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42 小さくても教師なの

キーンコーンカーンコーンというチャイムの音が鳴り、先生の指示で授業の終了が告げられ、昼休みとなった。


前に高校生だった時は、昼休みになった途端に購買や学食へのダッシュがクラスメイトたちのデフォルトだったように思うが、この学校では…とまでは知らないが、このクラスではそのようなことをする生徒はいない。


むしろみんな非常に落ち着いていて、いつもは鼎が立ち上がり、学食に向かうのが一番早いくらいだ。


しかし、今日は物凄く疲れたからか、授業が終わるなり、机に突っ伏していた。たぶんだけど、編入初日よりも疲れている気がする。


それはなぜかというと…。


鼎がその元凶たる人物へと視線を送る。すると…。


ニコ。


どうやらこちらを見ていたらしく、すぐに視線が合うと、どこか機嫌が良さそうに微笑んできた。


体育が終わってから、ずっと…いや、鼎がシュート練習で、色々と理由をつけられて密着することになり、柔らかい身体を押し付けられ、恥ずかしさが我慢しきれず「ごめん。竜姫…もう無理…。」と降参してからずっと、視線が合わない場合ですら、こんな感じだ。


あれは本当にきつかった…。柔らかくて、いい匂いがして…。


男だとわかっているのに理性というやつが働いていたような気さえする。


そんなふうに鼎がせっかく友達になれそうな男の子である竜姫を女性のように扱うべきではないかなんてボーッと思っていると、あずさから鼎の面倒を見るように言われている美奈が声を掛けてきた。


「カナ、あんたご飯行かないの?行かないなら、もう私は行くけど。」


「ううん、いえ、行きます。ご一緒してもいいですか?あっ、竜姫はどうする?」


「もちろん、ご一緒させていただきますわ♪」


「…まあ、いいけどね。」


そうして、どこか不満そうな美奈と、機嫌が良さそうな竜姫とともに学食に向かうことになった。


鼎は学食に向かおうとしてすぐ、ハズキがいないことに気がつき、聞いてみると、どうやら朝のホームルームの後からずっと保健室にいるらしい。


その理由を聞いてみると、一身上の都合と美奈には視線を逸らされてはぐらかされ、なぜかはわからないが竜姫にも視線を逸らされた。


そこからは学食の道中に通る学校施設の説明をしながら、学食に向かい、ほどなくして辿り着く。


仲良く並んで、食券を買い、受け取った料理を持って、席を探す。


「お〜い、カナく〜ん、こっち、こっちなの〜!席取っといたの〜!」


すると、小さな身体をめいいっぱい振ってこちらへとアピールしている。この場では見かけたことのない人物がいたので、鼎たちはそちらへと向かうことにした。


「なの()()()どうしたの?珍しいね、学食なんて。」


なでなで。


「えへへ~、今日は下村くんの初登校だから、様子を見に来ることにしたの〜。」


鼎に頭を撫でられて、嬉しそうにする、子どものようななの。しかし、行動は教師のそれで、やっぱりこう見えても教師なのだなと思っていると、「みんな、揃ったの。いただきますするの。」との声で食事が始まった。


鼎たちは定食やれ、うどんに箸をつけはじめ、なのは小さな巾着袋から、小ぶりなお弁当箱を取り出し、それを開く。


お弁当はどうやら手作りらしく、俵型の小さなおにぎりに乗りが巻かれたもの、ところどころ焦げた卵焼きやハンバーグ、しっかりと味の沁みていそうな煮物にプチトマトが可愛らしいレタスが千切られたサラダと見ただけでどことなくほっこりするような、可愛いお嫁さんが作ってくれそうなそれだな、と鼎が思いながら箸で熱々のうどんを冷ましていたのを忘れていると、なのは不思議そうな顔をして聞いてきた。


「どうしたの?カナくん?私のお弁当、なにか変かな?」


「えっ?いや…なんかいいな…って…。」


どことなく優しい顔をして、鼎がそう言うと、鼎たちの周囲がどことなくざわざわとし始め、隣に座っていた竜姫が鼎に聞いてくる。


「…カナくんって、料理できる方が好きなのですか?」


「えっ…まあ…どっちでも…できなければ、僕がやるし…。でも、ああいう優しいお弁当を作れる人って素敵だな…なんて…も思うかな?」


「「「「…。」」」」


頬を軽く赤らめ、どことなく純情系な男の子のような鼎の反応に言葉を失う者、また鼎が褒めたお弁当をお手本とするべく、脳の記憶領域に深く刻ませるために目を見開き観察する者。


そして、物凄く嬉しかったのか、やんやんと身体を振るなの。


という具合に分かれていたその場に、鼎も何度か顔を合わせたことがある保健の先生が慌てた様子でやって来た。


「探したぞ!なの!」


「あっ、つ〜ちゃん。今ね、カナくんにね!」


「わかったわかった!話は後で聞くから、弁当をまとめろ!今日は職員会議だろうが…まったく…。」


呆れた様子の彼女に、どうやら本気で忘れていたなのは慌てて、弁当の片付けをすると、竜姫の様子からどうやら問題はなさそうだと思ったらしく、少しは安心したものの、一応と、言葉にしておくことにしたようだ。


「あっ…ご、ごめんね、つ〜ちゃん。…うん…大丈夫そうだけど…下村くん、学校でやっていけそうかな?なにかあったら、私だけじゃなくて、カナくんや委員長に頼ってね。あとあと…。」


「ほら行くぞ!悪かったな、カナ様たち、それじゃあ!」


「わ、わかったから、引っ張らないでってば!」


そう手を引かれていくなの。そして、引いていく保健の先生。


「はい!保健の先生も今度一緒にお昼しましょうね!」


去っていく2人に鼎がそう一言口にすると、一瞬つ〜ちゃんと呼ばれた保健の先生は立ち止まり、後ろ向きではあるものの、手を振ってくれ、「ああ、また今度な。」と言い残すと、ブンブンお弁当を持っているにも関わらず、手を振って、「今度はみんなで食べようね〜!」とアピールするなのを引きずって連れて行ってしまった。


残された鼎たちだったが、竜姫がお弁当を作ってきてくれるということを言ったのを皮切りに、いつの間にかこの場に囲むようにしていたクラスメイトたちもそれに乗っかり、鼎は近いうちにとんでもない量のお弁当を手渡されかけたのだが、美奈の東院がこれからそれを用意するとの圧力ありありの一言に助けられ、その場は収まった。


余談だが、美奈が休みの日にやってきて、時折ご飯を作ってくれるようになり、あずさの家に美奈のエプロンが常備されるようになる。



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