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22 Sクラス女子の期待

私の名前は水沢里香。


この春、高校に入ったばかりの新入生である。


まあ、と言っても、もう入学から一月あまり経っているので、新鮮味が薄れてきているから、普通の高一という表現が正しいのかもしれないけど…まあ、それはよしとしよう。


私の通っている学校は東方学園というエスカレーター式のはずなんだけど、女子には情け容赦ない学校で、中学から高校に上がる時の試験で成績が振るわなかった人は平気で、外の学校に飛ばされていた。


それってエスカレーター式じゃないでしょ、と思わないでもないが、外部編入組は半数がSクラスと内部進学組よりもハードらしいので、一応は先に入ったメリットはあったのでは?と言われている。


私も幸い、運動はともかく勉強はできたので、Sクラスということで落ち着いたから、ラッキーと入学前は思っていたのだけど、いざ高校に上がってみると、それは失敗だったのではと思った。


なんでそんなことを言うの?エリートと言われるSクラスになったんだからよかったじゃん!と、この学園の生徒以外の友人には言われるけれど、おそらくこのSクラスに入れば、わかると思う。


この東方学園はあの四方位院の一つの東院が運営している学園なので、当然設備が良く、学校自体が綺麗なのは言わずもがなである。もちろんこれが目的で入学した人はいるだろうが、ほとんどの人の目的はそれではない。


この学園は開校以来、S~F各クラス2名ずつは貴重な男子の囲い込みに成功しているのである。


中学までは完全通信教育だった彼らは高校からは家の外に出て学校に通えるようになる。そんな彼らを絶対に拾って来てくれるという安心感。それこそがこの学園入学の最大の理由。それに勉強を頑張る、もしくはスポーツで成績を残せば、比較的質の高い男子生徒がいるクラスへと入ることができる。


これこそ実力主義を容認し、生徒による暴動が起きない原点にあったはずなのだ。


しかし!しかしなんと……今年の勉学、スポーツの成績上位者で構成されるSクラスのみそれは裏切られました。


ハ〜イ拍手!パチパチパチ。


「……はあ…。」


まずいけなかったのが、今年はさらなる男子不足と男子校男子獲得枠拡張の結果、それぞれのクラス2人ずつという最低ラインになってしまったこと。


これは男子校に入れなかった男子が自殺するという事件が多発した結果の措置だったのだが、それがモロに私たちの年齢から適用されてしまったのだ、


それならば、Sクラスにも2人はいるはずなのだが…うちのクラスの男子は一人が不登校、そしてもう一人は……なんと結婚して家に入ってしまったのだ。


わずか一日で…運命の出会いだと…他のクラスの女子と…曲がり角でぶつかって………ゴールイン。


「……はあ…。」


……そう、Cクラスの女子が色目を使いやがったのだ。本当に最低なことに…。


せめて、それで他のクラスも誰も登校しない不登校ならば、少しは溜飲を下げたのだが、他のクラスはちゃんと半月に一度の登校はしているのだという。



つまりエリート(笑)



成績が悪いほうがよかった説が誕生した。


もう泣きたいくらいである。


確かに結婚とともに旅立った男子は顔はよかったし、性格もいきなり罵詈雑言をぶつけて来なかったことからもいいのだろう。ということは、不登校の子もそうに違いないと、入学時点のほんの数時間は学校側のSクラスという成績優秀者の優遇は感じられた。


しかし、しかしだ!


いい男から結婚していくのはわかっているが……これは学校側のせいではないにしても、これはあんまりだろう?


正直、実力主義に重きを置いているこの学園なのだから、成績下位クラスからの男子生徒の補充をしてくれてもいいのではないかと思う。


(というか、Cクラス、あんたら男子一人ゲットしたんだから、一人こっちに返せ!)


当然、そのクラスからの反発は免れないだろうが、それはあくまでも学校側の責任で対処するべき事柄だ。



とにかくSクラスに男子を補充しろ!私たちにげんき(男子)をわけてくれ……。



こうしていつになってもその補充が行われないことから、つい先日まで勉強そっちのけで嘆願書の制作と授業ボイコット計画をしていた私たちだったが、先日こんな噂がふと流れた。


「Sクラスに新しい男子入るってよ。」


私たちは狂喜乱舞した。


実際に勝利の舞を私たちの神【ヘタレクールOLは甘えん坊弟に手が出せない】のグッズたちに奉納した。


このドラマがなければ、きっと私たちは全てを捨てて旅に出ていたことだろう。キツイ時、苦しい時、病めるとき、健やかなるときも彼とともに……のスローガンのもと。


「あっ、でもさ、こんな時期に編入って、ヤバいやつなんじゃ……。」


あらあら、うふふふっ、それは言わない約束でしょ?………というか!言わないで!佐藤さん!空気読んで!!私たちに夢を見せて!!


わずかばかりの希望を見せられた処女(おとめ)たちに幸あれ。


「まあ、佐藤さん、そのへんで……でも、まあ、カナ様ほどじゃないにしても、ちょっといいこと…じゃなかった!ちょっといい人だといいよね~。」


漏れ出た本音はともかく、「ね〜。」という同意は何様かとも思うが、死んだ魚の目で、髪の艶、肌のハリが失われつつあった男子欠乏症末期の1年Sクラスの総意。


ガラガラと横開きのドアが開き、低身長童顔スレンダーののんびり屋という男の妄想を具現化した、女子なら舌打ち必須のモテモテのちっこい担任が出席簿を両手で抱えながらやってくると、舌足らずで子供のような声が教室に響き渡る。


「は〜い、席についてね〜。今日はてんこうせいが来てま〜す。」


軍隊のような素早さでクラスメイトたちが素早く席に着くと、担任の天使(あまつか)なのがマイペースに「みんなすご〜い。パチパチ。」と称賛をくれる。


しかし、私たちにそんなものはいらない。


とにかく、なんでもいいから、さっさと、男を寄越せ!!


そんな声が天に届いたのだろう。


なのが能天気に転校生を呼ぶ。


「は〜い、それじゃあカナくん、どうぞ〜。」


ガラガラという音とともに入ってきた人物を見た瞬間、業界最高の吸収性という謳い文句のナプキンに感謝した。


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