第7話 竜退治!?
――――――開店前の酒場店内
「竜・退・治!?」
青髪のおかっぱ頭で眼鏡を掛けた二十代半ばくらいのギルドの使いから伝えられたのは、ナ、ナント!?
――竜退治の依頼!!――
「いや~、まさか、こんな大仕事が舞い込んでくるとは! てっきり、昨日の騒動が伝わってて、なんか怒られるのかと思ってたよ」
俺はホッと胸を撫で下ろす。
使いの青年は体をすっぽり包む長い白衣を揺らして、それについてこう返してきた。
「昨日の話はすでに民間の方から届け出が来て、いきさつは聞いているよ。君に責任はないし、例のギルドメンバーの彼らも相応の罰を受けることになった」
「よかった~。いや~、喧嘩両成敗とかになったらどうしようと、ちょっとは思ってたんだ」
「ただ、本来彼らが竜退治に参加する予定だったから、その穴埋めに君が選ばれたんだ。言い方は悪いけど、つけを回された形になっちゃうね」
「いやいやいや、全然オッケーっすよ。だって、こんなことでもないと、ランク10のセドナの俺に竜退治なんて回ってこないし。いや、ラッキー!」
俺は浮かれて意味もなく体をうねらせて、奇妙な踊りを舞ってしまう。
その様子を見た青年が何かを言っているが、有頂天の俺の耳には届かない。
「いや、さすがに戦力として、セドナの君に期待はしていないよ。君は後方支援に回ってもらって、直接竜退治に関わるわけじゃないから」
「ああ、そうだ! 武器! 武器が必要だ!」
しかし、その武器は現在質屋さんで主である俺の帰りを待っている!
俺はルドルフのおっちゃんの前に立ち、両膝をついて、額を床に擦りつける。
「御家賃も満足に払えていない身でお恥ずかしいですが、どうか、前借りさせてください」
「それは構わないから、土下座はやめなさい。自分を安売りしてはダメだぞ、アルムス」
「さーせん!」
俺は立ち上がり、深々と頭を下げる。
そして、竜退治に期待を膨らませて、胸を躍らせるのであった。
――――ノヴァ
ノヴァは浮かれるアルムスを置いて、ギルドの使いにブラッドストーン色の瞳を振った。
青年は深紅の虹彩に封じられた黒目に睨みつけられるが、まったく動じることなく、ルドルフに軽く会釈してから、レンズの内側にある金の瞳をノヴァへと向けて小声を漏らす。
「何か、不満でも?」
「わざわざ、あんたがお越しなんてね。言っとくけど、お兄ちゃんに余計な横槍を入れるようだったら、本気で許さないよ」
「そんなつもりはないよ」
「だったら、竜退治なんて――」
「竜と言っても、その正体は名ばかりのトカゲの魔物・地竜。本物の竜じゃないし」
「それでも、難易度はギルドランク5ベスタ級でしょ?」
「そうだけど……君は過保護がすぎる。彼の成長を促したいなら、多少は冒険をさせてやらないと」
「余計なお世話。それは私がすること。だから――」
「これは後方支援だって。彼の役目は危険地域の交通封鎖とその見張り。むしろ、曲がりなりにも、竜退治に参加できたという実績を得られるようにしたんだから、感謝してほしいくらいだけどなぁ」
「うそばっかり、何か企んでるくせに」
「やれやれ、信用無いなぁ」
「あると思ってるの?」
『あんた』と、棘のある呼ばれた方をした青年はこめかみをポリっと掻いて苦笑を見せる。
しかし、次に彼が出した言葉に、今度はノヴァの方が苦々しい顔を見せることになった。
「これは昨日の君の勝手な行いのせいで、こうなったんだよ」
「あっ、それは……」
「人手が足りないというのに、なんで勝手に処分しちゃうかなぁ?」
「何よ、あんな連中がギルドの一員であることが間違ってるでしょ」
「その判断はこちら側にあって君にはない。君には罰として神竜討伐に行ってもらうから」
「冗談! お兄ちゃんが竜退治に行くのに私がついていかないわけないじゃない」
「許可しない。神竜が相手となるとランク1・サン級の君しかできないこと。他のサン級は王都から離れていてすぐには無理だし。それとも君は、神竜が王都を蹂躙する姿を見たいかい?」
「むっ」
「それこそ、大切なお兄ちゃんの命が危険にさらされると思うけど?」
「あ~、あ~、もうわかった。で、その神竜はどこにいるの?」
「王都から南西200の地点。年老い、叡智を失い、野生のまま振舞っている。知恵ある竜たちが止めに入ったが、抑えきれなかった」
「その尻拭いを私が? それで、私の他には?」
「いない」
「は? 神の名を冠する竜相手に私一人で対処しろって言うの?」
「君ならできるだろ。それに、銀竜と炎竜がサポートについてくれるってさ。金竜にも協力をお願いしたかったけど、現在長期睡眠期間で無理だって」
「まったく、自分たちのことは自分で処理しなさいよ……依頼を受ける前に、一つ尋ねておく」
「なんだい?」
「お兄ちゃんの竜退治。隊のリーダーは?」
「ランク5・ベスタ級のオリカ。新進気鋭の風使いの女性剣士だ」
「最近、成り上がってきた子ね。だけど、その人だけじゃ」
「ランク4・アークトゥルス級・豪炎の魔装腕の使い手レックスもいる」
「ああ、あのさぼりたがりのお兄さんか。オリカよりもランク上なのに、リーダーじゃないんだ?」
「彼が嫌がってね」
「はぁ、あのお兄さん、たまに酒場に顔を出すけど、普段も仕事もダメダメな人っぽい。でも、安全優先で名高いお兄さんがいるなら、まあ……」
ノヴァはルドルフの肩を揉んでいるアルムスの姿を目にして、軽く眉をひそめつつ、こう青年へ返事をした。
「わかった。神竜はなんとかする」
「ああ、頼んだよノヴァ」
「ええ、任せておいて。ギルドマスター・ケフェウス」