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第16話 やったのはこの人です!!

 動きを止めた金竜。

 俺とレックスはもう動いてくれるなと祈り、ひたすら見つめ続けていた。



――十秒後・竜は動かない


「どうだと思う、レックス?」

「わからねえ、もう少し様子見をして……」


――三十秒後・やはり動かない。


「レックス、大丈夫かな?」

「いや、反応はないが」


――四十五秒後


「…………動かないね。死んだ?」

「かもしれねぇ」



 一分後、俺たちは金竜の腹を蹴りつけていた。

「ああああ、もう! 死んでるなら倒れるなりしろよ!!」

「なんで立ちっぱなしなんだ!! 無駄にビビっちまっただろうが、おらおらおら」


 ひたすら竜の腹を蹴り続ける俺たちへ、オリカが話しかけてくる。

「ふ、ふたりとも、落ち着いて。事情はどうあれ、死体を蹴りつけるのはどうかと思うのだけど?」


「だってさ、滅茶苦茶怖かったんだぜ、こっちは!」

「アルムスの言うとおりだぜ。普通ならぶっ倒れて、死にました終わりましたってなるだろうが! なんで立ち往生なんだよ。この馬鹿竜が! このこの!」



「む、ぐぐ」

 竜の頭が揺れる――生きてる!?


「ひぃぃ、まだ死んでない、レックス!!」

「ゲッ、内臓を消し炭にしてやったはずなのによ! と、とにかく、早く逃げないと」


 竜は濃密な紫色の瞳に光を宿して、ぎょろりとこちらへ向けた。

 それにおじけづいた俺たちは――。


「蹴ってたのはこの人です!」

「蹴ってたのはこいつです!」


「「え!?」」


「レックス、てめぇ、自分だけ助かろうとしやがって!!」

「お前もだろうが、このくそ坊主がぁ!!」


「二人とも落ち着いて!! 争っている場合じゃないでしょ! すぐに対応――え?」



 オリカは見上げるように金竜を見ている。

 俺たちも彼女に釣られるように竜を見上げた。


 すると、金竜は辺りをきょろきょろと見まわして、人語を介す。

 その声はとても穏やかだが、こちらの腹の底に響くもの。



「ふむ、地竜か……なるほど、この状況。地竜共が眠りついた私の威容を借りて、卵を育てておったが、それを人間たちが地竜の巣と思い違いをし、討伐に出て、私を起こしてしまった。と、言ったところか?」


 竜の声を聞いて、俺は小さく声を漏らす。

「すんごく流暢にしゃべってますけど……どうなってんの?」

「上位竜は人間よりも賢いからな。人語くらい介するだろ」

「だったら、なんでさっきまで?」



 疑問を纏う俺たちを置いて、傷の重いオリカが地面に両膝をつけたまま金竜へ話しかけている。


「このような姿で御無礼。私はギルドメンバーランク5・ベスタ級を預かっているオリカと申します。実は――」

「いや、皆まで語る必要はない。私の寝床を地竜の巣と勘違いして討伐に来たのだろう」

「はい、ご明察のとおりです。大変失礼なことをしてしまい、申し開きもありません」

「よいよい、私の方も寝ぼけて相当暴れ回ったと見える」



 そう言って、金竜は顔を振り、倒れている戦士たちへ申し訳なさそうな表情を見せた。

「ふむ、死人はおらぬようだな。不幸中の幸いか。寝ぼけていたとはいえ申し訳ないな、人間たちよ」

「いえ、こちらこそ」

「それにしてもだ、長期睡眠途中であるこの私を、こうもはっきり叩き起こすことができる者がおるとは……なかなかの使い手のようだ。すっかり目が覚めてしまったわ。ガハハハ」



 竜は笑い声を空に響かせる。それを聞いたレックスが唇をムニムニと動かして情けない表情を生んだ。

「俺の必殺が眠気覚まし程度だったのかよ……自信無くすわ~」

「それよか、寝ぼけててこんなに強いって、どんだけなの、金竜って……」


「ガハハハ、人の力と比べればそうなるだろう。しかし、本当にこの私をよく目覚めさせることができたものだ。いったいどうやって……おおおお?」



 金竜の瞳が大きく開かれる。紫の瞳に映るは――自分のしっぽ。


「わ、私のしっぽが斬られておるではないか!? こ、これは……」

「あ、斬ったのはこの坊主です。俺は関係ありません」


 すかさずレックスが俺を売りやがった。

「レックス、てめぇ!!」

「いやだって、本当のことだしなぁ」


 さらに金竜は自分の腹を見つめる。

「な、な、腹部にばってんの傷が!?」

「それもこの坊主がやりました。俺は関係ありません」

「また!! なんて奴だ!!」


 お返しとばかりに、俺は金竜にこう伝える。

「金竜さんの内臓を焼いたのはこのサングラスの男です!!」

「こら、アルムス! 仲間を売りがやって!!」

「あんたが先に売ったんだろうが!!」


 俺とレックスは互いに掴み合いになり、地面の上を転がりまわる。

 金竜の方は傷の具合を確かめるように腹を擦っていた。

「言われてみれば、内部も損傷しておるようだ。おや、よく見ると、腹部にもう一つ傷が。こちらは短冊模様のようじゃが」


「「あ、それはあちらオリカさんが傷つけたものです」」


 俺とレックスが声をそろえると、オリカは眉間にしわを寄せてこう返してきた。

「あなたたち、最低ね……」

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