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第11話 リーダーとしての責務

――――戦いの場となる盆地



 今回の作戦のリーダーである、ギルドランク5・ベスタ級のオリカの采配のおかげでチームは全滅をせずにいた。

 だが、壊滅状態……オリカを残し、全員が地面に伏している。

 彼らからは小さな呻き声が響くため、今はまだ死者は出ていないようだが、それもまた瞬刻の間。



 緑の剣士服と美しき金の髪に、己の濃き血を染み込ませたオリカは整わぬ呼吸を漏らし、金竜の姿を新緑の瞳に映した。


 人の背丈の十倍はある巨体に黄金の鱗が全身を覆う、見目は巨大な爬虫類のような姿。

 鱗は鋼より硬く、人の武具など寄せ付けず。

 肉厚の巨体を支える地面に根を生やす太き足。

 人が太古に獲得した奇跡――魔法の力さえも、この偉大なる存在の前では児戯に等しい。


 

「はぁはぁはぁ、あ、ごほごほ――クッ、このままだと……」

 影がオリカの全てを包む。彼女は陽を遮りし、巨躯(きょく)の竜眼を睨みつける。

 濃密な古酒ワインのように深い紫の瞳に光はなく、ただ、どんよりと世界を見つめるのみ。



「はぁはぁ、どうやら、私たちは金竜の睡眠期の邪魔をしてしまったようね。目覚めたばかりのおかげで、意識は混濁していて力をまともに振るえていない。だからまだ、何とか生き残れているけど……」


 ちらりと周囲へ目を振る。金竜によるただの一撃で戦士たちは気を失ってしまった。それは金竜にとって撫でた程度の力。

 その金竜は動けなくなった彼らに見向きもしない。


「半覚醒状態で動くものに反応を示しているだけ? ――それに気づいていれば、このような事態には!」



 金竜の姿を見た戦士たちは恐慌状態に陥った。

 オリカもまたそう。

 彼女は不用意に攻撃を仕掛けた戦士たちを止めることができずに、今に至る。


「どうする? 刺激をせずに一旦退く? いえ、目覚めたばかりの竜。そんなことをすれば、空腹を満たすために倒れている戦士たちを餌だと認識するかもしれないわ。私が引き付けて、この場から引き離さないと」


 オリカがそろりと足を後ろへ下げた。

 その動きに反応を示し、金竜が咆哮を上げる。



「がぁああぁぁぁあぁあぁ!!」

「そんな、これほど小さな動きでも敵意とみなされるの!?」

 

 竜は肉厚の巨体から伸びる巨木のような腕を振るう。すると、先端に生える爪先から真空の(やいば)が生まれて、オリカの四肢を切り刻まんとした。


「クッ!」

 

 後方へ飛び、それを避けるが、すでに壁の如き黄金の尾が肉体を叩き潰そうと迫っていた。

「何とか受け流して――くっ、間に合わない!」

「させるかよぉぉぉぉぉ!! どっりゃぁぁぁあああぁぁぁ!!」



 突然、彼女と尾の前に影が割って入る。

 影の正体は――少年?

 少年はロングソードを両手にしっかと握りしめて、尾よりも高く飛び、剣を叩きつけた。

 だが――



――ポキンッ!



「いやぁぁあぁ、折れたぁぁ!!」

「バカ坊主、何やってんだよ!? 尾を蹴って後ろに飛べ!!」


 男の大声に従い、尾を蹴って少年は後方へ飛んだ。いや、半分吹き飛ばされたと言ってもよいだろう。

 少年は地面に転がり、全身を打ちつけている。

 声を出した男はさらなる大声を上げて、右手を覆う漆黒のガントレットに力を込めた。


「豪炎の破壊の炎(フラムインテリウス)!!」


 男が壁の如き竜の尾に拳を叩きつけると、轟音を纏った炎が(たけ)り、尾は退(しりぞ)けられた。

 だが、彼の攻撃は、金の鱗の表面に僅かな焦げ跡を残しただけに過ぎない。



「くっそ、まともに食らわせてもこの程度が。さすがは金竜の鱗ってところだな。かてぇ」


 オリカは男の名を呼ぶ。

「レックス!?」

「オリカ、状況は?」

「地竜の(ねぐら)だった場所が、睡眠期に入った金竜の(ねぐら)だったの。おそらく、地竜が安全確保のために、金竜の威容を借りて卵を温めていたのでしょう」


「それを周辺の村の住人たちが地竜の巣と勘違いしたってか。ったく、ギルドの調査部隊は何をやってんだ? しっかり調査しとけよ。で?」


「地竜退治に刺激された金竜が目覚め、私たちは恐慌状態になり、統制が取れず……これは私の責任」

「責任がどうとかはあとだあとだ。ともかく、金竜相手じゃどうしようもねぇ、撤退しろ! 幸い今の一撃で、金竜はこちらに警戒を示して動きを止めている。その間に!」

「だけど、まだ生き残りが――」

「生き残りを救う前に俺たちが死んじまう! 隊の(あたま)を預かったんなら斬り捨てる覚悟もしろ!!」



――却下だ! レックス!!――


 

 彼らの後方より、少年の声――それはアルムスの声!

 彼は地面によって体を削られ痛みに(さいな)まれようとも、歯を食いしばり耐え、纏わりついた血を払い、こう言葉を生んだ。


「簡単に仲間を見捨てようとするな!! 諦めずに救う努力をしろ!! それこそが、隊の(あたま)を預かる者の責務だろうが!!」

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