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第6話 不死者狩りの末裔……のはず

――――早朝・酒場ナイキストの路地裏


 

 俺は人通りの少ないこの時間帯に、いつもここで鍛錬を行っていた。

 今日もいつものように、上半身の肌を晒し、木刀をしっかり握ってブン、ブン、ブンと振り続ける。


「せい、せい、せい!」


 その様子を、短い石段の上に小さなお尻を置いたノヴァが見学していた。

 彼女は俺のキレッキレの筋肉を見つめて、感心交じりの言葉を発する。


「一晩で傷が綺麗に治ってるし。相変わらず、すごい回復力」

「ふふ、それが俺の取り柄だからな。せい、せい、せい!」


 俺は木刀を振りながら答えた。

 その様子をじっと見つめるノヴァは眉折り曲げて、何やら考え事をしているようだ。


(お兄ちゃんは不死者に対抗するために生み出された不死者狩りの末裔だから、回復力が高くて当然なんだけどね。本人はそのことを知らないけど)



「おい、ノヴァ、どうしたんだ? なんか悩み事か?」

「え? いや違うよ。あ、そうだ。お兄ちゃんって子どもの頃のこと覚えてるの?」

「なんだ、唐突だなぁ。まぁいいけど。そうだなぁ、一番古い記憶は五歳ごろだな。盗賊たちに村を襲われて、俺以外のみんなは殺されて、両親の死体が腐っていくのを黙って見てた」


「あ、ごめんなさい。変なこと思い出させちゃって」

「いや、すでに克服ってほどじゃないけど、ある程度整理できてるし」

「あの……ほかに思い出とかは?」


「思い出ねぇ……父さんや母さんが、俺の名前を呼んでた記憶が少しあるだけかな。死体を見てたショックのせいか、顔はあんまり思い出せないんだけど」

「そうなんだ……」


「その後は、隣村に住むシスターのクーデさんが、村が連絡を断ったことを不審に思い、様子を見に来て、俺を保護してくれたこと。あとは修道院での暮らしの記憶かな」

「ふ~ん。でも、そのクーデさんって人はたしか……」


「うん、ノヴァと初めて会ったときにも話したけど、今から三か月前……俺が十五歳になる手前でクーデさんは病で亡くなったんだ。その間際に、ギルドに知り合いがいるから面倒見てもらえって言われて、このネッド王国の王都ニースモデルにきたんだよ」

「そのギルドの人も亡くなってたんだよね?」



 ここで俺は木刀を一時降ろして、大きくため息をついた。

「そうなんだよ。そこで途方に暮れてどうしようかと思ってた時に、運よくルドルフのおっちゃんに拾ってもらって今に至るってわけ」


 ここまでの話を聞いていたノヴァはふむふむと何かを納得した様子を見せたかと思うと、次に長い沈黙を見せている。

(あの村は絶滅したはずの不死者狩りの末裔を秘密裏に囲っていた。という、情報をソフィアから得てるから、お兄ちゃんが不死者狩りの末裔であることは間違いないと思うけど……たぶん、お兄ちゃんは子どもだったからよく覚えてないんだろうな。はぁ、私も知識不足だからなぁ。ギルドマスターに尋ねれば、もっと詳しくわかるんだろうけど、あんまり借りを作りたくないんだよねぇ)



「おい、ノヴァ? また、考え事か? やっぱり悩み事でも……?」

「え? いやいや、そうじゃないよ」

「そうか? ま、何か相談事があるならいつでも乗るからな」

「うん、ありがとうね、お兄ちゃん」


 こちらに微笑みを渡すノヴァに同じく微笑みを返して、俺は再び鍛錬に戻り、木刀を振るう。

「せい、せい、せい!」


 ブンブンと鈍い音が路地裏に響く。

 俺はその途中で鼻をスンスンと鳴らす。



「くんくん、さっきから思ってたんだけど、なんかさ、血生臭くないか?」

「え!?」

「なんだろ、生ゴミ? どっかに散らばってるとか?」

「ああ~、それなら、私が朝のお掃除の時に生ゴミの入ったバケツを倒しちゃったからだと思うよ!」

「そうなんだ。怪我はなかったか?」

「う、うん!」


 何故か慌てた様子を見せたノヴァ。その後も小さな声で、もごもごと何かを言っている。

「空間を封じてちゃんと片付けたはずだけど、匂いが残ってのかな?」

「どうした、ノヴァ? やっぱり悩み事が?」

「ちがうちがう! あのね、え~っと、そうだ! お兄ちゃんの剣の振り方がちょっと変かなって?」


「俺の剣が? いや、なんでノヴァにそんなことわかるんだよ?」

「ふふ、こう見えても私、お店に訪れる戦士さんとかをよく観察してるもん。だから、それくらいわかっちゃうんだよ」

「ホントかよ?」

「うん」

「ふ~ん、怪しいなぁ」



 俺は片眉を折り曲げて、いかにも疑う顔を見せた。

 するとノヴァは石段から立ち上がり、ビシッと人差し指を突きつけて不満の声を露わとす。

「ああ~、ひどい。じゃ、証明してあげるよ! クソザコナメクジなお兄ちゃんが、少しはマシになる様にアドバイスしてあげるんだから」

「だから、そのなんとかナメクジはやめろって! 女の子が口悪い言葉を使わない!」


「また、頭の固いおじさんみたいなこと言って……」

「妹を思う優しいお兄さんと言いなさい。それで、その妹ちゃんは優秀なお兄様にどんなアドバイスをしてくれるのかなぁ~?」

「この~、バカにして。そうだね。まず、剣を降ろして、右手だけを上にあげて」

「ああ、わかった」



 俺は言われた通りに剣を左手に持って、(から)となった右手を上げた。

 それを確認すると、さらにノヴァは言葉を続ける。

「右手を手刀の構えにして、風を切るように降ろす。はい、やってみて」

「こうか?」


 シュンっと、音を割く音が響く。


「今の感覚を覚えた? じゃあ、次は木刀を右手だけに持って、同じように掲げて」

「はいはい、こうか?」

「うん。それじゃ、木刀を手の延長上だとイメージして、無理に力を入れずに楽にして、木刀の重みに身を任せて、自然体で風を切るように振り下ろす」

「おう」


 再びアドバイスに従い、木刀を振り下ろす。

 すると、ヒュンッという風斬り音が鼓膜を震わせた。


「おおお! なんだ今の!? 今まで聞いたことのない音がしたぞ!!」

「お兄ちゃんは剣を振るう時、ブンブンブンブンと振り回すだけで無駄に力を入れすぎだったからね」

「え? しっかり(つか)は握ってないとダメだろ?」


「それは必要最低限でいいんだよ。基本は雑巾を絞る感じで握る。お兄ちゃんは雑巾を引きちぎるくらいの強さで握ってるし。とにかく、必要な力以外は、体から固さを抜いて自然体で構える。さ、今の感覚を覚えているうちに、両手で木刀を持って。次は、目の前に敵がいるとイメージしながら振ってみて」

「お、おう」


 両手で木刀の(つか)を柔らかく握る。そして、上段に構え、イメージした敵の頭に狙いを定め、木刀の重みに身を任せるがまま一気に振り下ろす。



――ビュン!



「おおおおおお! いま、すっごい良い音が出たぞ!! なんか、こう、剣の達人が出しそうな!!」


 先ほど聞いた音――剣速は今までにないほど速度で、目に見えぬ空気を真っ二つに両断した感覚。

 俺は昂揚する気分を隠さずに声を大きくする。


「ノヴァ! 凄いな、お前!!」

「えへへ、そう?」

「戦士を観察してただけで、こんな極意をマスターしているなんて――そうだ、もう少し大きくなったらギルドに入れよ!! お前ならあっという間にランク7のハウメア級、いや、その一つ上のランク6・マケマケ級に上がれるんじゃないか!!」


「……うん、そうだね」

「あれ、微妙な返事。もしかして、ギルドに興味ない?」

「そういうわけじゃないけど……ほら、それよりも感覚を忘れないうちに」

「そうだった。自然体で、おりゃあああああ!!」



 ブン、ブン、ブン、ブン、ブン!


「あれ? 元に戻った……」

「だから、無駄に力を入れすぎなんだって!!」

 そう言って、ノヴァは頭を抱えてまたもや考え事をする。

(もう、不器用なんだから。ちょっとしたアドバイスでちゃんとできるから、才能はあるんだろうけど。でも、不死者に対抗するために造られた一族と考えると……不安になるなぁ)



 何やら、ノヴァの期待を裏切った感をひしひしと感じる。

 俺は妹分である彼女からの期待を取り戻すために、もう一度気持ちを落ち着かせて木刀を振るおうとした。

 すると不意に、酒場の裏口の戸が開き、酒場のマスターであるルドルフのおっちゃんが顔を出してくる。


「アルムス、鍛錬中に済まないが、ギルドから使いの方が来ているぞ」

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