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47 マヒルの心変わり?

主人公、さらにその従兄妹の脱いだ服が入った洗濯かごが映されるところから、撮影は始まる。


その間、風呂場からの声が反響した会話が途切れ途切れに聞こえ、曇ガラス越しにお風呂に入った影が映されることになっているのだ。


手はず通りにそれが行われて、集音され、計画通りだと内心ほくそ笑むマヒル。


マヒルは鼎がこれからするであろうことを夢想する。


水着がなくなったことに気がつき、悲鳴の後、その身体をかき抱き、一緒にバスタブにつかるマヒルや異常に気がついて扉を開けたスタッフへと罵詈雑言を浴びせ掛ける。


まあ、マヒルとしてもそんな醜態を本当のところは目に焼き付けたいところなのだが、マヒルは鼎がシャワーを浴びる様子に対して、背を向けていた。


なぜかというと…その…まあ…ちょっと…いや、かなり恥ずかしいからだ。


マヒルは男に騙されたショックで、男の目に肌が触れるのに抵抗感が生まれたらしい。


だから、水着を着けているとはいえ、一緒にお風呂なんて論外なわけなのだが…。


チラッチラッ。


…そうは言っても、マヒルも女なのだ。


いくら男を毛嫌いしているとはいえ、本能的には男の身体に興味がないと言えば嘘になる。


それも、性格はわからないにしても、イケメンのシャワーシーンが自分のすぐそばで展開されているのだ。


悪魔の囁きがずっと…それも今世紀で一番だと断言できるほどの大声で、むしろ魂の叫びだと言えるほどにマヒルへと届いているのは言うまでもない。


案外気の小さいマヒルはシャワーの交代の時という、自然に視線が向いてしまっても仕方がないという納得できる言い訳が生まれる瞬間に賭けることにした。


「ヒルカちゃん、どうぞ。」


「うん♪お兄ちゃん♪」


そして、鼎のシャワーの音が止み、さて自分の番だとバスタブから立ち上がり、そっと覗き見る。


チラッ………じーーーーーーーーーーーー。


……うん♪いい♪


鼎の身体…それは予想通りなもので思わずルンルン気分となるマヒル。


風呂椅子に腰掛け、少しぼんやり。


「……はっ!」と気が付き、だらしない顔をキリッと引き締めると、お湯でなく水が出るように蛇口を捻り、シャワーを出し始める。


…くっ…私としたことが…男の裸なんかで喜んでしまうとは…。


し、し、しし、しかも、の、覗きまで…。


嫌いな男というものに喜ぶ自分のあさましさと、自責の念にまで晒され、頭を冷やしたマヒルは、そろそろいいかとお湯が出るようにする。


さて、身体を軽く流すふりをして…とクリアになった頭で、自分の身体を見た瞬間、思わず声が漏れた。


「……は?」



こんな声が出たのは当然である。


なにせマヒルの身体を申し訳程度に覆っていた水着がなくなっていたから……まあ、要するにマヒルの身体がスッポンポンだったからだ。


予定では、マヒルは水着を着たまま、鼎の醜態を見て…聞いているだけのはずだった…そのはずだったのに…。


自然と視線が鼎の方へと向き…目が合う。


「「………。」」


2人の沈黙の後、当然のごとく風呂の中の様子は映されないのだが、そんなことはマヒルの頭からすっぽ抜け…。


「キャーーーっ!!」


その口から、甲高い悲鳴が響き渡った。


見られた見られた見られた。


なんでなんでなんでなんで……なんで!!


そんな言葉でマヒルの頭がぐちゃぐちゃになり、恥ずかしさで涙が零れ落ちそうになった時、鼎は風呂から上がり、脱衣所への扉を軽く開ける。


「すいません。トラブルです。バスタオルお願いします。」


「えっ…あっ…は、はい!えっと…確か…。」


「はい、これ!あっ…でも…一枚しかないみたい。」


「あっ…そうですか…なら、とりあえずそれで。」


鼎のやり取りはなんとなくだが、聞こえていた。


バスタオルの準備が()()()()()()()()()で一枚しかないのだとか…。


まあ、その一枚の使い道は当然のごとく決まっている。


鼎が自分の身体に巻くのだ。


男なら当然…。


そして彼は私の男好きする身体を舐め回すように見て、悦に入る。


こうして、結果的に鼎も他の男たちと同じだと証明される。


私もこれできっとほんの少しの望みというやつを捨て去ることができるだろう…は…ハハハハハ…ん?


……はて、ほんの少し望み?


なんだそれは?


そうして、どこか絶望めいた笑みの後、ふとした疑問でマヒルの気が逸れた一瞬のこと、ドアがカチャンと閉められ、マヒルの身体にハラリとなにかが掛けられた。


マヒルの視界をよぎったのは、真っ白なものだった。



見るとそれは、1枚のみと言われたバスタオル。


「……なんで…。」


そんなマヒルの声とともに、バシャンという水音がして、思わずそちらを見ると、マヒルに背を向けるように風呂の中に入る鼎がいた。


「で、できるだけ見ないようにしましたから!!だ、だから泣かないで!」


「……。」


泣かないで…って見てるじゃないと思い、それに普段なら、謝るなら顔くらいしっかりと見なさいと叱るマヒルだが、その口からはこんな言葉が漏れた。


「ば〜か。」


口元は微かに緩んでいたとか…。


その後、鼎のバスタオルも届き、新しい水着で撮影再開となるのだと誰もが思っていたのだが、鼎のこんな言葉でそれが変わる。


「あの。脱衣所から曇ガラス越しに映像を撮るより、この姿のまま迎えに行くほうがいいんじゃないですか?」


こうして、原作に忠実にそれが行われることになり、マヒルの顔は撮影前とは雲泥の差。


以後、鼎を見かけると、面倒見のいいお姉さんぶった振る舞いが増えるようになる。




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