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この俺に本気で勝てると思っているのか?〜偽りの一族に埋もれた、神を殺す力を持つ少年〜  作者: 雪野湯


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第8話 期待外れのお仕事

――――俺が住んでる王都『ニースモデル』より北方150地点



 この地域で竜もどきの魔物・地竜の(ねぐら)が発見されて、三十人を超えるギルドメンバーで討伐しに行ったんだけど……。


「なんで!? 俺は討伐に参加できないんだぁあぁぁぁぁあぁ!!」


 俺は森に囲まれた街道のど真ん中で叫んでいた。

 その叫び声を聞いたギルドメンバーの先輩が俺の頭を小突いてくる。

「うっさいわ! 黙って仕事しろ!!」

「いった!? 後頭部ごりって感じで殴るのやめろや! 軽くても、その殴り方だと滅茶苦茶痛いんだよ!!」

「まったく、ワーワーうるさい上にわがままな坊主だなぁ」



 そう言って、ギルドメンバーの先輩にあたるレックスが無精ひげを(さす)りながらため息を漏らしている。

 年齢は確か二十二歳。


 この人はよく酒場を出入りして、よく歓楽街を出入りして、よく風のお姉さん(※風俗関係のお姉さん)にビンタされていて、よく賭け事で揉めていて、よく酒を飲んでいるダメな人。

 だけど、残念ながらランクは俺よりも六つ上のギルドランク4・アークトゥルス級。

 通り名は豪炎の魔装腕(まそうわん)の使い手レックス。



 レックスは散切り黒色頭をぼりぼりと掻いたかと思うと、似合わないサングラスをクイっと上げてから言葉を出した。

「あのな、竜退治つっても、セドナのお前が戦力に入るわけないだろ」

「だからって、交通整理なんて……」

「ほらほら、旅人か行商人かしらんがこっちに来てるぞ」



 レックスは右手を振って、俺に追い返せと指示する。

 その彼の右手には金属製の真っ黒なガントレットが。それは左手にもある。

 双方ともに手のひらはむき出しだが、手の甲はしっかりと覆われてガードされてあった。


 あれが彼の武器。


 その武器はただのガントレットではなく、手の甲に火炎の力を宿した魔石と言う名の石が仕込まれてある激レアな武装で、殴ると灼熱の炎が噴き出すという危険な代物。

 これが豪炎の魔装腕(まそうわん)の使い手と言われる所以(ゆえん)だ。



 対する俺は、質屋から救い出してきた鉄製のロングソード。特別な武装をしているレックスが少し――いや、かなり羨ましい。



 俺は彼に言われた通り、通行止めなのに無理に通ろうとしているおっさんに声を掛けた。

「すみません、現在通行止め中なんで、迂回してもらえますか?」

「ふざけんな! こっちは急いでるんだよ!!」

「いや、この先の盆地で地竜の巣が発見されまして、現在討伐中なんですよ。ご理解のほどを……」

「その盆地ってのは街道から離れてるんだろ!! だったらちょっと通るくらい大丈夫だろ!?」

「いやいや、万が一ということもありますから……」

「か~っ、ぺ! これだからギルドの連中は使えねぇな!!」



 おじさんは快く納得してくれたようで、痰を吐き捨ててここから立ち去った。

 俺はロングソードの(つか)を握りしめて、こう一言。


「斬りてぇ……」

「気持ちはわかるがやめとけ、アルムス」

「だってさぁ、レックスの兄さんよ! あんな言い方ある? 危ないのは子どもでもわかるじゃん」

「ああいう奴もいるってことだ。学べてよかったな」

「よく言う、嫌なことを押し付けただけのくせに……」

「あはははは」


 レックスは腕を組んで大声で笑う。

 俺はそんな彼の武装をちらりと見た。魔装腕(まそうわん)の他に、腰元にナイフ。あれは刃物の名門サーベイ社製の高級品。

 服装は青色のカーターシャツに灰のスラックスにこげ茶のベルトを撒き、内側に無数のポケットがある黒マントを背負うという簡素なものだけど、全て名の通ったブランドのもの。

 さすがにアークトゥルス級だけあって、実入りがよさそうだ。



 対するセドナの俺は、安物の茶色の戦士服に、同じく安物の若草色のマントを纏っているだけ。で、腰にはやはり安物のロングソード。

 セドナの自分と彼を比較して、ポロリと言葉が漏れる。


「はぁ、早く稼げるようになりたい……」

「うん、なんだ? 借金でもあるのか? 少年なのに豪気だな」

「豪気って、なんで遊び金に(つい)やしてる感じで言うんだよ。俺の場合、普通に生活費に困ってるだけ」

「セドナでも普通に仕事してれば、暮らす分には問題ないだろ?」

「仕送りしてるから、そうもいかなくて」


「仕送り? あれ、お前ってたしか……」

「孤児だけど、世話になった村の修道院に仕送りしてるんだよ」

「か~、良い子ちゃんだねぇ。でもよ、自分の生活も成り立たないのに仕送りするなんてアホだろ」


「アホ言うな! 村も修道院もそんなに豊かじゃないから、少しでも助けになりたいんだよ。俺の方は食っていければ十分だし」

「へ~ん、ほんとに良い子ちゃんだな。俺にゃ無理だが……ま、お前が稼げるように、祈るくらいはしてやるよ。ほにゃるほにゃほにゃっと」



 両手を組んで雑に祈るレックスに、俺もまた雑に礼を返す。

「はいはい、あんがとさん。ま、ともかく、今回の仕事には納得のいかない部分もあるけど、実入りはいいし良しとするか。でも、次はもっとちゃんと評価される仕事をして、早く上のランクに上がらないと」


「おいおい、そんなに金に飢えてるのか?」

「それもあるけど、上に上がれば色んな情報に触れられる権限を得られるだろ。そうしたら、俺の両親を殺した盗賊のことを調べやすくなるし」


「そういや、そこらへん全然わからないんだってな」

「辺境の村で、ギルドの力も及んでないし、領主からも興味を持たれてない地域だったしな。だから、ちゃんとした捜査もなくうやむやになってる」

「そうか……」


「その件を含めて、とにかく早くサン級に駆け上がって、俺を拾ってくれた村へ恩返ししたいんだよ」

「お前の様子からして、復讐よりも恩返し優先って感じだな」


「何か悪いか?」

「いや、いいんじゃねぇか? 憎しみ恨みに飲み込まれるよりかは。だけど、サン級って、無理だろ」


「なるね、俺はなるよ!」


「なってどうすんだよ?」

「ほら、サン級になると、望めば領主に成れる可能性があるんだろ? 俺の生まれ故郷も育った故郷も、現領主から見向きもされない村だから。もし、成れるならそこを戴こうと思ってね」

「どうして?」

「貧しくても税はある。それを無くしたいんだ。俺が領主になれば、みんなを楽にしてあげられる」



 そう答えると、レックスは空白の()を挟み、小さく笑った。

「……ふふ、子どもだな」

「なんだよ、子どもで悪いか?」

「いやいや、人の夢にケチをつける気はねぇよ。それよりか仕事に集中しようぜ」



 と言いつつも、レックスは大きなあくびを漏らして、春の木漏れ日が届く暖かな場所で横になった。

「こら、レックス! さぼろうとするなよ! 集中はどうした?」

「うっせいなぁ。どうせ暇なんだしいいだろ。ほらみろ、周りの連中を」



 そう促されて首をきょろきょろ……交通整理を任されたはずの俺よりも年上の大人たちが、やることもなくゴロゴロとしている。

「どうしようもねえ、大人たちだな! はぁ、やっぱりこんな仕事じゃなくて討伐に参加したかった……」

「参加してどうすんだ? 危ないだろ」


「経験が得られる! 俺は自分がまだまだだとわかってる。だから、経験を得たいんだよ!!」

「相手は地竜だぞ。坊主なんぞ、経験を得る前に食い殺されちまうわ。それによ、これもまた経験経験」


「クッ、なんでこんな奴がアークトゥルス級なんだ。ってか、あんた、討伐部隊の中だと最高ランクじゃん! なんで討伐に参加してないんだよ!?」

「あん? そりゃ、新進気鋭の風使いの女性剣士・ギルドランク5・ベスタ級のオリカちゃんに手柄を譲ってあげるためな。だからこれは、断じてさぼりじゃないし、楽してお金を稼ぐためでもない!」


「なんて大人だ。こうはなりたくない……」


 

 レックス率いる大人たちは皆、思い思いにさぼって真面目に仕事をしていない。

 仕方なく俺は封鎖の入り口部分に立って、滅多に来ない通行人を見張ることにした。

 すると、突然レックスが飛び起きて、ポンっと手を打つ。

「そうだ! アルムス、お前、金を稼ぎたいんだよな?」

「うん、そうだけど?」

「なら、美味い話がある。くくくくく」


 そう言って、嫌らしい含み笑いを見せながらレックスが懐から取り出したのは――トランプだった。

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