6 鼎のお家
鼎はまたまた大混乱していた。
あずさの準備が終わり、さあ、鼎の家に行こうかということになったのだが、ふいに鼎の視界が塞がれた。
目に布を充てがわれたのである。
え?え〜〜っ?なにこれ?物凄く怖いんだけど…。
なにせ急なブラックアウトだ。
それも許されたと思いきやのそれだったので、当然ながら抵抗を試みようとする鼎。
すると、あずさが近づいてきて、「抵抗したらやっちゃうぞ〜。」と耳元で囁かれた。
当然ながら鼎は身を竦ませたのだが、忍の「すまないな、こういう人なんだ。」という声に始末されることはないのだと思い、従うことにした。
それから車に乗せられ、どれほどが進むと、車を降ろされ、またエレベーターで数分。
チンという音が鳴ると、あずさの柔らかい手に手を取られ、小走り。
ガチャガチャリと鍵を開ける音が聞こえると、靴を脱ぐように言われ、中へと連れ込まれる。
少し歩くと、後ろから目隠しが解かれ、急な明るさに目をショボショボとさせる鼎。
そして、そんなことはお構い無しにあずさは楽しそうに告げた。
「さあ、ここが今日から鼎くんのお家よ♪」
どう凄いでしょ!!
……そうあずさは自慢げに紹介してきた。
見ての通りこのようにあずさは上機嫌なのだが、鼎としてはたまったものではない。
よって、返せる答えはこれだ。
「は、はあ…。」
「なによ、ノリが悪いわね。せっかく喜んでもらえるようにサプライズしてあげたのに〜。」
プンスカと腕を組んで、そっぽを向いてしまうあずさ。
容姿のせいか、そんな様も可愛らしいと思ってしまうのだが、やはりどう考えても可愛らしくはない。やり方が決定的にズレている。
とはいえ、彼女は好意を持ってこんなことをやってしま……くれたのだから、それを無為にするのは心苦しい。
少し派手なリアクションをしようと心に決め、あずさから部屋に視線を切り替えると、鼎は割と本気で驚き、目を見開いた。
そこはリビングでかなり広かった。
カーテンが閉められているから外は見えないものの、天井からの明かりも明るすぎず暗すぎないちょうど良い感じで調整されており、床はフローリングでその上にカーペットがしかれている。テレビは大き過ぎない大画面、ソファが2つ置かれ、それぞれにピンクと水色のクッションがちょこんと座っていた。
緑も確かにあり、机の上にはサボテンの鉢植え。
窓の方には、観葉植物が置かれていた。
センスの良さを感じられ、どことなく安心感を感じた。
「……いいですね。」
「ふん!今更遅いわよ!」
「ううん、ホントにセンスあると思います、あずさお姉ちゃん!」
鼎がそう力説すると、チラッとこちらを見てくるあずさ。
「…ホント?」
「はい!」
「ホントにホント?」
「はい!もちろんです!」
何度も確認し、鼎の言葉に偽りがないとわかるや、あずさはにへらと笑う。
「そうでしょ!もう!鼎くんったら、お姉さんに意地悪しちゃ、ダメなんだぞ〜。」
「あはは、ごめんなさい。少し意地悪しちゃいました。」
「うんうん、よくできました。それじゃあ、他の部屋も案内するから♪」
それからトイレ、寝室、トレーニングルームに、衣装部屋なんかまで案内されると、リビングに戻ってきた。
鼎はトイレ以外ずっと驚きっぱなしで、あずさは鼎におでてられ続けたからか、もう拗ねた様子は欠片もない。
キッチンのほうで音がしたので、そちらを覗くと、水蒸気で見えにくいからかサングラスを外した忍が料理をしていた。
彼女は金髪碧眼の胸と大きくスタイル抜群の美女だった。身長は鼎が低いからかもしれないが、背はかなり高く、目がキリッとしているからか、人によってはキツイ印象を抱くかもしれないが、少し話をしたことがあるからか、鼎はそんな印象を抱かなかった。それどころかむしろスーツ姿に、油が跳ねないようにとエプロンをする様は少しグッときた。
「忍〜、まだ〜?」
「まだです、主。もう少しですから、着替えてきてはいかがでしょう。」
「うん、そうね。じゃあ、美味しいの期待してるから。」
すると、忍は覗き込んでいる鼎に気がついたらしく、おかしそうに笑った。
「ふふっ、なにをしている、美馬鼎。君も着替えてくるといい。確か部屋に何着かあったはずだぞ。」
「えっ、は、はい。それでは忍お姉ちゃんも頑張ってくださいね。」
鼎がそうキッチンを後にすると、時間を置いて、「おっふ!」という声が上がり、すぐキッチンのほうでドンガラガッシャンという音がしたので、なにかあったのかと思い駆けていくと、「問題ない。」と頭に鍋を乗せた忍が顔を出した。
それを見て鼎は思わず笑ってしまい、それを隠すようにさっき紹介された自室へと向かうことにした。
「これ?それとも?」なんて、タンスから適当な服を選び素早く着替え、洗濯場の洗濯籠に着ていたものを入れる。
それでもやはり結構な時間は経っていたので、あずさはキャミソールとショートパンツというラフな格好ですでにリビングにいたのだが、なにやら様子がおかしい。
なにをしているのか聞こうと思い、声を上げようとすると、しーという唇に人差し指を当てるジェスチャーをされる。そのまま彼女に手を取られると、さらに身を低くする指示を受け、手を引かれていく。
すると、キッチンのほうから、「忍お姉ちゃん、忍お姉ちゃんだって…ふふふっ。」という嬉しそうな声が聞こえた。
そのままダイニングを経由して、キッチンのなかに入るも、忍は気が付かず、あずさは包丁もなにも持っていないのを確認すると、背後に立った。
えっと……これってもしかして……。
あずさは忍の肩にポンと手を置いた。
「どう?忍、ご飯できた?」
「ひゃっ!?」
急なあずさの行動に驚いたのか、奇声を上げ、目を白黒させながらあずさの方を向くなり後ずさって行き、勢いよく冷蔵庫に頭をぶつけた。
ドンッ!!
「っ〜〜〜っ!だ、誰だ!急に!危ないだろうが!」
「は〜い、私♪」とあずさが笑うと、どうやら認識できていなかったのか、驚きの表情を浮かべる。
「あ、あ、主っ!?そ、それに鼎くんもっ!?」
「あら?鼎くん?美馬鼎じゃないの?」
「あっ、そ、それは、その、なんと言いますか、高度に政治的?な?あれでこれでそれで……あのあのあの……。」
「ほうほう、それでそれで?」
「………。」
すっかり黙りこくってしまった忍に、今なおあずさが意地悪な笑顔を作っていたので、鼎は助け舟を出すことにした。
「えっと、僕も鼎って呼んでほしいですから、忍お姉ちゃん。」
すると、忍はぶつけたところをさすりながら、反転し冷蔵庫を開ける。
「そ、そうだな!うん!これからは鼎と呼ぶことにしよう!ほら、主も暇なら出来上がったのを持っていってください。」
「…は〜い。」
どうやらもう少し忍で遊びたかったのか、鼎に勿体ないな〜というような視線を送るとしぶしぶながら、出来上がったものを持ってキッチンを後にする。
鼎もそれを手伝い、キッチンを出ようとした時、冷蔵庫の中身を確認している忍の頭が微かに動き、口元が緩んでいることを確認して、鼎は少し嬉しくなった。
食事が終わり、風呂に入ったりすると、2人に「おやすみなさい」と告げて、寝室で横になった。
眠気はすぐにやって来て……ん?とそこでようやく気がつく。
「あれ?これってもしかして同棲するってこと?」