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第三十一話 未来

 初めに動いたのはソラニエル。

 塩の槍を数本創出し、牽制とばかりに赤毛の少年へと撃ち出す。狙うは少年の左半身。白い槍が空を裂く。

 同時、サライエルが駆け出した。

 物凄い速度で距離を詰めて来るサライエルを視界に捉えながら、少年は右手で塩の槍を容易く弾く。飛び回る虫を手ではねのけるような、無造作な一振りだった。


(右手で弾いた。やっぱりサラに左腕を斬られたせいで、左半身は脆くなってる)

(狙ってきましたね、左半身。やはり、左側に罅が入っているのは誤魔化せませんか)


 たった一瞬の攻防で、ソラニエルと少年は情報戦を繰り広げる。

 少年の肉体は左半身が脆くなっており、そこならば、ソラニエルの魔術でもダメージが通る。

 左半身の弱点を見抜かれたと悟った少年は、姿勢を変えて、右半身を前方に出すような半身の構えを取る。

 そこに突っ込んでいったのは、長剣を振りかぶったサライエル。

 瞬間、少年の身体が低く沈む。

 疾走の勢いを乗せて、サライエルが横薙ぎに振り抜いた一撃は、少年の右頬の辺りを深く抉るに留まった。


(躱された? いや、これは――――)


 低く沈んだ少年の身体。そこから起き上がるように打ち出すのが、炎を凝縮した右の拳。

 灼熱の拳が、サライエルの腹に叩き込まれる。


「熱っつ……!」


 ある程度の傷は覚悟のカウンター。

 燃える鉄拳はサライエルの腹に火傷を残しつつ、彼女を数歩ノックバックさせる。


(決まった! カウンター! 次の一撃で決める!)


 勝機を確信し、少年がさらに踏み込む。

 腹に良い一撃をもらって怯むサライエルに、トドメの炎を撃ち込もうとする。

 掌に凝縮した青い炎。彼女の左頬に炸裂させるはずだった爆炎は、地面からせり出した塩の障壁に防がれた。


「ナイスアシストです、ソラニエル」


 走る斬撃は一条。

 サライエルが渾身の力を以て振り上げた刃は、少年の胴体を袈裟懸けに斬りつける。

 常軌を逸した威力で放たれた斬撃は、少年の胴に裂傷を刻むに留まらず、その衝撃を以て吹き飛ばす。


(((浮いた!)))


 中空を舞う少年。

 三者の思考が一致する。

 空中に投げ出された少年は身動きが利かない。故に、跳躍したサライエルに追撃されれば、回避行動を取れず死ぬ。

 だが、空中であるとはいえ、少年は一時的にサライエルとの距離を離している。火属性による反撃を行うには、絶好の機会であるとも言える。


「ブレイズ・オン・フィスト……」


 気付けば、呟いていた。

 本来、それは必要無い。

 塩の怪魚を素材にして肉体を再構成した少年の身体は、以前より魔力に馴染んでいる。そのため、彼は覚えた魔術を全て無詠唱で扱える。

 次で決めるという意思の強さが、少年にかつての習慣をなぞらせていた。


「角度、落ちる、右前……」


 漏れ出た言葉に、サライエル自身は気付かない。

 ただ、タイミングを見定めて、宙を舞う少年へと跳躍する。

 角度もタイミングも完璧。一秒も無く、サライエルは空中の少年へと到達するだろう。ただ一つあった問題は――――

 ボロ、と音を立てて崩れた刃。

 サライエルの膂力によって振るわれる衝撃、塩の怪魚の鱗に打ち付けられる損耗、加えて、炎を纏う少年を斬りつけたことによる熱。

 サライエルが高く跳躍する勢いが最後の引き金となり、摩耗し切った長剣は崩壊した。

 結果、サライエルは丸腰で空中に飛び出す。その先に待つのは、右の手刀に蒼炎を凝縮させた、赤毛の少年。

 千載一遇の好機に、少年は手刀を振りかぶる。

 過度に凝縮された炎熱は、さらにその青色を強く灯し、咎人を焼く煉獄と化す。


「ソラニエル!」


 空中で、サライエルが伸ばした手。

 地上にいる彼女の方へ手を伸ばし、精一杯叫ぶ。


「武器を!」


 瞬間、ソラニエルは塩魔術を起動。

 一瞬で塩を創出し、圧縮し、超密度かつ超高度の長剣と成す。

 物理的な限界を超えて加圧された塩の長剣は、パキパキと氷が割れるような音を立てる。


「頼んだよ、サラ」


 撃ち出された塩の長剣は、瞬きの間にサライエルが伸ばした手の中に収まった。

 純白の剣を握ったサラ。そのまま空中で身を回し、白い刃を走らせる。

 晴れ渡るように真っ白な、大空を割る白撃。

 蒼炎すらも振り払う白い一閃は、少年の手刀を叩き割り、少年の胴体を両断し、青空に斬撃の跡を刻んだ。

 元より無理に加圧されていた塩の刃は、今の一撃と共に砕け散り、塩の破片となって降り注ぐ。少年の骸と共に、サライエルもまた落ちていく。


「これで、手に入るんですよね」


 ゆっくりと落空しながら、ソラニエルは呟く。


「未来」


 どこまでも広がる純白の大地に、塩の雪が降る。

 塩の怪魚討伐戦、決着の時であった。

決着、そして未来へ

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