十二品目 焼きそば
夕暮れの公園。ブランコの鎖が、ぎぃ、と風に鳴っていた。
和夫はベンチに座り、ウルトラマンのカードを手の中でじっと見つめている。
友達に言われた言葉が頭から離れなかった。
「昭和っぽいってさ。古くさくてダサいって」
笑いながら言われた一言が、やけに胸に刺さった。
みんながスマホの話や新しい動画の話で盛り上がる中、自分だけ“古いもの”を好きでいることが、急に恥ずかしくなったのだ。
そこへ、スーパーの袋を提げた昭一と澪が通りかかった。
「……あれ? 和夫?」
「どうしたの?」
声をかけられても、和夫は目をそらす。
「……別に。なんでもない」
けれど、昭一はその様子を見逃さなかった。
袋を地面に置き、ベンチの隣に腰を下ろす。
⸻
「そうか……。昔な、俺もよく言われた。“古くさい”って。自転車が変とか、家がタイムスリップしてるとか」
和夫がちらりと顔を上げる。
昭一は空を見上げながら、笑って続けた。
「でもさ、古いもんってのは、誰かが大事にしてきた証拠なんだよ。新しいだけがカッコいいわけじゃねえ」
その言葉に、澪がそっとうなずいた。
「私もそう思う。古いって、言いかえれば“変わらない”ってこと。変わらないものがあるって、すごく安心するよ」
公園の風がやわらかく吹いた。
ベンチの上のカードがふわりと揺れて、ウルトラマンの笑顔が夕陽に光る。
「……俺、やっぱ好きなんだ。昭和のヒーロー」
「いいじゃねえか。ヒーローはな、時代が変わってもヒーローだ」
昭一の言葉に、和夫の顔がようやくほころんだ。
⸻
三人で歩く帰り道。
風鈴の音がどこかの家から聞こえてくる。
家へ帰ると、台所から母ちゃんの声が響いた。
「おかえり! 今日は焼きそばだよー!」
どこか元気のない和夫に良子は気づく。
「どうしたん?あんた大好きでしょ、焼きそば」
「いや~、俺も経験あるんだけどさ……」
昭一が代わって説明した。
事情を聞いた父ちゃんが、新聞を畳みながらぼそりとつぶやく。
「“古くさい”ってのはな、“変わらねぇ”ってことだ。変わらねぇもんがある家は、強いんだ」
良子も和夫の頭を撫でながら言った。
「あんたね~、他の家と違うからいいんじゃない。なかなか無いよ、こんな特殊な家。SNSでもバズりまくるから私は好き」
湯気の向こうで、家族の笑い声が広がる。
和夫はちゃぶ台の前に座り、照れくさそうに言った。
「……じゃあ俺、“昭和ヒーロー”でいいや」
その言葉に、みんなが笑った。
ちゃぶ台の向こう側――そこには、確かに“ヒーローの心”があった。




