第4話 大勝利!
――――酒場前の広場
俺は礫から受けた傷の具合を確かめる。
(よし、一度だけなら全力で動けるな。そのあとは動けなくなるだろうけど、それで十分)
フ~っと、一度大きく息を吐いて、リーダー格の男へと顔を向けた。
「飛燕礫だっけ? それじゃあ、俺は止められないな」
「あん?」
「なぁ、兄さんよ。そんな下らねぇ技で――――この俺に本気で勝てると思ってるのか!」
「このガキがぁぁぁ、なら死んどけヤァぁああ! 飛燕礫!!」
三度、石礫たちが俺に襲い掛かる。
鋭く鋭利な石たち前に俺は――そこへ飛び込んだ!!
「おおおおおお!!」
「な、何を考えて?」
「てめぇの技はなぁ、軽いんだよ!! 滅茶苦茶痛いが、急所さえ守れば命を奪えるもんじゃねぇぇええ!!」
両腕を使い、腹部と顔面を守り突貫。
礫の弾幕を突き抜けて、男の面前へ迫り、俺と男の視線が超近距離で交差する。
「隙だらけだぜ」
「ちょ、待――」
「待つかよ! おらぁぁぁあぁ!!」
男の鼻に頭突きをかまして鼻骨を砕く。
「いぎゃあああ!」
その悲鳴も束の間――男の髪を掴み、足払いを食らわしつつ石畳の地面に叩きつけた。
「ぎゃ!」
そして、表面がざらざらの石畳に顔を擦りつけて顔肉を削いでいく!!
「このこのこのこのこのこの!!」
「ひぎぃいぎいいぎ、やめやめ、いぎゃぁっぁあ!!」
最後にとどめとばかりに、革靴に包まれた右足の指先を拳のように固めて、男の腹部を蹴り上げてやった。
「とどめじゃい!」
「がはぁ――っ…………」
短い声を残して、男は完全沈黙。
気を失っていることを確認して、俺は拳を天に突き上げた。
「どうだ、俺の勝ちだぁぁあぁ!!」
この勝利宣言と同時に、雷の轟きのような歓声が広場を埋め尽くす。
「おおおお、すげぇええええええ!」
「あの少年、勝ちやがったぞ!!」
「しかも、ハウメア級相手に!!」
「あの子、セドナなんだろ!! 大金星じゃねぇか!!」
ここでノヴァの声が届く。
「アルムスお兄ちゃん、カッコいい!!」
俺の名を聞いた広場の人々が、口々に名を上げ始める。
「アルムス!?」
「あのギルドの子はアルムスって言うのか」
「やるな、アルムス! 最高だぜ」
「アルムス、アルムス、アルムス!!」
評判の悪かった三人組のこともあるのだろう。
俺に対する声援がお城よりも高く突き抜ける。
(めっちゃ、きもちいいいいい!! こんなの初めて! ああ、ギルドの所属してよかったぁぁ!)
俺は皆さんの声援に応えて手を振る。
すると、さらに声援は盛り上がり、より一層の快感が全身を駆け巡る。
(た、たまらんわ)
快感に酔いしれながらも、俺はそのきっかけを作ってくれたノヴァに親指をグッっと立てた。
すると、ノヴァも親指を立てて返す。片手には救急箱。
それを見たとたん、痛みを思い出して、その場で片膝をついてしまった。
「あたたたた、やば、もう立ってられない」
「肩を貸すぜ、アルムス」
「え?」
ガウスのおっさんが俺を支えてくれた。
そして、こう伝えてくる。
「俺たちの誇りを守ってくれて感謝する。アルムス」
「な、なんだよ、らしくねぇなガウスのおっさん」
「俺だって礼くらい言えるさ。だから、茶化さないで黙って感謝されてろ!」
「あはは、そっちの方がおっさんらしい」
「うるせい! それにしても、お前、根性あるんだな。悪いが、口だけの小僧だと思ってたぜ」
「はは、運が良かっただけだよ。相手が必殺技なんて持ち出さず、肉弾戦に持ち込まれてたら負けてた」
「だからわざと煽って、あの礫を出させたってわけか」
「まぁね」
「がはは、結構こずるいな」
「そこは頭が回ると言ってくれよ! って、あの三人組は?」
いつの間にか、三人組がいなくなっている。
すると、おっさんがこう答えてきた。
「のびた男を二人が支えて、そそくさと逃げてったのを見たぞ」
「そうか。あとは明日にでもギルドに報告して、これからは粗暴な真似をしないよう注意してもらないとな」
「その前に治療だな」
「へへ、だねぇ~」
称賛の雨が降り注ぐ中を、俺はガウスのおっさんの肩を借りて、救急箱を手にしているノヴァのもとへと向かう。
この出来事がきっかけに、俺はこの地区でちょっとだけ有名になった。さらに、最低ランクであるセドナにはありえない仕事が舞い込んでくることになるのだった。
――――逃げた三人組
リーダー格の男は途中で意識を取り戻して、削れた顔の部分を怨嗟の声に包む。
「いて~、いて~、許さねぇ、あのクソガキぃ」
「許さねぇって、どうすんだよ?」
「ギルドに報告されたらいろいろ面倒になるぞ。ランク下げられるかも」
「うるせい、そんなことどうでもいい。あのガキだけは許さねぇ。絶対、きっちり、礼をしてやる。おい、あいつのことお兄ちゃんと呼んでたガキがいただろ。身内か?」
「ああ、いたな」
「だけど、あの子は酒場の子みたいで、あのクソガキの本当の兄ってわけじゃなさそうだぞ」
「じゃあ、なんであんなに親しいんだ?」
「あの酒場は宿もやってるから、そこに部屋を借りてるんじゃね?」
「ガキの癖に、早朝から酒場から出てきたくらいだしな」
「へへへ、なるほど。親しい人がいる大切な場所ってか…………消してやる」