26 検査
「起きて、カナ兄!」
「起きてください、兄さん!」
鼎は久々に乱暴に揺すられたので、眠い眼を擦りながら目を開けると、そこには幼稚園児と小学生の女の子がベッドに乗って、鼎の顔を覗き込んでいた。
ああ、そうか…今日はこっちに泊まったんだったっけ…。
「ん〜……なっちゃんにハル、昨日は遅かったんだからもう少し寝かせてって…。」
「ダメ〜!」
「姉さんが起こして来いってうるさいんですから、起きてください!」
そんなの知らない。だって眠いんだもん。
「……ぷい。」
「あっ、ぷいってしたよ、ハルちゃん!」
「ええ、しましたね、なっちゃん!」
「やっちゃう?」
「やりますか!」
2人が離れていく気配を感じ、もう一眠りと鼎が安心して仰向けになったところ、お腹の当たりにドスンという衝撃が走った。
「「えい!」」
「うっ!」
鼎がやれやれ仕方がないと目を開けると、にっこり笑った2人がいた。
「起きた?」「起きました?」
そりゃあ、お腹にドスンとされれば、誰だって起きるだろう。
まあ、鳩尾にはいったりしなかったし、2人とも軽いからいいけど、もうちょっと…まあ、僕が悪いんだから、笑顔を向けてくれるだけいいかな?
「…うん、おはよう、2人とも。でももうちょっと優しく起こしてね。」
ナデナデ。
「えへへ~。」「それは兄さんがちゃんと起きないからですよ。」
「ごめんごめん。」
さてと鼎が身体を起こすと、反省してないなと2人は顔を見合わせ、ニヤリと笑うと、さらなる悪戯をした。
ちゅっ!
ちゅっ!
―
そして、実際に目を覚ますと、鼎は一人ベッドの上にいた。
「ふわぁ。」とあくびをして、起きてカーテンを開けようと、手を掛けたところでふと思い出す。
懐かしい夢だった。
確か今から15年くらい前だったか?たぶんホストクラブを何日か休んで、孤児院の手伝いをしていたときのことだろう。
今ではすっかり2人ともかなりの美人に育って、最近ハルは大企業に勤め始めて、なっちゃんは大学生になったんだったか?
2人とも彼氏は?と聞くと、毎回ニヨニヨするなのは気がかりだが、可愛いがっていた2人の赤ちゃんを抱っこするのが、鼎の夢の一つだった。
「…でも、なんで今さらこんな夢を?」
モヤモヤした気を紛らわせるように、カーテンを勢いよく開くと、日光が直で差し込んできて、目をやられた。
―
「鼎くん、今日は精液検査に行ってきてくれる?」
「えっ…。」
鼎がご飯を食べている時、あずさが急にそんなことを言い始めたものだから、引き攣ったような表情を浮かべていると、あずさがわたわたと慌て始めた。
「え、えっとね!べ、別にお姉ちゃんだって、強制したいわけじゃないの!でも、でも鼎くん15歳なのに、まだしてないでしょ!普通、高校に入る前にはみんな済ませてるし、高校に入ったら、毎月一回は国に精液ださなきゃだから!…だからその……嫌な思いさせちゃうかもだけど…ごめんね。お姉ちゃんのこと嫌いにならないで…。(うるうる)」
一瞬、脈絡なく、鼎の男性機能について疑問を持たれたのではと思い、顔が引き攣ったが、そういえば、ここは異世界で男性が少ない世界だった。
そうなれば、種の保存という観点に置いて、国にそれを提出するというのは、頷けた。まあ、ランクというもので、種馬のような管理のされ方をするのは、正直面白くはないので眉をひそめることだが、理解はできる。
別段、あずさが悪いわけではないので、あずさに「嫌いになんてならないです。むしろ気遣ってくれてありがとうございます。」と言うと、あずさはやはり目をうるうるさせながら、ぎゅっと抱きついてきたので、ナデナデをお見舞いすると、ご飯はすっかり冷めてしまったが、いつものように優しい笑顔を浮かべるようになっていた。
「うん!それじゃあ、忍に付き添ってもらってね。今日は私、どうしても離れられない用事があるから!」
「えっ!?」
我関せずともくもくと食事を続けていた忍は、どうやら知らされていなかったのか、驚きの表情を浮かべていると、あずさはにっこりと笑った。
…どうやら悪魔の微笑みだったらしい。
当然のごとく嫌がる忍だったが、あずさが耳打ちをすると、「なにをしている!すぐ行くぞ!今すぐだ!はりーあっぷ!」と鼎を急かし、素早く身支度を整えさせると、車に放り込まれた。
―
病院に着くと、受付で指定されたフロアに向かい、そこで出す容器の説明なんかを受けると、それほど広くない一室へと案内された。
真っ白な部屋には、ベッドと大きなテレビ。
それと……まあ、えっちいビデオに、本が置かれており、どうやらこれで興奮して、いたしてくれということらしい。
なんだかな〜と思いつつ、鼎はテキトーに物色し、一つ手に取ってみた。
「…【ロリロリエルフはご奉仕上手】……。」
鼎は思わず口を閉ざすと、きっと偶々そういう趣味のやつを引いてしまったのだと思い、それを戻すと、今度こそは普通のを、と再び違うものを引いた。
「…【ロリ妻の母乳は俺のもの】……いやいやいや。」
それから鼎はビデオ、エロ本を次々と漁っていくのだが、出てくるのは、【ロリに〜】【ロリ好きパート2】【無表情ロリは嫁になりたい】だのと、普通の一般的な成人女性のそれとみられるものは何一つなく、鼎はそっと席を立つと、扉を開けた。
―
忍は待合室で1人頭を抱えていた。
ここは東院が管理を任されている大きな病院だ。
そして、私がいるのは、本来医療関係者と男性のみが入ることを許された場所たる、搾精科の待合室。
今日は偶々、鼎以外の男性はいないが、居ようものならば、罵倒の限りを尽くされること請け合いの場所だ。
そう思うと、やはり頭痛がし、頭を抱えずにはいられない。
な〜にが!『もしかしたら、鼎くんに補助を頼まれるかもしれないわよ♪』だ!
確かにあの時は急に話を振られて、ラッキーと思った。
私は鍛えているし、比較的男を目にする機会があるから、急に発情なんてはしたない真似はそうそうしない。
しかし、私だって女なのだ!エッチなことは大好きだ!顔、腕、胸板、太ももに…だ、男性の象徴に興味津々なんだ!!
それに最近はカッコ可愛い男の子と同棲までしているのだぞ!えっちい妄想して、ナニしたのなんて数えきれない。
もう、えっちい目を向けないようにするだけで精一杯なんだ!
…だから目の前でありもしない人参を揺らされて、パクッて食いついちゃうのは仕方がないだろう。
でも、これはどう考えても、貧乏くじだろうに……まったく私はなにをやっているのやら…。
もしこんな考えが鼎にバレたら、嫌われてしまうじゃないか……嫌われたら、もう主のことなんて捨てて旅に出ますからね!!
なんて、忍が考えていると、カチャッとドアが開いた。
やっと終わったかとそちらに顔を向けると、鼎は手になにも持っていなかったので、どうやらトラブルが起きたらしい。
鼎が心配になって近づくと、受付の女性におずおずと尋ねた。
「あの〜、他の本やビデオありませんか?」
「えっ?……お気に召しませんでしたか?男性好みのものを揃えたのですが……。」
当然、鼎のお気に召すわけなどない。鼎は孤児院育ちである。小さな弟や妹がいる中で育って、この身体になるまでずっと可愛いがっていたのだ。ここにあったのはちょうどその年代の娘のそれ。今朝夢で見たこともあり、それに対する拒否反応は凄いものだった。どう考えても無理である。
「はい…できればもう少し成長している大人の女性のやつが……。」
「申し訳ありません。こちらにあるのはこれだけでして……。」
忍は受付の看護師のキラリと光る目を見逃さなかった。
「ですから!私なんて如何でしょう!!」
「…えっ?」
「背も180ありませんし、胸は少し大きいですが、年齢もまだ25です!!だから!」
忍は興奮した看護師のトークがマシンガンになる前に、鼎の手を取ると、搾精室に入った。
「…なにが、胸は少し大きいかもしれませんだ!あれはどう見てもHはあるだろう!!私だってFだというのに…どう見てもデカいぞ…まったく油断も隙も……ん?」
えっと…ここは…搾精室で…私は…鼎を連れ込んで……あっ……。
そう忍がドアを閉めたところで、ようやく事態に気がつくと、ダラダラと汗を流し始め、しっかりと手を握っていた鼎のほうを振り向くと、鼎はきょとんとした表情を浮かべ、忍の方を見ていた。
「あ、あの…。」そう鼎が口を開いた瞬間、忍はその場に土下座をしていた。
「す、すまない、鼎!わた、私としたことが、無理矢理こんなところに連れ込むなんて!!君を襲うなんて気持ちはまったくなかったんだ…いや、本当はちょっとあった。私は君のことが好きで、エッチなことをしたいと思っている。で、でも、それは絶対に絶対に合意の上でラブラブチュッチュしたいからであり、無理矢理なんて絶対にしない!神に誓う!!だから…だから…き、嫌わないでくれー!!」
―
鼎が口を開いた瞬間、忍が急に土下座をし、なにやら心に秘めていたものを暴露し始め、サングラスをしているにも関わらず、泣いているのがわかるほどに涙が溢れていた。
「え、えっと…とりあえず座りましょう?僕が忍お姉ちゃんのこと嫌いになるなんてことはないですから、ね!」
「し、しかし…。」
「大丈夫ですから!忍お姉ちゃんに悪気がなかったのはわかりましたから!」
鼎は忍の手を引っ張り、立ち上がるきっかけを作ると(鼎にまだ立ち上がらせられるほど力はない)、鼎に手を引かれる形で、肩が触れ合うが触れ合わないかという距離感で腰を下ろした。
……さて、ここからが問題だ。どうしたものか…。
忍を慰めるにはどうしたらいいのか?
優しく言葉を掛ける?……なんか、余計拗れる気がする。
鼎はここ数ヶ月、忍という人間をよく見てきた。
背が高く、いつも黒服サングラスと威圧感があるから、一歩引いてしまう人もいるが、真面目で、優しく、意外にも可愛いもの好きで、家事もできてとっても女子力高めの女性。
まだ私服はパジャマとトレーニングウェアくらいしか見たことはないが、パジャマはピンクのシンプルながら可愛いらしいものを着ていた。
正直、かなり真面目なので、罪悪感なんて吹き飛ぶほどのこと……それこそ今漏れた忍の本音のようなイイコトの一つでもなければ、絶対に引きずることは請け合いだろう。
鼎は内心ため息を吐くと、ぷるぷる震えながら口に出す。
「あ、あの…。」
「ひ、ひゃい…な、なんだろうか?」
「……忍お姉ちゃんに補助頼んでもいい?」
鼎が服を脱ぐよう頼むと、早速忍はネクタイを外すとジャケットを脱いだ。
上から一つ一つボタンを外していき、そのたびに口からは興奮しているのか、熱い吐息が漏れ出てくる。大きな谷間と水色のブラが徐々に露わになっていく、鼎はその艶かしさに思わず息を呑んだ。
ゴクリ。
ボタンを外し終え、腕を抜いていくと、今度は立ち上がり、ズボンを下ろした。忍は水色の上下揃いの下着姿となり、口にはしないが、忍の下の方はすっかり濡れていて、太ももに液体が伝っていた。
そして、ブラ、ショーツを脱ぐと、しっかりと鍛えられた女性の身体が露わになった。胸はハリがありそうな鞠のような膨らみ方をしていて、先端のほうは桜色に色づいている。…下の方は……ノーコメント。ただただえっちくて、綺麗で鼎は思わず見惚れた。
「こ、これでいいか?」
忍はすっかり顔を真っ赤にしていた。
しかし、鼎にはまだ気になることがある。
鼎は立ち上がると、手を伸ばして彼女のサングラスをそっと外した。
「んっ…。」と艶かしい声と彼女の優しく甘い香りにドキドキしていると、忍もそうなのだと確信した。
普段キリッとした目はとろんと情欲に塗れていて、鼎の全体をぼんやりと見ている。
鼎も同じく、服を脱ぐと、忍の視線は鼎の膨らんだ一部に釘付けになっていた。
「…忍お姉ちゃん、触りたいの?」
コクン。
それは悩む間もなく、純粋な欲に忠実なメスの答えだった。




