23 初登校2
さて、とりあえず学校に着いたのだが、車の中は死屍累々。
まず東院美奈は抱きつき鼻血を吹き…。
次に雨霧ハズキはなぜかあった鼎の代わりの制服を渡すと、着替える鼎をガン見。そして、やはり鼻血を吹いた。
さらに清水という運転手。彼女はずっと鼻血を垂らしながら運転をし続け、学校に着くなり、やり切った表情をして、倒れた。
美奈はともかく完全に後ろ2人は変態であることに疑いがないのだが、正直男というものに対して耐性の無さ過ぎる彼女たちによくこれでこれまで生きてこれたなと鼎はむしろ今後の彼女たちのことが心配になった。
まあ、そんなことはともかく…どうしたものか…。
鼎としては助けを呼びに行きたいところなのだが、下手に鼎が動くと逃げたと思われてしまうかもしれない。
そうなれば、あずさたちの信頼を失うことになるのでは?という思いと人としてこのままにはしておけないという思いで揺れた結果、助けを呼びに行こうとドアに手をかけたところ、コンコンと窓ガラスを叩く人がいた。
「ありがとうございます、えっと……。」
鼎を助けてくれたのは、小柄で金色の髪をした女の子。彼女は保健室に連絡すると、数人の先生たちを呼んでくれた。
助けに来てくれた先生たちがこの娘のことをなんとか先生と呼んでいたので、恐らく彼女も前の鼎同様、年齢に反した見た目なだけで、ちゃんとした先生なのだろう。
今は保健室に3人がしっかりと運ばれたのを確認して、部屋の外に出たところだ。
「天使なのだよ。カナくん。」
「はい、天使先生。」
「ううん、なのちゃんだよ。」
なのちゃん?それは年上に失礼ではと思う鼎だったが、前のお店の若い子たちが言っていたことを思い出し、考えを改める。
確か今は昔と違って教師と生徒って結構親しいんだっけ?文化祭の打ち上げを先生交えてしたりとか、そんなこと言ってたような……。
「うん、ありがとうございます、なのちゃん。」ナデナデ。
「えへへ~。それじゃあ、カナくん、職員室行こっか?ここあんまり男の子いないから、先生たちに挨拶しないと。」
ん?男子があまりいない?ということは…もと女子校だったとかかな?
少子高齢化って言うくらいだから、生徒獲得のために共学校にしたとか?
そんな想像をして、助けに来てくれた先生方も背の高い女性だけだったし、職員室に向かう途中に出会うのもやはり女性のみで、どうやら彼女が言う通り、あまり男子はいないらしい。
「たっだいま〜!ほらほら、カナくんも入って、入って。」
「あっ、失礼します。」
なのに従い、職員室に入ると、そこにいる全員がただただジッと鼎のことを見つめていた。
ほとんど全員若々しく、美人で……ん?そういえば、この身体になってから美人な女の人にしか会ってないような?
それから自己紹介なんかをすると、万雷の喝采とでも表現してもバチは当たらないのではと思うほどの拍手喝采を受け、「可愛い。」「好き〜。」「結婚して〜。」なんかの冗談を言われると、いよいよ教室へと向かうことになった。
いつの間にか、なのと手を繋いでおり、ルンルンと腕を振ってくるものだから、孤児院にいた頃が凄く懐かしく、知らず知らずのうちに目を細めていた。
―
「は〜い、それじゃあカナくんどうぞ〜。」
楽しそうななのの声、それに従って入って行くと、そこにいたのは、見事に女子、女子、女子……男が一人もいなかった。
流石に5人くらいは同年代の男子がいるだろうと、鼎は当たりをつけていたので、内心目を見開いていると、もっと驚くべきことがあった。
クラスメイトたちが誰一人欠くことなく、鼎のことをジッと身動きすることなく見つめていたのだ。
いや、まあ確かに鼎は子供の頃から女の子たちと暮らしていたので、女子への耐性はかなり高い方なので、女性の友人というやつがかなりいたし、ホストなんて職業柄、店でもずっと女の子たちと一緒だった。
そんな彼でも流石に40人近くの女性に一心に見つめられるとすれば、たじろぐのは仕方のないことだろう。
「それじゃあ、カナくん、自己紹介して。」
「えっ、はい。それじゃあ…。」
鼎が大きく息を吸い込もうとすると、なぜか周りの女子たちが大きく息を吸い込んだ。
……本当にやりにくい。
でも頑張って高校生活を満喫するんだとぎゅっと手に力を入れると、口を開いた。
「おはようございます。はじめまして。僕は美馬鼎といいます。好きなものはスイーツ。ケーキにパフェにフィナンシェなんかの洋菓子だけでなく、和菓子も上品な甘さが大好きです。美味しいスイーツ屋さんがあったら、教えて下さいね。それにしても皆さん、とっても可愛いですね。どうか末永く仲良くしてくれたら、嬉しいです。よろしくお願いします!」
……どう?
名前、好きなもの、褒め言葉、それにスパイスとして、高校の友人とは大人になってからも付き合いがあるらしいから、それをちょっとふざけて言ってみたんだけど?
ツッコミもなく、クスリという笑い声すらない。あまりにもシーンとした雰囲気に鼎は頭を上げるのが、少し怖かった。
しかし、なのの冗談に乗った可愛いらしい一言でそんなものはどこかに吹き飛んでしまった。
「そ、しょんな…いきなりプロポーズにゃんて…なのてれちゃうの…。」
頭を上げて、なのの頭の上に手を乗せる鼎。
ナデナデとしていると、いやんいやんと身体を揺する彼女を尻目にそっとクラスメイトたちの方に視線を向けると、みんな鼻血を吹いて、机に突っ伏していた。
「?なんで?」
そんな声が響き渡る教室には、その問に対する答えをしてくれるような存在はいなかった。
そして、最初の時間はなのの社会の授業だったのだが、実質鼎となのの2人という個人レッスンとなり、なのの言葉を聞くたびに「?」疑問符を浮かべ続け、教科書を何度も確認するうちに、【男女比1:10】だとか、【最近では女性による男性を襲う事件が…】だとか、【男性保護官?】だとかの聞き覚えのないワードが次々と出てきて、頭が混乱し続けた結果、最終的にここは異世界というやつではという結論に達した。
でもまあ、女の人は別に変わった様子もないし、たぶん大丈夫。
男女比が崩れ去ってしまった世界。
ホストということもあり、少々の変態性は許容の範囲内の鼎。脳天気な彼の行く末は今後どうなるのか?




