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第43話 神を殺す兵士

 ノヴァと異形の戦士の猛攻でさえ、神に与えた傷は頬のかすり傷と肩口の裂傷だけだった。

 しかし今、その神は右腹部を失い、苦しげな声を漏らしている。

 

 レックスたちはゆっくりと神から視線を外し、瞳をアルムスの姿へ合わせる。

 彼は無言のままうすら笑いを浮かべて、痛みに顔を歪める神の姿を見つめ続けていた。


 神は穿たれた右腹部を睨みつけ、瞳に力を籠めると傷は再生し、少年としての姿を取り戻す。

 そして、焦りの色が濃く滲む声を生んだ。


「神兵……神を殺す兵士。そのようなモノがいたとは。しかも、この力は?」



 沈黙を友としていたアルムスが口を開く。

「あらゆる次元の存在を否定する力。あなたたちに対する特効の力」


 彼から生み出された声を聞いたレックス・ノヴァ・オリカの背筋に寒気が走った。

 それは全く別人の声だったからだ。

 快活な少年の姿とは似つかわしくない、暗く淀んだ少女の声。

 聞く者の耳を腐らせ、心を闇に犯されるモノ。



 それでも、ノヴァは辛うじて言葉を絞り出す。


「あなたは誰? アルムスお兄ちゃんはどうなったの?」

「アルムスお兄ちゃん? ふ、ふふふ、フフフフ、面白い。神が人と並び、歩んでいるんだ」

「か、み……」



 アルムスの姿をした少女の声はノヴァを神と呼んだ。

 この言葉は、ノヴァと言う存在がかつて神だったと突きつけるものだった。そのため、彼女は小さな混乱に見舞われる。

 しかし! その混乱を心で(ぎょ)し、もう一度アルムスの名を呼ぶ。


「アルムスお兄ちゃん……お兄ちゃんは無事なの?」

「あら、もしかして慕っているの?」

「へ!? そ、そういうのじゃない!! 私は普通に心配しているだけで!!」



 神と呼ばれて我を失いかけようとも、それを強き心で抑え込んだ少女が、アルムスを思い取り乱す。

 その姿がとても愉快に見えたのか、少女の声を漏らすアルムスは笑った。


「フフフフ、本当に面白い関係。安心しなさい。このアルムスは無事だから」

「本当に?」

「ええ」


 アルムスの無事を聞けて、ノヴァは安堵の息をつく。

 そこにレックスが交わってきた。

「このアルムスってことは、あんたもデブリみたいにアルムスの一人で、別のアルムスってことか?」

「まぁね。私を呼ぶときは~~~~そうね、ダストとでも呼んで」


 

 ダストは気怠そうに片手を上げて、皆に下がるようひらひらと動かす、

「……さてっと、みんなは下がってね。今から私は、遥か過去に消え去ったはずの私を引きずり出したお馬鹿さんの相手をしてあげないと行けないから――――ね、神様ぁ~」



 ダストは腐り落ちた豆のような糸引く笑みを見せる。

 その笑みに誰もが恐怖を覚えたが、最も恐怖したのは神ゴルゴーであろう。


「ふ、ふ、は、は、はぁ、くっ、人如きが! 私に歯向かおうというのか!?」

「相手は創造神級の神か。さぁ、構えて。行くよ」


 言葉が終わると同時に、少女の声を纏うアルムス――ダストは姿を消す。

 そして、次の瞬間には、少年の姿をした神ゴルゴーの腹部を拳で叩きつけていた。



「がはぁあぁ!!」

「神は痛みを感じない。それは、痛みを遠くへ捨て去り忘れてしまったから。だけど、私はあなたたちに痛みを思い出させてあげられる」

「おのれぇぇえぇ、光よ、奴を消失させろぉぉぉぉ!!」


 神は光の球体・刃・線・壁と次々に生み出してダストへ襲い掛かった。

 輝きは瞳を白に染めて、一時的にその視界を奪う。


 皆は何度も瞳をこすり、白だけの世界に形を思い出させようとする。

 (まばた)きを繰り返し、光の中に立つダストの姿を見た。



 ダストには傷一つついておらず、大きなあくびを交えて気怠そうに立っている。

「ふぁぁあああ。まさか、今のが本気?」

「――っ! これならばどうだ!!」

 

 手のひらに光を収束する。あれは先ほど、世界を消し去ろうとした力と同じもの。それを近距離で一気に放った。

 ダストはその光の塊を右手で受け止め、いともたやすく握り潰す。



――ボス、という枕を叩いたような下らない音と共に光は消え去った。


 神ゴルゴーは足元を震わせて、一歩、足を下げる。

 対するダストは、光を握り潰した手のひらを見つめていた。


 焼き焦げ、皮膚が剥がれ落ち、血が滲む傷跡。


「もろい体。ひどい素体を利用したようね。これじゃ、あんまり無茶はできないか」

 それを見た神が狂乱の声を上げた。


「ひひひ、ひひひひひ、あははははは! 内包する力は強大であっても、体がついてきていないようだな。ならば、何度でも攻撃を重ねて――――」


「フフ、フフフフ、きゃはははははは!」


 神の言葉を奪い、ダストは笑う。笑い続ける。

「キャハハハハハハハハハ!」


 薄暗がりの空へ顔上げて、狂ったように笑う。

 しかし、突然ピタリと笑いを止めると、神にこう言葉を渡した。


「一惑星の管理しか与えられない、創生神級の末席にしか座れぬ弱神如きが――――この私に本気で勝てると思っているの?」


 ダストはパチリと指を跳ねた。

 すると、長い四つの木杭が虚空から現れ、神の四肢を穿ち、彼を立ったままの姿で大地に縫いとめた。

 神はそれに抗おうとするが、四肢は微動だにしない。


 ダストは後ろを振り返り、異形の戦士へ話しかける。


「ここはあなたの世界。とどめは譲る」

「……感謝する!」



 異形の戦士は、四肢を大地に縫いつけられた神の前に立ち、大剣を構えて、低い姿勢をとる。

 それに神は慈悲を乞うが――――。


「ま、待て、私が消失すればこの世界は!!」

「問答無用! 皆の仇だ!!」


 ずぶりと、鈍い音と共に大剣が神の腹部を貫いた。

「がぁっ」


 神の短き叫び声――――しかし、それさえも存在許さじと、異形の戦士は大剣を上方へ貫き、神の頭を二つに割った。


 神の上部は二つに分かれ、メリメリと音を奏でながら体を割いていく。

 肉体からは血は零れず、代わりに光の粒子が煙のように立ち上り、霧散し、やがては消えた。

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