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第2話 仲間への侮辱は許さない

――酒場の外の広場



 酒場の前は五つの道が集まる円形状の石畳の広場となっている。

 円の周りには俺が宿を借りている酒場の他に、雑貨屋や他の飲食店などが建ち並ぶ。

 広場の中心には噴水。その周りには出店などが複数あり、大変賑やか。


 その賑やかさを騒音に変える男たちの声が響く。


「だから、こっちが悪かったって頭下げてんだからそれでいいだろ!」

「馬鹿言え、俺様にぶつかっておいてそれで済むかよ。お前ら全員、地面に(ひたい)をこすりつけて謝罪しやがれ!!」



 酒場からちょいと先の広場で、ガウスのおっちゃん率いる大工衆と、二十代前半くらいの三人組の男たちが対峙して、お互いががなり立て合っていた。


 三人組の男たちのうち二人は小柄で卑屈そうだが、リーダー格と思われる男は大柄で、意地の悪そうな顔をしてるものの並々ならぬ気配を纏う。


 俺は両者の短いやり取りを聞いて、なんとなく状況を察した。

(ガウスのおっさんかその仲間が、あっちの三人組にぶつかったんだな。で、おっさんらは頭を下げたけど、三人組……特にリーダー格っぽい奴がそれじゃ許さないと喚いてるってところか)


 

 こういうくだらないプライドだか見栄だかしらないけど、相手の落ち度を責めて立てて、自分の憂さを晴らしたり大きく見せたりする性格の悪い奴はたくさんいる。

 そんなのにぶつかるなんて、ガウスのおっさんらも運が悪い。

 だけど……。


(威勢の良いガウスのおっさんが謝罪に回るなんて。ま、リーダー格っぽい奴がやり手そうだからな。ガウスのおっさんも何となくそれを察してるわけか)



 それに加えて、仕事前にケンカなんてできないだろうし、無用に意地を張って仲間をケガさせるわけにはいかない。

 つまり、ガウスのおっさんは大人の対応をしてるというわけだ。


「ともかく、仲裁に入るか。町の治安を担うギルドの一員として…………はいは~い、争いはそこまでにしなよ」



 俺は両手をパンパンと叩いて自分の存在をアピールしつつ、ガウスのおっさんの前に立つ。

 すると、すぐにおっさんが話しかけてきた。


「やめとけ、アルムス。相手がわる――」

「まぁ、まかせといてよ。おっさん」


 俺はおっさんの声を遮り、三人組に声を掛けた。

「兄さん方、こっちのおっさんらが頭を下げてるんだからそれでいいじゃないか。別に怪我なんてないんだろ?」

「なんだてめぇは? 血まみれのボロボロの服なんて着やがって。物乞いか? 病人か? 気狂いか?」

「しまった、着替えてなかった……」


 ちらりと自分の姿を見て、眉をひそめる。

 ノヴァに怪我の治療をしてもらったけど、破けまくりで血の染みつきまくりの格好のまま。



「俺の格好はどうでもいいだろ。とにかく、もう退()いてやれよ」

「は? 関係ねぇ奴は引っ込んでな」

「関係なくはない。こう見えても俺はギルドの一員でね。知ってるだろ。町の治安は民間が運営するギルドと、公的機関である警吏(けいり)が行っていることを」



 警吏・警察・歩哨など、国や地域によって呼び名は変わるが、この人たちは国家に所属する治安維持部隊。

 一方、ギルドは様々な国や地域に存在して、生活相談や治安維持に魔物退治に屋根の修理から輸送などとなんでも行う便利屋さんのような存在。


 普通であれば、民間運営の便利屋さんなんて国家の治安に口を出せる存在ではないけど、その(おこ)りは下手な国家よりも古く、大昔から治安の顔として存在しており、世界中に根付いている。

 そのため、多くの場所で公的治安部隊と協力して、地域の安定に貢献している。

 

 因みに、お互い仲は悪くないが、距離感は微妙。



 俺はギルドの一員の証明である太陽と月の印が入ったバッジを見せた。

 大きさは手のひらに収まる程度の革製で、色は階級によって変わる。

 俺は最低ランクのセドナなので、茶色。



 そのバッジを三人組はまじまじと見つめ、次に唾のシャワーを降らせるほどの大声で笑い始めた。

「だははははは! なんだ、セドナ級かよ!! 最低ランクのギルド様が何用だよ!?」

「ひひひひひ! 仕事がなさ過ぎて服もまともに買えないみたいだな!!」

「見た目通りの屑ランクなんだから、隅に引っ込んでゴミでも拾っとけよ! ぎゃはははは!!」



 三人は俺を指さして笑い続ける。

 これに俺は小さく舌打ちを返す。

「ったく、最低ランクでもギルドの一員になるのは大変なんだぞ。特に俺は試験組だし。服装については言い訳もないけど」


 とはいえ、そんなことを伝えてもこの大馬鹿トリオには理解できないだろう。

 だから、笑い声を無視して、もう一度注意を行おうとした。これで駄目なら実力行使。

「ともかく! 争いごとは――」

「おい、ガキ。奇遇だな。俺もギルドの一員だぞ」

「へ?」


 そう言って、リーダー格っぽい奴がバッジを見せつけてきた。

 色は――赤!?

  

 ランクはハウメア級! 俺よりも二つ上!!


「そのバッジ、ハウメア級……」

「そういうことだ。でだ、俺たちは治安を預かるギルドの一員として、そこの無法者たちに礼儀を教えるため、謝罪の仕方を指導している最中なんだよ」

「へへ、理解したらどけよ、屑ランク」

「及びじゃないんだよ、物乞いのクソガキ」



「なんだと!? たとえハウメア級だったとしてもこんな無茶はな!」

「アルムス、もういい。俺たちがしっかり詫びれば済むことだ」


 後ろから届く、ガウスのおっさんの声。

 それは普段、俺をからかって遊んでる声とは違い、気遣いの声。

 そして…………悔しさの混じる声!


 俺はその恥辱を帯びた声に腹立たしさを覚え、拳を強く握り、手のひらに爪を突き立てる。

 後ろから、ガウスのおっさんたちが(かが)む気配を感じた。

 

 だけど、そんなのこと―――――――――させられるかよ!

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