動だにしてなかったから置物かと思ってたわ。
神の趣味かと思った笑
ていうかあの神インドラって言うんだね、名前。
…じゃなくて!!
本当に行くの?!ねぇ本当に行くの?!?!
世界の管理は?!おいっ!!
いや行けって言ったのは俺ではあるけども。
神が下界の生物の言うこと聞くなよ……。
「あっはははは悪いね天使くん。行ってきまーす。」
神は言った。そして行った。
どうやら完全に吹っ切れてしまったようだ。
嘘でしょ……?
いや冗談じゃん……。
逆に神に異世界に行かせた奴なんて、
なろうでも見た事ないなって思っただけじゃん…。
マジで行く奴があるかよ……。
天使取り残されてるんだけど。
あいつ馬鹿なの?舐めてんの?
………………いや、俺の言えた話ではないか。
「………。」
「………。」
……気まず。
無言で見つめ合う天使と俺。
天使は言葉を失っている様が見て取れる。
無理もない。
パートナー?上司?が立場放棄して何処かへ行き、1人残されたのだから。
…………残して消える側は楽でいいよな。
何か声を掛けなければ、と思うも相応しい言葉が思い付かない。
それ以前に、俺には彼女に同情する資格も、逃げたアイツを責める資格も、無い。
───何故なら俺も……
俺が視線を落としその黒瞳を仄暗く染めている間に天使は気を強く持った様子で。その目には覚悟を宿している。
「……仕方ありません。行きますよ。」
「へ?何処に?」
突然かけられた言葉の意味が分からず、呆けた顔で尋ねる。
「仕事ですよ!!」
「えぇ……。」
本当に俺が管理すんの?!
……………割とこの天使は強かなのかもしれない。
「ここが執務室です」
結局、執務室まで来てしまった。
逃がしてくれなさそうだったし、まぁ代わりにやっとくって言っちゃったしな。とりま見るだけ見てみよう。
執務室は中々豪華で、オシャレなインテリアが整えられていて、明らかに異世界の産物であろう骨董品の数々が、さりげなく飾られている
……のだが、流石はファンタジーと言った所だろうか。
オブジェが空中から生えていたり、落下途中の液体が宙で固定されていたり明らかに物理法則を逸脱している。
そして、
天井が無い
というのも――
「ねぇ、積まれてる書類の頂きが見えないんだけど……」
「はい。未処理の書類が、約2億件あります」
天使は、真顔で何でもないことのように言い放った。
「……。」
「約2億件です。」
「聞こえてるわ!!」
「どうしたらそうなんの!?
あの神、仕事サボってたの!?」
どんだけ仕事下手だったこうなるんだよ!!
「いえ。前任者は適切に処理しておられましたよ。
その結果、現在は比較的少ない方かと」
……それは何と比較してんの?
真顔で言うなよ……。
え、何?俺がおかしいの?
世の社会人って、億単位の書類を平然と捌いてるの?
……んな訳あるかっ!!
生前は学生だったから働いた事は無いが、
流石にこれはおかしいと言わざるを得ない。
なんでそんな「これくらい普通ですが?」みたいな顔で見てくるんだよ。
いや重ねて言うけど書類の頂見えねぇよ?
適切な…処理……???
もうこれは書類の積み方ってより書類の詰み方だよ。
く、狂ってる。
は、はは……笑えねぇー。
そりゃ異世界にも旅立ちたくなるわ。
…………………………よし、逃げよう。
また俺は…………。
いや、誰か代わりの適任者が来るに違いない。きっとそうだ。そう、思おう。
……俺には荷が重過ぎるよ。
根拠のない希望的観測に縋り、先程共有された力に手を伸ばす。
───管理者権限(?)起動。
んー……なんか結構複雑っていうか不可思議っていうか。
まぁ、説明書とか読まないけど。
うーーーん?
えーっと、ここをこうして……
……適当にこう!
この程度余裕のよっちゃんだぜ!!
「瞬間移動」
……潮の匂い?
波の音も聞こえるし、それに目を閉じてても分かるくらい日差しが強い。
海の近くに飛んだのだろうか。
そう思い、太陽のあるだろう方向に手をかざしながら目を開けると、
視界が一気に開けた。
目に飛び込んできたのは―――
金髪の天…使……?
「……何をしているんですか?」
天使は、ニッコリと笑って言った。
──さっきまで一度も見せなかった、笑顔で。
え゛?
なんで?
なんでいるの?
ここ、執務室から相当離れてるよな!?
俺、跳んだよな!?
初めて見た笑顔のはずなのに、冷や汗が止まらない。怖い。
本能が悟っている。
ここで選択肢を誤れば――死ぬッッ!!
「あぁ……悪魔だ……」
あ、やべ。
怖すぎて本心が漏れた。
「……あ?」
ひぃっ。
「ち、ちちち違くて!!
こ、これは…そう!試運転です!試運転!!
管理者権限の練習をしようかなーって!!」
「…執務室に戻りますよ」
「……はい」
(管理者権限を、概要すら確認せず使いこなすとは……。
いえ、そんな事より明らかに通常の挙動ではなかった。まさか、正規プロセスを踏まずに?そんな事が……?)
彼女は、なんにせよ適正ありと判断し、
逃走を許さないことを即座に決めた。
かくして俺は、有能すぎる天使に監視されながら働くことになったのであった。
……やっぱりあの天使は結構強かなのかもしれない。
途方も無く長い歴史を誇る神界に於いて前代未聞な珍事であり愚行。
即ち人間による管理者代行。
この類を見ぬ奇怪な事件を発端に、
いずれ神界は大きくその在り方を変える事となる。
初めて小説を書いてみました。
拙い部分も多いかと思いますが、楽しんで頂けたら嬉しいです。
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