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第30話 壁の向こう側

――――昼食後の昼休み・曲がり角の行き止まり前



 俺とノヴァとレックスの三人。そして、岩壁に興味を示したオリカを加えた四人で行き止まりの壁の前に立った。


 壁は周囲の人工的な青白い壁とは違い、灰黒い岩壁。

 俺はそいつを指さしてレックスに話しかけた。


「ここだけ、自然の岩壁なんだよ」

「ふ~ん」


 レックスが近づき、拳の裏で岩壁を叩く。

 彼の拳裏は金属製の魔装腕(まそうわん)に覆われているため、金属特有の甲高い音が通路に響く。

「ふむふむ、中が空洞ってわけでもなさそうだな。やはり、ただの生成ミスだろうな」

「生成ミス?」


「生成されるダンジョンが必ずしも過不足なく造られるわけじゃない。一部通路が途切れていたり、地下へ続く階段がなかったり、部屋に入るための扉がなかったりすることもある。午後はそういった場所がないかを調べるわけだが」


「ふ~ん……それにしても不思議だね。神様のビーンアブアーの力の残滓の影響って言われてるけど、なんでそれがダンジョンなんか作るんだろ?」



 そんな疑問を口に出すと、オリカとノヴァが答えを返し来た。

「ビーンアブアーは世界を天上界・地上界・地下世界に分ける予定だったけど、結局は私たちが住む地上界のみを創造した。だけど、地下世界を生み出す力が世界に残ってしまい、たまにこうやってダンジョンが生まれるという話があるわね」

「それとは別に、地上に暮らす生き物を何らかの外敵から守るために創造したとも言われてるね」


「ああ、俺もそこらへんはシスタークーデさんから習ってたけど……結局よくわかんないって感じだしな」

「そうね」

 

 オリカは小さな返事をして岩壁に触れる。

 ノヴァもまた同じように手のひらを壁に置いた。

 俺も何となくレックスと同じように、右手の拳の裏で岩壁を叩こうとしたが――――拳が岩壁を貫通して手首が埋まってしまった。


「……え? え、えええええ!?」

 慌てて手を戻す。

 突然の俺の叫び声に、みんなはびっくりして一斉にこちらを見た。

「なんだよ、坊主!? いきなり大声出しやがって」

「びっくりだよ、お兄ちゃん! なんなの?」

「はぁ、心臓に悪いわね。どうしたの、アルムス?」



 俺は右手首を左手で触りまくりながら、みんなに言葉を返す。

「いや、いま、この右手が壁に埋まって……」

「はぁ、なに言ってんだ、アルムス? 手が岩に埋まるわけないだろ」


 レックスがそう言いながら、拳の裏で岩を叩こうとした。

 すると――――ずっぽしと拳が埋まる。


「ぬお!? なんじゃこりゃ?」

 慌てて岩から手を抜いたレックスが、こちらに顔を向け、大粒の唾を飛ばしてきた。


「アルムス、お前一体何をしたんだ!?」

「何にもしてねぇよ! みんなと同じように壁に触れたら手がずぼって埋まっただけで!」

「なんか変なボタンとか押してないだろうな?」

「押してない!」

「ホントかよ? だったらどうして急に?」



 俺の隣に立っているノヴァが、手のひらを岩壁に当てて撫でるように動かす。

 すると、壁がまるで水面のように波打った。

「不思議。さっきまで普通の岩壁だったのに。何が条件でこんな現象が? オリカお姉さんはどう思う?」

「そうね……複数人が同時に壁に触れるとか?」

「そこら辺なのかなぁ? まぁ、それはともかく……どうする、レックスお兄さん?」

「どうするたって……」



「調べよう!!」


 この声を出したのはもちろん、俺!!


「調べようレックス! この壁の先に何があるのかを!!」

「なに言ってんだ、お前?」

「手が貫通するってことは、体も通り抜けられるはず。ってことは、先に何かがあるってことじゃん」


「そうとは限らねぇだろ。先に穴ぽこがあるかもしれない。入ったら最後、出られないってこともあるんだぞ」

「それでも放ってはおけないだろう。入ろう、今すぐ入ろう! ようやく、ダンジョン探索っぽくなってきたんだ! だから入ろう、さぁ入ろう!」


「おい、誰かこの無謀な馬鹿を止めてくれないか?」



 レックスの言葉に、ノヴァとオリカは首を横に振って諦めと呆れの混じる態度を見せた。

 だがだ!

 二人からどんなに呆れられようと、こんな楽しげな機会は逃せない!


「なぁ、レックス。どのみち午後はここを調べなきゃならないんだろ。だったら、別にいいじゃん。さぁ、全軍突撃の命令を! 閣下!!」

「あ~あ、アホな軍師が俺をそそのかす……とはいえ、調べなきゃならんのは確かだしな」

「よっしゃ、とつげ――――」

「待て待て待て! とりあえず、壁の向こうが安全かどうか簡易検査をしてからだ」



 レックスは小さな丸い水晶を懐から取り出し、数枚の真っ白な付箋を貼り付け、紐でくくると壁の向こうへと転がした。

 水晶が壁を貫通したところで彼はこう説明する。


「水晶には何かしらの力の(たぐい)。例えば魔力反応なんかを調べることができる。あとは空気の有無もな。くっつけた付箋は硫黄やメタンなどの各種有毒な物質に反応すると色が変わる仕組みだ」


 一分ほどして、紐を引っ張る。

 水晶が壁から転がり戻って来た。

 水晶に何ら変化はなく、付箋も真っ白のまま。

 

「ふむふむ、特に問題なさそうだな。空気もあるし、魔力による罠の(たぐい)もなさそうだし、有毒ガスもない」

「よし、行こう!」

「まだだっつうの!」

「じゃあ、いつ行くんだよ?」

「普通はこういったのって危ないからくじ引きなんだが……まぁ、いいや。生贄が率先して手を挙げてるようだし。わかった、お前が行ってこい」



 よし! これでようやく壁の中に入ることができる。

 と思った矢先、ノヴァが反対の声を上げてきた。

「待ってよ! 向こうに何があるかわからないんだよ? ねぇ、お兄ちゃん。もう少し詳しく調べてから――――」

「はぁはぁはぁ、止めてくれるなノヴァ! もう、体がうずうずして我慢が、がまんが、はぁ、はぁ、はぁ」

「はぁ~、なんでお兄ちゃんはこんなに無謀なの? レックスお兄さん、お兄ちゃんの腰に紐を……はぁ」



 諦めきったノヴァの顔にレックスは苦笑いを見せて、俺の腰に紐を巻いた。


「中に入って何かあったら紐を引け。安全なら二回。緊急なら激しく引け」

「りょ!」

「略すな、しっかり了解と言え。俺はそういうの嫌いなんだよ」

「へいへい。じゃ、行ってきま~っす!!」


 俺は口うるさい小舅の声を無視して、岩壁の中へと飛び込んだ!



――――岩壁の前



 レックスを中心に、ノヴァとオリカが不安そうに岩壁を見つめる。

 岩壁からは紐が一本伸びており、その紐をレックスがきつく握りしめていた。

 アルムスが壁に入って十秒ほどして、紐が引かれる。回数は二回。


 レックスはそれに大きく肩を落とした。

「そっかぁ……ってこたぁ、俺も中に入らねぇと行かないよなぁ。あ~あ、もう。こんな危ないことしたくないんだが、しゃーねぇか。そういうことで二人は待っててくれ」


「え、私も行くよ、レックスお兄さん」

「いやいや、ノヴァ嬢ちゃんは待っててくれよ。何かあったらルドルフさんに申し訳が立たない」

「い・く・よ! お兄ちゃんのことを放っておけないし!!」

「いや、でもなぁ」


「いいんじゃないの? とりあえず、抜けた先は安全そうだし」

「おい、オリカ!?」

「もし危険がありそうなら、ノヴァちゃんには帰ってもらう。それでいい、ノヴァちゃん?」

「うん、いいよ!」


 二人のやり取りを聞いて、レックスはサングラスを覆うように手のひらを乗せる。

「なんで俺の周りには無謀な奴ばかりいやがんだ。はぁ、わかったよ。行くし、連れていくよ。ったく、胃に穴が開いたらお前らのせいだからな……」

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