番外編③「良子・和夫」
朝。鏡の前で前髪を整えながら、良子はスマホのカメラでチェックを欠かさない。
「ん~、もうちょいだけ巻くか……」
今日の服を脳内コーディネート。最近は少し大人っぽいのが気分らしい。
「良子、朝ごはん冷めるわよ~」
母・和代の声に「はーい!」と返しつつも、テーブルにつくのはいつもギリギリ。
父・鉄男が新聞を読みながら「時間は守れ」と小言を飛ばす。
「はいはい、父ちゃんうるさーい」
笑いながら口を尖らせるのも、日常の一コマだ。
学校では今どきの女子らしく、友達とSNSの話やアイドルの話で盛り上がる。
けれど、誰かが少し落ち込んでいるとすぐに気づき、さりげなく声をかけるのが良子の良さだ。
「大丈夫?今日ちょっと元気なかったじゃん」
明るいだけじゃない、優しさもちゃんと持っている。
放課後、校門を出た良子は、コンビニに寄ろうかどうか迷っていた。
そのとき、少し先の道で、ランドセルを背負った弟・和夫が、空き地にしゃがみ込んで何かを見ているのを見つける。
「ちょっと、和夫ー! 何やってんの?」
和夫は振り向くと、顔を輝かせて言った。
「アリが行列つくってる! ほら見て! パンくず運んでるんだよ!」
「またそんなとこで寄り道して……母ちゃん心配するでしょ?」
そう言いながらも、良子もついしゃがみ込み、一緒にアリの行列を見つめる。
「……ねえ、これ、どこに運んでるんだろ」
「たぶんアリの町に持ってってるんだよ。で、パン祭りするの」
「パン祭りってなに(笑)」
「知らないの? 俺ん中では毎週あるよ」
くだらないやりとりに笑いながら、ふたりはゆっくり歩き出す。
赤く染まった空の下、並んで歩く兄妹の背中に、涼しい風がそっと吹いていた。
「ただいまー!」
「……え、誰?」
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