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第9話 眠りし竜の目覚め

――地竜の巣・街道から少し外れた盆地



「ギギャァァア!」

 二本足で立ち、胸元の近くに小さな腕を持つ、人の背丈ほどの恐竜の姿によく似たトカゲが、緑色の皮膚を赤く染めて悲鳴を上げる。

 どさりと土埃を舞い上げて、地面に横たわるトカゲ――地竜の絶命を確認してから、彼女はこう周囲に問いかけた。


「これで最後?」


 彼女は長く絹のように繊細な黄金色(こがねいろ)の髪を振るい、男たちへ顔を向ける。

 すると、地竜退治に剣を振るっていた男たちは答えを返す。


「はい、オリカさん!」

「そう」


 オリカと呼ばれた女性――――ギルドランク5ベスタ級・風使いの剣士。

 自然の美しさを封じたかのような新緑の瞳に見つめられた男たちは、その美に魅了され、熱に浮かされたように頬を紅潮させている。


 報告を受けたオリカは、メビウス形の装飾が剣の(つか)を包む、一風変わった細身の剣に風の魔法を纏わせて振るい、剣にこびりついていた血を払う。

 そうして、金の装飾が(ほどこ)された白色の鞘へと戻す。


 周囲の男たちはその流れるような仕草に、一時、心を奪われて手を止めてしまう。

 ボーとしている男たちへ、オリカは薄い桃色の唇へ笑みを纏わせて、少しだけ怒った口調を見せた。


「あなたたち、ぼーっとしてちゃダメじゃないの? 地竜の死骸の確認。しぶとく息を吹き返されたら大変だから。それと、一部は地竜の巣穴の確認。卵が残ってたら破壊して」

「は、はい、了解です!」

「くす、まったく」


 

 地竜との戦いで傷を負い、自身の血と返り血で汚れている男たちとは違い、小さな笑いを立てたオリカには傷一つなく、白のスラックスに緑色の剣士服を纏う衣装にもまた、血おろか一粒の砂すら存在しない。


 彼女は、作業を行いながらも自分のことをちらちらと見ては奇妙な笑顔を見せる男たちへ、小さく眉を折った。

(戦士業は男社会。女の私じゃ、代表として受け入れられないと思っていたけど、そうでもなさそうね。しっかり私の指示に従ってくれてるし、かわいいくらい素直)


 ちらりと男たちへ瞳を向ける。

 当の男たちはオリカに聞こえてないと思っているのか、何やら話をしている。

「ううう、男臭い世界に紅一点! よかったぁ、むさくるしい親父に()き使われるかと思ってたし」

「ああ、こんなに良い香りのする戦場は初めて。ああ、たまらん。クンカクンカ」

「馬鹿、お前だけで吸ってんじゃねぇ。俺にも吸わせろ。スーハースーハー」



 オリカは小さなため息をつく。

(戦士じゃなくて、女として見られてるのはどうかと思うけど、このくらいなら……)



「しかし、もうちょい贅沢を言えば……」

「ああ、そうだな。十九歳という美味し時の美人さんで目の保養になるんだが、もっとな」

「わかるわかる」


 男たちはのぞき込むようにして、だらしない視線をオリカへ向けた。

 その視線の集まる先は――――胸と尻。


「まぁ、控えめは控えめで味があるんだが……」

「もっと、こう……な! 別の意味で目の保養をしたいというか」

「それはそれで前かがみで戦うことになっちゃうかもな」


「「「あははははは!」」」



 オリカはこめかみに筋を浮かべる。

(やっぱり、男って!! そんなことばかり考えてるんだから!!)

 ジトリと睨みつけつつ、彼女はねっとりと彼らへ尋ねた


「あなたたち~、何が楽しいの~?」

「「「ひっ!?」」」

「さぼってないで確認作業!!」

「「「さーせん」」」



 男たちは蜘蛛の子を散らすようにバラけって行った。


 オリカは大きなため息を吐いてから、視線を地竜の巣へ向ける。

 ここは盆地。

 周囲は十メートルほどの高さの崖に囲まれた場所。

 そこに空いた大きな穴が地竜の巣だった。


 穴は自然にできたものではない。何者かによって掘り起こされた跡がある。

(人間の手によるものじゃないわ。地竜は名前の通り、卵を産む際に地の穴に籠ると言われてるから、そのためにこの子たちが掘った? にしては、大きすぎるような――――っ!?)



「ひぃぃぃ!!」


 突然の戦士たちの悲鳴。

 それは巣穴の奥から響いてきた。

 地竜の生き残りと卵の確認作業を行っていた戦士たちが、足を絡ませ転がりながら巣穴から逃げ出してきている。


「あなたたち、何があったの!?」

「お、おりかさん。こ、ここ、ここ、ここは地竜の巣じゃない!!」

「え?」


「グアァァアアァア!!」


 巨大な咆哮と共に、地竜の巣穴だった場所が内側から吹き飛んだ。

 吹き(すさ)ぶ岩と砂塵に視界を奪われてしまうが、オリカは新緑の瞳に小さな瞼と言う傘を被せて、線のような視界にその姿を見た。


 彼女は一言、こう言葉を落とす。


「あ、あれは……金竜」

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