37 下村竜姫、過去一興奮した出来事(A)
目を見開き、固まる鼎に竜姫は可笑しそうに微笑む。
「うふふふっ♪どうやら驚きのようですね?可愛い♪」
「…いや可愛いって…そりゃ、驚くでしょ……。確かに転生?かどうかはわからないけど、ある日突然、この身体になって…君もそうなの?」
「カナ様、君ではなく竜姫と…えっと…そうですね…私の場合は3歳くらいの頃でしょうか?ある日、今の自分の身体になりました。」
「っ!?」
鼎はそのことにひどく驚いていた。いや、転生者?という言葉を聞いてすでに驚いてはいたのだが、竜姫の言葉を聞き、事実なのだと理解して、さらに驚いたというべきか?
すると、自然に自分よりも長い間、この変化に身を置いているらしい竜姫が、もしかしたら馴れたからかもしれないが、あまりにも不安を感じていないように見えることから、一つ確信めいた思いが生まれ、鼎はそれを口にしてみた。
「……もしかしてなにか知ってる?」
「はい、確かに私が知っていることはありますよ。」
この意味がわからない状況についてなにかわかるかもしれないと思い、鼎はそれに食いつく。
「それならっ!!」
「…ですがダメです。まだ教えられません。」
「……なんで…。」思いを裏切られたようにその言葉が腹の奥から出てくるが、竜姫の言葉はにべもない。
「なんでなのかも答えられません。」
「……。」
「……ですが、私があなたを害することはない……これだけは約束します。どうか私を信じてください。」
真摯に頭を下げる竜姫。その姿勢に鼎は額に手を当てるものの、どうにか受け入れ、思わず口にしようとしたことを飲み込むと、考えて口を開いた。
「…いくつかいい?」
「ええ、どうぞ。代わりに私も質問の回数分質問させていただいても?」
「うん。別に僕の方は隠すことなんてないから、いくらでもいいよ。答えられないこともあるかもしれないけど…。」
彼女…いや、竜姫はそれに気前がいいことですねとくすくすと笑うと、笑顔でどうぞと手を差し出してきた。
「…まず、なんで僕に転生者だって教えてくれたんです?」
「だって、後からそうだったとお知りになるのはお嫌でしょう?」
う〜ん…どうなんだろう?肉親やこの身体のもとの持ち主をよく知っている人物と会ったことのないからわからないが、鼎自身なんとなく他の人たちには話してはいないけれど、それは別に聞かれていないからで、おそらく聞かれれば答えてしまうのではないだろうかとは思う。
そもそも転生?したかどうかで有利、不利なんてものあるのだろうか?とおそらく後で聞いても「へ〜そうなんだ。」くらいのものだったように鼎は思う。
まあ、それは本当のところ次の質問への布石で、できればもう少ししっかりと話してはみたかったのだが、だいぶ日も暮れてきているのに気がつき、あまり時間を取られてはまずいと思い、鼎は最も気になっていた部分を聞いてみることにした。
「…転生…って言っていたけど…君は死んだのか?」
恐らく竜姫としては一番触れたくないであろう部分。しかし、鼎はそれを聞かずにはいられなかった。なぜなら自分の身体が死んでしまったということは、この身体のもとの魂…もとの人物の心はどうなってしまったかはなんとなく想像がつくからだ。
鼎はそんなことはないと否定するなにかが欲しかった。だから竜姫を傷つけることがわかっていたとしても聞かずにはいられなかった。嫌われても仕方がないと思いながら、断罪されることを待つ罪人のように竜姫に視線を向ける鼎。すると…
「……てれり。」
…顔を真っ赤にして、そっと視線を逸らす竜姫がそこにはいた。
「…え?なんで照れてるの?」
鼎は意味がわからず、思わずそう聞くと、竜姫は恥ずかしそうに身体をクネらせながら、しかし、まったく悲観した様子なく答えてくれる。
「いや、まあ……あの…た、確かに死んだのですが…その…実は私の死に方というのが少し…は、恥ずかしくて…クネクネ。」
鼎は今度は違った意味で聞かずにはいられなかった。
「…ど、どんな死に方なの?」
「もう♪カナ様の鬼畜♪……脳の重要な血管が破裂したんです。……処女がなくなるとホテルに行く途中に、興奮のし過ぎで…きゃ♪言っちゃっいました♪」
「……………。」
処女……いや、深くは考えまい。なんとなくそんな気はしていたが…。
それはともかくなんというか…ひどく肩の力が抜けた。あんまりにもな理由で…。
そんな鼎の様子を知ってか知らずか、竜姫は今度は自分の番だと少し怪訝な様子で聞いてくる。
「それでは私の質問です。カナ様はなぜ私が男だとわかったのです?これでも外に出ても誰にも気づかれないのですが…。」
「えっ…だって2丁目の匂いが……コホン…いや、なんとなくですよ。なんとなく、僕、前世?でホストをしていたんで、色々な女性に会って来たんです。」
鼎は2丁目の匂いと口にした瞬間、ギロリというなんとなく危険な視線を感じたので、軌道修正をしたのだが、どうやら上手くいったらしく、竜姫はどこか興奮した様子ではあるものの、笑顔で鼎に近づいてくる。
「そうなんですね?ではもう一つ…。」
どんどんと近づいてきて、鼎の目の前となったところで、なにか期待するような瞳を鼎に向けてきた。
「か、カナくんって…美馬鼎って、もしかして前世でも同じ名前なんですか?」
「?…そうだけど…。」
名前名乗ったかな?と思いつつ、そう鼎が言っちゃった瞬間、満面の笑みとなった竜姫はそっと鼎の隣に腰を下ろして、腕に抱き着いてくる。
「そうなんですね♪そうなんですね♪うふふふっ♪」
「えっと…竜姫?」
「まあ!まあ!まあ♪そんな竜姫だなんて…幸せです♪これが運命というやつなんですね♪」
運命?
それに鼎が前世の名前を出した途端のこの反応…まさか…。
「竜姫って、もしかして前の僕のこと知ってるの?」
「はい、黙秘します!」
「なんでさ!」
「だって…カナくんも答えられないこともあるって言ってたではありませんか?私にだってその権利はあるのですよ♪新しい愛はそこにあるんです♪」
「……はあ…。」
ため息を吐く鼎。
すると、竜姫はずっと鼎の腕に抱き着き、手を握ったり、繋いだりと楽しそうにしていたのだが、ふとはっとなにかに気がついたらしく、立ち上がると鼎に向かって言い放った。
「はっ!よくよく考えると、ここはベッドの上…なんとはしたない…私は会って早々に身体を許すような女ではありません。」
なにせまだ初めても済ませてませんし!と竜姫は強調してきた。
それから、鼎の手を取り、立ち上がらせると、リビングへと手を引いていく。
すると、ちょうど誰かが帰ってきたらしく、今度こそ女の子の声で「ただいま〜。」と聴こえてきた。
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