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第23話 知らない記憶の欠片

 裏道を通り抜けて、歓楽街近くの細道へ出る。


 ここは石畳で舗装された道が通っており、土と砂利でできた裏道とは大違い。

 歓楽街を中心に栄えている地区のため、朝間(あさま)は人通りが少ない。

 しかし、少ないながらも、怪しげな雰囲気を醸し出している人たちがうろうろとしていた。


 オリカはそういった人たちを目にしては、物珍しそうに辺りをきょろきょろと見回している様子。


 そんなオリカへ話しかける。

「あんまり、こちら側に来ない感じ?」

「ええ、来ないどころか初めてよ。あなたはよく来るの?」

「うん、風のお姉さんたちから見回りや護衛を頼まれることがあるからね」


「風の? そう言えば、酒場でも風のお姉さんと言う言葉を聞いたけど、それってどういう意味なの?」

「風俗に勤めるお姉さんたちのこと」

「ふう――!? ま、まさか、アルムス!? あなた、そんなお店を出入りしてるの? まだ、未成年でしょう!?」


「いやいや、さすがに利用したりしないよ。お酒だって飲めないし。ただ、護衛のお仕事の関係上、お店は出入りしてるけど。裏口から」

「はぁ、それでも未成年のあなたがやる仕事じゃないでしょう。ギルドは何を考えているのかしら?」

「ギルドは関係ないよ。俺が個人で受けてる仕事だし」

「え?」


「結構前になるけど、酒場の常連客のキャリンさんから知り合いの女の子がストーカーされているという話を聞いて、そいつを追っ払ったことをきっかけに、たまに護衛をするようになったの。あと、見回りの方はボランティアでやってる」

「ボランティアで? どうして?」



 俺は人通りのない道いっぱいに両手を広げる。

「ここはすごいよ。本当に色んな人たちがいる。お金持ちもいれば貧乏人もいる。上品な人もいれば下品な人もいる。人格者もいればそうでない人もいる。荒事も多い。だから俺はこう思ったんだ。ここで仕事をしていれば、良い経験になるって」

「良い経験って……それが目的であっても少年がやるべき仕事では――」


「そうだけど、そのおかげで色んな伝手ができた。俺はまだ、王都に来て三か月だというのに、色んな人と出会えて、色んな人たちがいることを知った。ここなら、多くの経験を得て、俺の成長を早めてくれる」

「そこまでして、成長を急ぐ必要はないでしょう。真っ当な道を歩み、着実に成長を重ねるべきよ」

「それだと、いつまでたってもギルドランクは上がらないから」

「え?」



 俺は拳をぐっと握り、俺の夢と望みを語る。

「俺はさっさと最高ランクに上がって、領主になりたいんだ! 領主になって、世話になった修道院に恩返しをしたいんだよ!」

「修道院? あ、そうだった、ルドルフさんが話していたわね。あなたは……」

「うん、孤児。俺は修道院でシスターのクーデさんに助けられた。恩人であるクーデさんは亡くなってしまったけど、クーデさんがいた修道院のある村一帯の領地を手に入れて、税を無くしてみんなを助けてやりたいんだ。それに――」



 拳から力を抜いて、()かれた手のひらを胸へ当てる。

「それに……これはおまけかな? いや、できればか?」

「アルムス?」

「俺は両親を盗賊たちに殺された」

「――っ!?」


「俺の生まれた村は辺境にあったから、捜査がおざなりで盗賊がどこの誰だか分からずじまい。でも、ギルドランクが上がれば、色んな権限が付与されて個人で調査しやすくなる。目的は領主になることだけど、できれば、親の仇を見つけたいんだ」

「……そう」

「ま、だからって今のところ、復讐してやる~~~~っていう思いにとらわれているわけじゃないけどね。でも、誰が俺の母さんや父さん、を――つぅ!!」



 両親の姿を思い出そうとしたところで、頭に痛みが走った。

 これは毎度のこと。

 腐れ落ちて、姿を変えていく両親の姿を見続けていた俺は、生きていたころの両親の姿を覚えていない。

 頭を押さえて苦悶の表情を浮かべる俺を心配して、オリカが戸惑いながらもそっと俺の肩に手を置いて話しかけてくる。



「だ、大丈夫? どこか具合が悪いの?」

「いや、両親のことを思い出そうとするとこうなるんだ。実は俺、ショックで親の顔を覚えてなくてさ」

「そうなの。その、ごめんなさい」


「あはは、それ、何の謝罪だよ。オリカは何にも悪くないんだしさ」

「いえ、あなたが色々なことを抱えていることも知らずに、私は自分勝手な正義を押し付けようとしていたから」


「それは違うだろ?」


「え?」

「俺のことを心配したからこそ、忠告してくれた。だから、それに謝罪はいらない」

「アルムス……」



 オリカは申し訳なさの宿る表情を見せて、透き通るような緑の瞳を揺らす。

 俺はその揺れる瞳に奇妙な懐かしさを覚えて、心の熱が上がるのを感じがした。

 その感情が何のかわからないが、俺は不意に生まれたこの感情を誤魔化したくて、無理やりな声を出す。


「あ~、親の顔を忘れるなんて親不孝だねぇ、俺は」

 と言って、再び親のことを考えた時だった――。


(――――えっ!?)


 

 俺の前に両親らしき真っ黒な影が立つ。二人は俺の隣の足元へ顔を向けていた。


 そこには――――幼い子どもの遺体。


 子どもは頭から大量の血を流して、絶命している。

 顔面は血まみれで、頭皮は皮を剥かれたトマトのようにだらりと下がり、真っ赤な皮膚が露わとなっていた

 俺はその子どもを知っている。あれは、あれは、あれは!!


「弟?」

「アルムス?」

「いや、そんな記憶は? 忘れていたのか? どうして? もしや、近所の? でも、俺より幼い子はジャイロさんのところの姉妹とサージさんのところ赤ん坊くらいだったはず。誰なんだ、今のは?」

「アルムス、どうしたの?」


「え、あ、いや、なんだか、記憶に齟齬があるみたいで――いつっ!?」

「無理に思い出さない方がいいわ。強すぎる記憶のせいでそれを封じてしまったのなら、無理に思い出そうとすると心が耐えられないから」

「そ、そういうもんかな? でも、まぁ、あんまり頭を痛めたくないからもうやめとく」


 そう言って、頭から今の謎の記憶を追い出して、何度か深呼吸を繰り返し、落ち着いたところでいつものようにオリカへ声を掛けた。



「す~は~……よっしゃ、頭痛も治まってきた。悪いな、オリカ! 心配させて。それじゃ早速、俺のなじみの店に行こう!!」

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