十五品目 特製カレー
澪が退院して数日後――
まだ少し足を引きずる澪が、両親とともに矢崎家の玄関をくぐった。
昭一が一番に駆け寄ってくる。
「おお、澪……!」
「よかった、本当に……」
母ちゃんがそっと澪の肩に触れた。
すると、澪の両親が頭を下げた。
「娘が、何度もご馳走になったようで……ありがとうございます」
「ええ、それに……この家で、澪は本当に明るくなって。笑顔を取り戻してたんです」
父親の言葉に、母親も頷く。
「事故のとき、昭一くんが、体を張って娘を庇ってくれたって……」
「そ、そんなの当然ですって……」
昭一は照れくさそうに頭をかくが、頬はうっすら赤い。
「今日はね、特製のカレー作って待ってたから。お腹すいてるでしょ?」
矢崎家の台所から、あの懐かしいスパイスの香りが漂ってくる。
ちゃぶ台の上に、揚げたての唐揚げと湯気の立つカレー皿が並ぶ。
みんなで並んで座ると、自然と笑いがこぼれた。
昭一は澪の両親に向かって、縁側の横の棚を指差す。
「これ、ぜんぶ父ちゃんコレクションなんすよ。ラジカセに、インベーダーゲームに、あと……これ見てください!“足踏みミシン”!」
和夫も負けじと「こっちは俺のソフビ!」と、得意げに並べる。
すると、良子がスマホを取り出して「ちょっと並んで並んで!写真撮ろうよ!」と声を上げる。
ちゃぶ台の前にぎゅっと
座る6人。
昭一がやや緊張しながらも
「タイマー、セットできた……よしっ」
カシャッ、とシャッター音が鳴った。
「……不思議ですね」
澪の母親がぽつりとつぶやく。
「何がですか?」と、鉄夫が聞き返すと――
「まるで……昔から、こうやって集まってた気がするんです」
すると、鉄夫が湯呑を手に、どこか遠くを見るように言った。
「ちゃぶ台を囲むってのは、家族だけのもんじゃねえ。血のつながりとか、そういうの関係なくてさ……一緒に飯食って、同じ空気吸って、心配して、笑って……」
少し照れくさそうに目を伏せたあと、こう締めくくった。
「それで十分。――もう、家族みたいなもんだろ? 家族って、そういうもんだ」
「コーヒー淹れたよ!インスタントだけどね」
母ちゃんが手に持って現れたのは、湯呑み。
しかも、昭和の観光地土産っぽい、ちょっと色あせた絵柄付きのものばかり。
澪の両親、目を疑う。
(……湯呑みにコーヒー?……)
鉄夫が目を細め、
「この湯呑み、昔、箱根で買ったやつだ!
俺が小学生のとき!懐かしいなぁ」
「まだ割れずに残ってるのがすごいよな」
昭一がコーヒーを啜りながら、にやりと笑う。
「うん……おいしい」
澪の母が一口飲んで、少し驚いたような顔をする。
「なんだろう、妙に落ち着く味ね」
「それが“昭和味”ってやつよ」
母ちゃんが誇らしげに胸を張る。
澪の父も静かに湯呑みを手に取り、しばし眺めたあと、
「こういう時間も……いいもんだな」
とつぶやいた。
良子がすかさずスマホでちゃぶ台を囲むみんなの様子をパシャリ。
和夫はというと、最後の唐揚げをまだもぐもぐしていた。




