35 生徒会
無垢なあの子を愛している。
恋している。
ずっとずっと…。
それなのに男なんかに恋するなんて…。
なにかあの子を諦めさせる方法はないか?
……いや、そんなことをしてはいけない。
だってあの子の幸せこそ私の…。
ずっとそんなことばかり考えている私のもとに一本の電話が入った。
聞こえてくるのは一方的なそれ。
「…………はい。」と短い返事を返すと、電話を切る。
そして、私はソイツに男を充てがうことにした。男はみんな女が嫌い、自分のことがわかる同性が好き。それだけは嫌いな男とわかり合える唯一のことだから…。
―
土日の休みを経て、世間の学生たちが憂鬱になるという月曜日になり、学校に向かう鼎。辿り着くなり、歓声が湧き、女子生徒たちが花が咲かんばかりの笑顔を向けてくるのを見て、どうやらこの学校の生徒たちにはそんな世間の常識的なんてものは関係ないのだなと思いながら、教室に向かう途中、ふと視線を感じたので視線を向けると、そこには亜梨沙と見慣れない生徒数名と保健室の先生がなにやら話をしていた。
視線の主はどうやら亜梨沙らしく、先生が話しているにも関わらず、チラチラ、チラチラと鼎のほうに視線を送って、鼎が気がつくと器用にウインクなんかをして本当に楽しそうにしている。
あっ…殴られた。
ポカ。
「あて!」
「なにをしている?西堂?そっちになにか……げっ…。」
先生の視線を鼎たちの方に向けると、美奈を見るなり、先生は思わず顔を顰めた。
「げ?ふ〜ん…面白い反応をするわね。この不良教師。」
「…なんでお前がここにいる。」
「だってここは1年の教室の近くよ?そう言うならあなたこそなんでここにいるのかしら?だいたいあなたが説教できる立場?それを言うならあなただって…。」
「ちょ!ちょいちょい!待て!流石にここでそれは言うな!わかったわかった!悪かった!悪かったから!な!」
というやりとりを2人がしていると、その隣ではそんなことなんて興味がないかのように、亜梨沙が鼎は見覚えのない生徒たちに小声でせっつかれていた。
「会長、紹介してくださいって…。」
「え?自分でやりなさいよ。」
「こ、怖いじゃないですか!夢が現実になる瞬間を見るのなんて…私、もし!もしもですが、カナ様にチッなんて舌打ちされたら、たぶん3ヶ月は学校に来ませんよ!」
「そ、それなら私は4ヶ月ですわ!!」
「じゃあ、私は半年!」
「……なんでそんなので張り合ってるのよ…。」
「それくらいショックってことですよ。別にそれくらいで学校来なくなるほどやわじゃないです。ジョークですよ、ジョーク。副会長ジョークです。」
「そうですわ。寧ろそれはカナ様ならご褒美ですから。脳内メモリーに保存して、オカズにするのが正解ですわよね!」
「「……。」」
「……お姉ちゃん可哀想。」
「なんですって!初美!!喧嘩、喧嘩ですわ!!姉の意地を見せてやりますわ!!」
「無理だって…お姉ちゃん、運動神経可哀想だもん。私、レスリングの大会で優勝してるんだよ?」
「……く、口喧嘩で…。」
「…まあ、それなら。」
なんかよくわからない方向へと進み、ハズキがなにやら可笑しそうにしていたので、なんとなくもとの話題では火中にいたっぽいのが鼎だったことから、亜梨沙に声を掛けてみることにした。
「あの、亜梨沙先輩。」
「はい、カナくん。なにかありました?」
「か、カナくんですか!?」
「ええ、私とカナくんはとっても仲良しですから。当然です。ね、カナくん♪」
後でハズキから聞くと、どうやら様付けで呼ばれていたらしいのだが、正直、鼎自身個別の名前の呼ばれ方なんて特に気にしないタイプなのでそのまま受け入れていると、思わずツッコミを入れた、小柄で真面目そうな女の子がオーディションなんかで「1番誰々いきます!」というかのようにピッと手を上げてきた。
「か、カナ様!わた、私は西室明日美!2年生です!こ、これでも生徒会副会長をしているので、なにか困ったことがあったら、言ってください!い、以上でしゅ………。」
物凄い早口で自己紹介した明日美。彼女は今、思いっきり最後に噛んでしまったのを恥じて、スッと亜梨沙の後ろへと隠れてしまったので、鼎が「よろしくお願いします。」と声を掛けると次の人物の紹介が始まった。
「わた、私は我妻いりゅみ……。」
スッ…サササッ。
そして、巻き髪ツインテールの女子生徒は小さな明日美の後ろに隠れ、いじけてしまった。
……ええ……。
「私なんて…私なんて…。」と明日美の背中に【の】の文字を書き始め、「いひゃっ!」と明日美にくすぐったそうな声をあげさせている。
「お姉ちゃんがごめんね。私は我妻初美。2年生。生徒会会計をしてます。生徒会の他にはレスリング部に入ってて、なにかあったら頼ってね。あっ、お姉ちゃんは3年生で名前は我妻入身、書記だから。」
「はい、よろしくお願いします。」
そう生徒会メンバーの自己紹介?が終わると、保健の先生が声を掛けてきた。
「ん?お前たちカナ様への勧誘は終わったか?それならさっさと帰るぞ。」
先生は忘れてたという顔をする役員たちにガシガシと頭をかくと面倒だなという風にため息を吐くと、鼎に質問してくる。
「えっと…カナ様って部活入ってるか?」
「いえ、特には。」
「そんなら生徒会に興味ないか?こいつら男の意見が聴きたいんだと。」
「男の意見?」
疑問符を浮かべる鼎。すると、先生は軽くあらましを説明してくれた。
この学校には男子生徒はいるのだが、ほとんどは学校に滅多に来ないから、できれば男子生徒の気持ちなんかを教えてほしいらしいと他人事のように教えてくれる。
「まあ、一応これでも生徒会顧問だからな。で?どうだ?」
「…そうですね…生徒会って週に何日活動しているんですか?僕、週の半分くらい学校に来れないんですが…。」
鼎は水曜と木曜はドラマの撮影、金曜日もお店があるので放課後はまっすぐに帰らなければならない。そうなると、必然月曜、火曜の2日のみとなる。さらに撮影あくまでも目安なのでズレることも考えると……。
「ん?確かほぼ毎日だったか?…仕方がないそれなら…。」と先生が断ろうとしたところ、生徒会メンバーは怒涛の肯定をしてきた。
「オッケー。オールオッケーです!」
「そうですね!問題なしです!」
「男子生徒は来て半月に一度ですもの!週に一度でも多いくらいですわ!」
「もーまんたい。」
「お、おう…そうだったっけな?」と押され気味の先生に口々に文句を言うメンバーたち。
「しっかりしてくださらないと困ります。」
「しっかりしてください!先生!」
「しっかりしてくださいまし!先生!」
なんで私が責められなければならないんだと苛立った先生だったが、まあ、こいつらはこういう奴らかと無理矢理納得すると、もう一度鼎に聞いてきた。
「……お前らな……はあ……で?カナ様はどうなんだい?生徒会入る?」
「えっと…本当に週1でもいいなら、顔を出してみようかな…なんて…そんな気持ちでもいいならお世話になりたいです。」
学生生活に憧れていた鼎。お店にドラマと、なんとなく部活は無理かな?と思っていたので、不定期でもしかしたら幽霊部員的なことになったとしても受け入れてくれそうな、その様子は正直かなりありがたかった。
パァッと顔を明るくして、ハイタッチなんかをしている生徒会メンバーたちに暇だったら来てと見送られ、その場は終わったのだが、放課後思いの外早くに、担任のなのから、生徒会としての仕事が任されることになる。
「カナくん。もしよかったら、下村くんと会ってもらえない?」




