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ナポリタン

「うぅむ。問題はどっちにするか、だな。」

スーパーで腕組みをしているのは万だ。

「俺は今日、ナポリタンの気分なんだ。」

昼はスパゲッティだぞと言う緑菜にそう告げると、だったら材料を買ってこいと言われた。

今日は桔平がおらず用意するのは2人分。どうやら緑菜は、缶詰のミートソースに追い挽肉をするつもりだったようだ。

「だいたい、簡単にナポリタンなんて言うが、切る物も多くて面倒臭いんだ。」

緑菜はブチブチ文句を言っていたが、そんなに面倒臭いもんか?麺を茹でて、炒めた野菜にケチャップと絡めるだけなんじゃねぇの?

万は首を傾げながら、スーパーで野菜を選んだ。

「ええと、ナポリタンといえば玉ねぎだな。あとは、人参と、あれだ・・ピーマン!そう、ピーマンだピーマン。」

ケチャップはあるか?・・あるな。うん、あるある。

確か、麺とケチャップとトマト缶はあるって言ってたな。ん?ケチャップ使うのに、トマト缶いるか?あれ?なんか俺、勘違いしてるのか?

・・・まあいい。

「よし、あとはウインナーだ。」

そのまま加工肉売り場にいくと、ウインナーを手に取ろうとして、隣にあるベーコンに気がついた。

「ちょっと待てよ。ウインナーじゃなくてベーコンか?」

自分としては、ウインナー一択だ。だが、緑菜はベーコンが好きだから、ナポリタンにもベーコンを使いたいだろう。何なら、ベーコンじゃないと作らないなんて言い出すかもしれない。それは困る。非常に困る。かといって、自分の中でナポリタンといえばウインナーだ。

万は、売り場の前で腕を組んで考え込んだ。

「うぅむ。問題はどっちにするか、だな。」

しばらく考えたあと、意を決して商品を手に取った。


「12時過ぎちまったな。」

家に戻ってくるとドアの前で足を止め、今しがた買った物が入った袋をしっかり持ち直した。

アイツは飛びかかってくるから、落とさないようにしないとな。

アリスからの熱烈な歓迎を思い浮かべ、ついつい顔がニヤけてくる。

家を出る時は、遊び疲れて寝ていたアリスを起こさないようにしたため、騒がれることはなかったが、帰ってきた時は別だ。アイツはいつも、ドアを開ける音で瞬時に気づいて、クンクン鳴きながら飛びかかってくるし、なんなら既にこのドアの前で忙しなく待っているかもしれない。

犬は裏切らないからな。

ここに連れてきた最初の頃は、怖がってケージの隅で丸まってたっけな。初めてジャーキーを手から食べてくれた時は、3人で大喜びしたもんだ。

俺のアパートには庭なんかないけど、犬好きの緑菜はすぐに原田のじいさんに掛け合ってくれて、アリスを迎える事ができた。

・・・まあ信用してもらうために、何度も3人で店に通ったし、原田のじいさんをここにも呼んだけどな。

フフッと笑うと、万は笑顔のままドアを開けた。

「アリース!・・って、あれ?」

ドアを開けて構えたが、アリスは飛びついてこない。それどころか、どこにもいない。

「お〜い、アリス〜?」

中に入っていくと、緑菜が振り向いた。

「飯を作るから庭に出してるぞ。」

チッ!放牧中か。

「ん?何か言ったか?」

「言ってない言ってない!それより、ほらちゃんと買ってきたぞ。」

万は慌ててマイバッグから品物を出すと、テーブルに並べていった。

「玉ねぎ、人参、これはササミか。アリスの分だな。」

「喜ぶから土産に買ってきたんだよ。味わうなんてこともしないで、ひと噛みで飲んじまうんだけどな。」

あれで味わかんのかな?と2人は顔を合わせて笑った。

「ん?なんでウインナーなんか買ってるんだ?ナポリタンだろう?」

やっぱり緑菜はベーコン派だったか。

うるさく言ってくる緑菜を無視してベーコンを出すと

「なんだ、ちゃんとベーコン買ってるんじゃないか。ウインナーは何に使うために買ったんだ?トッピングしたいのか?」

ベーコンを出しても、まだうるさい。

「俺の中で、ナポリタンにはウインナーなんだよ。ベーコンじゃなくて、ウインナーな、ん、だ。」

「おいおい、なに言ってるんだ?」

緑菜が玉ねぎの皮をパリパリと剥きながら反論してきた。

「ベーコンの強い旨味が、ナポリタンのトマトを引き立てるんじゃないか。火を通すことで、溢れるように脂のコクも出てくるし、やっぱりベーコンだろう。」

万はにんにくの皮を剥きながら聞いていたが、包丁の腹で潰して粗く刻みつつ言い返した。

「ナポリタンにベーコンを入れるのは、干し肉の角切りが入ってるようなもんだろう。ウインナーは挽肉からできてるんだぞ。使われてるスパイスもウインナーによって違う。肉の旨みとスパイスの旨みがナポリタンに加わることで、味の相乗効果を生み出すんだ。結局、ナポリタンにはウインナーだってことだよ。」

緑菜は手早く玉ねぎをスライスすると、コンロに深さのあるフライパンを置いた。

火をつける前にオリーブオイルをひと回しと、にんにくのみじん切りを入れて火を点ける。

「にんにくを火をつけないうちに入れんのか。」

「低温から火を通せば焦げ付かないし、旨みも香りも油にうつるからな。」

緑菜はそう言って大きく頷いた。

渡された人参を薄く切っている万の横で、だんだんと、にんにくの食欲をそそる香りが広がってくる。

「お次はベーコンだ。」

鍋に緑菜がベーコンを入れると同時に、斜め切りにしたウインナーを横から万が放り込んだ。

「あ!お前、何するんだよ!」

「良いじゃねぇか。作るのはお前だけど、買ってきたのは俺なんだ。俺も折れるから、お前も折れろ。」

ジュワアァ シュウゥゥ

ベーコンとウインナーの周りに細かい泡が立つ。ベーコンにはうっすらと焦げ目がつき、火が通ったウインナーは、そりかえってきた。双方の香りがにんにくの香りと相まって、食欲が増してくる。

口をへの字に曲げた緑菜が、ブツブツ文句を言いながら玉ねぎを放り込んだ。しんなりしてきた頃に、薄切りの人参を入れて軽く炒めると、カットトマトの缶詰を開けた。

「おいおい、ナポリタンだぞ!?」

「黙ってろ。」

緑菜はトマト缶の中身を投入すると、空いた缶に水を入れて軽く回し、缶についたトマトの残骸も残らず鍋に入れた。

「これじゃあ、ナポリタンじゃなくてトマトソースじゃねえか。」

「良いんだよ。作らないやつは黙ってろ。」

そう言って鍋にコンソメスープの素とケチャップを入れると、パスタを手で半分に折ってバラバラと入れた。

「え!ここに麺を入れちまうのか?」

「一緒に茹でる。面倒くさいからな。今は薄味だが、これから煮詰まるから問題ない。」

そう言って箸で時折かき混ぜていると、徐々に水分も減り、麺にも火が通ってきた。

「あんまり火を通すと色が悪くなるピーマンは、ここで入れる。クタクタが良ければ、もっと早く入れても良いけどな。」

そう言ってピーマンを入れると、煮詰まってきたスパゲッティに味を見ながらケチャップを足していく。

「よし。できたぞ。」

「おぉ〜。」

「サラダをつければ良いんだろうが、面倒だからトマト缶を使って野菜増しにしてるんだ。」

野菜不足にならないようにしてやってるんだぞ、案にそう伝えてるのに、万は全く聞いていない。

「早く食おうぜ!」

「・・・お前に気遣いしても無駄だったな。」

2人で向かい合わせに座り、ナポリタンを食べ始める。

パルメザンチーズとタバスコを用意したものの、入れるのはできた味を楽しんでからだ。

緑菜はベーコンを口に入れると、「うん!旨い!」と言った。

「なんだってウインナーも入れたんだよ。要は、肉の練り物じゃないか。俺はウインナーも好きだ。茹でてパリッと食べるのも良い。焼いて表面が裂けたところのカリッ、ブリッとしてるのも旨い。おでんに入れると他の具材と一体化した出汁になるし、ブリンッと裂けたところを食べるのも好きだ。だがな、ナポリタンにはやっぱりベーコンなんだよ。」

緑菜はそう言いながら、タバスコを振りかけた。

「お前はそう言うけど、このナポリタンの味が決まってるのは、ウインナーのおかげだからな。ウインナーの旨味をスパゲッティの麺が吸ったからこそ、この味が出てるんだ。ベーコンに、この複雑な味は出さないだろう?」

万はウインナーを口に放り込んだ。

「俺だって、ベーコンは大好きだ。そのままステーキのように焼いても旨いし、薄切りをカリカリに焼いたのも旨い。味が凝縮されるからな。このスモークの香りと脂の甘みが最高なんだ。でもな、ナポリタンはウインナーじゃなきゃダメなんだ。」

そうして万は、パルメザンチーズを大量にかけた。

「そうだ。桔平にも聞いてみようぜ。」

「うん?アイツはいま仕事中だぞ?」

「いや、この時間は休憩のはずだ。今日は移動時間があるから、昼が遅くなるって言ってただろう?」

「ああ、そんなこと言ってたな。」

「まあLINEなら送っても良いだろう。仕事中なら読まないだろうし、手が空いてれば読むだろう。」

早速3人のグループLINEに『ナポリタンに入れるのはウインナーかベーコンか』というお題を送ると、間髪入れずに既読になった。

「おっ!アイツ早ぇな。」

感心しながら見ていると、コメントが返ってきた。

「ウインナーだよー。だけど赤いウインナーじゃなくちゃダメ。そうじゃなければベーコンかな。ちなみに、」

「赤いウインナー?なんだそりゃ。」

「アイツは子どもだからな。で、コメント途中できれてるけど、続きはなんだ?」

2人揃って画面を見ていると、ポコンッと追加コメントがきた。

「魚肉ソーセージのナポリタンも美味しかったよ」

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