サバービアン(郊外生活者)の秘かな愉しみ
これは小説習作です。とある本を開き、ランダムに3ワード指差して、三題噺してみました。
随時更新して行きます。
【お断り】「郊外、悪口、美しさ」の三題噺です。
(以下、本文)
【Aいわく】
郊外って、一体どこから、どこまでが郊外なんだろう?
東海道新幹線を東京駅から下れば、行けども行けども住宅とマンションと工場と量販店のでっかい看板が続く。
左右ともお茶畑の田園風景を楽しめるのは、やっとこ掛川あたりまで来た時だ。
大平原の国から来た人が、生まれて初めて東海道新幹線に乗ったら、「小田原も熱海も東京の衛星都市なんだろう」的誤解が生じてしまうのではなかろうか。
今や日本中が郊外だ。
【Bいわく】
確かにね。
中央線を例にとれば、吉祥寺→小金井→立川→八王子と下るにつれて「東京の衛星都市」が「多摩の地方都市」へとグラデーションになってるんだけど、住んだ事のない人には説明しづらいしなあ。
【Cいわく】
茨城県つくば市は面白いよ。
東西南北ドップリ田園地帯の中に「郊外」がコツゼンと現れる。まるで「天空の城ラピュタ」だ。
研究都市なもんだから、車のナンバーも北海道から沖縄まで勢揃いしてるしね。
【Aいわく】
多摩生まれ、多摩育ちのB君は都会と地方の格差を感じたことある?
【Bいわく】
あるともさ。東日本大震災の時に思い知らされた。
東京に原発が無くて良かったよ。
【Aいわく】
震災の時、つくば市はどうだったの?
【Cいわく】
福島が、いよいよヤバくなってきた頃、つくば駅の前にキャリーケース提げた人たちが行列を作っててさあ。みんな何とも言えないクラい顔して。
「この町は逃げ場のある人と無い人の、二種類で構成されてたんだなあ」と、つくづく思ったよ。
ホントッ、東京に原発あったら、どうなってたんだろ。
【Aいわく】
住民の文化程度は、どうすれば分かる?
どこへ行っても似たようなお店と、似たような文化ホールがあるだけなのに。
【Bいわく】
住民図書館を見れば分かるよ。
特に辞書とか置いてるレファレンス・ルーム。
今どき、わざわざ図書館まで足を運んで調べものするのは、ホントの知識階級または文化愛好者だけだからね。
【Cいわく】
郊外の悪口大会は、これくらいにして、良いトコにも目を向けない?
ニッポン中が似たような郊外になるのは、やっぱコスト・パフォーマンスが良いからであってえ。
文化遺産の豊富な町に住んでる人たちは、いろいろガマンも強いられてるよ。
【Aいわく】
別に悪口言ってる積もりはないんだけどなあ。
昭和・平成・令和と、街作りのノウハウは信じられないほど進化したよ。
昭和のプロジェクトX時代に造成された住宅地には、車がすれ違い通行できないのもあるもん。
造成計画上、「車は最低でも一家に一台持つ」とは想定されてなかったワケ。
【Bいわく】
まあ、街路樹イッポンでも、そこに美しさを見出す自分ではありたいな。
そうでなきゃ、結局、どこへ行っても同じだよ。
【Cいわく】
と言いつつ、今回の大喜利にはロマンスもサスペンスも歴史大河ドラマも無いね。
【AとBが口をそろえて】
そりゃそうだ。これ、郊外の話だもん。