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17 撮影

うん、正直、あのカナという子の印象は悪くない。


なんとなくだけど、本気で頑張ろうとしているのは伝わってきた。


ガリガリでもなければ、ブクブクでもない。


顔立ちも見たことないくらいチャーミング。


……でも、男だ。きっと演技に違いない。


ヨルはそう考えつつ、役に入り込んだ。



(ドラマ一話)


私の名前は音無夕子。しがないOLだ。いつものように業務を片付け、残業がなかったので終業時間ピッタリに変える準備を始めると、後輩の落合丸子が声を掛けてきた。


「先輩〜、今日飲みに行きません?」


「悪いわね、今日は用があるの。」


「え〜〜。」


不満げな表情を浮かべる丸子に「仕方ないでしょ。」と面倒そうな表情を浮かべながら、オフィスを出ていくと、今日はどこに寄るでもなくまっすぐに家に帰ることにした。


実のところ、私は今日から弟と暮らすことになったのだ。彼は母親が最近あまりにも私がだらし無いからと、送り込んできた刺客である…のだが、これは恋人のいない私にとってはご褒美である。なにせ、家の弟は顔も可愛いらしく、性格も良ければ、家事もできる。おまけに私に懐いていて…グヘヘヘ……っと、失礼。まったく私としたことが、淫乱メスみたいになってしまったわ、淑女として恥ずかしい。


そんなことを考えながら歩いていると、すっかり自分の部屋の前におり、ドアノブに手を掛けていた。


ふと最近会っていなかった弟が変わっているのではと、胸がキュッと締め付けられる感覚に陥った。


もし「お姉ちゃんなんて大っ嫌い」なんて言われたら……。


ブンブンと頭を振ると、勇気を込めて、鍵を差し込み、ドアノブを回し、ドアを開けた。


すると、ドタドタとこちらに向かってくる足音が聞こえてきた。


その主は嬉しそうに笑っており、私の前に来るとこう言った。


「お姉ちゃん、おかえり。ご飯にする?お風呂にする?それとも……僕?」



おっおっおっ……む、胸がく、苦しい……し、心臓が止まる…。


えっ?えっ?なに?なにこれ?なにこれなにこれ?なにこれ?思わず役から出てきちゃったじゃない…。


こ、これってこんなにヤバいセリフだったっけ?


た、確かに男性に言ってほしいセリフランキングトップ3に入る言葉だし、初めて漫画で読んだ時、キュンってなった。


うん、私でもなった。


正直こんな弟いたらいいな〜とも思っただけど、それって2次元の話でしょ?


つまり理想の弟ってこと…だよね…?


でもでもでも、なんかこのカナくんに言われるほうが漫画よりも凄いんだけど……。


あ〜…たぶん股のあたりが凄いことになってるし、上もブラに先っぽが擦れてる。


私、顔には出ないほうだから、たぶん大丈夫だけど、もう今までのエッチなことなんてほんのお遊びだったんじゃないかと思うくらい、き、気持ちいいんだけど〜〜んっ!!


ビクビク……って、はっ!?


せ、セリフ忘れてた……。


キョトンとした様子で私を見つめてくるカナに()()()悪戯したい衝動を抑えると、周りを見渡した。


すると、案の定というかなんというか、全員がだらしなく舌を出し、人によっては目線がどこかにイッてしまうという…俗には言い難い顔を晒しており、ヨルはそっとカナに見せないように視界を遮ると、コホンと咳払いをした。


「「「………はっ!」」」


そして、監督がパンパンと手を叩くと、撮影は再開された。


いつもなら「いいね〜。」なんて声がけや、ダメならダメだという指摘があるのだが、そんなものは一切なし。


監督も護衛の人でさえ、誰も彼も余裕なく……というか、私が一番余裕なくなんだけど……その素晴らしき一瞬に全てを賭けていた。


出てくるな〜出てくるなよ〜私の自我。


(再開)


「ご飯。」


「うん!それじゃあ準備しておくから。着替えて来るんでしょ?」


「ええ。」


夕子はそうクールに告げると、部屋に入り、しっかりとこの部屋のドアが閉まったことを確認すると、偽りの仮面を脱ぎ捨て、性犯罪者のごときトロ顔でベッド飛び込み、ローリングする。


「もう!もう!もう!しゅき!しゅきしゅき、大しゅき〜〜っ!!カナきゅん、ずいぶん見ないうちにもっと可愛いくなっちゃって〜!お姉ちゃんをどれだけ好きにさせちゃうの〜!あ〜もう我慢できねぇ、押し倒してやりゅからにゃ〜〜っ!」


夕子はそんなふうにしばらくの間好き放題、ベッドを荒らした後、ジャケット、スカートを脱ぐと、ワイシャツのボタンを外し、右腕から抜いて、下着姿になった。


あまりの興奮からか、身体は湯気が立ちそうな程に蒸れていて、青の上下揃いのブラだけでなくパンツのほうも当然のごとく湿り気を帯びていた。


もういっそのこと、一発と再びベッドに向かおうとしたその時。


トントントン。


部屋をノックする音が聞こえた。


この家に住んでいるのは、私と奏、当然ながら相手は決まっている。


私は表情筋を固めると、いやらしい視線にならないように気をつけて、ドアを開けた。


「あっ、お姉ちゃん、ご飯の準備もうできたよ。お姉ちゃん遅いから、呼びに来ちゃった。早く食べよう、僕お腹空いちゃった。」


「あら?食べてなかったの?」


「うん!だってお姉ちゃんと一緒に食べたかったんだもの!」


キュン!


いや!キュンじゃない!いい加減にしないか、私!


キュンがどうせすぐにジュンになるんだろう?そして押し倒して奏レイプ目。そうはさせるものか!!カナきゅんは私が守る!!


「…わかった、すぐに行くから。」


「うん、じゃあすぐに来てね。あっ、それ洗濯物でしょ。洗っておくから貸して。」


「ああ…。」


ほのかに暖かく、自身の体温と匂いが染み込んだそれを渡すと、奏はそれを嫌がることなく受け取り、それを確認した私はドアを閉じた。


本当にいい子である。普通の男子なら、ゴミを見るような目で見た後につばでも吐き捨てているだろうに…。まあ、カナきゅんからならよくよく考えてみると、オッケーかも?あの無垢な瞳が私にだけ……ぐへへへ……。


「おっと、こんなことを考えてる場合ではない。奏がお腹を空かしているんだった。」


お腹を空かせたカナきゅんは可哀想だ。口移しで食べさせてやらねば、うん!急ごう!


適当なスウェットを手に取り、履こうとしたところで、奏はワイシャツの洗い方を知らないのではと思い、それをやめ、慌てて部屋を出る。


「奏、ワイシャツだけど…っ!?」


慌てて飛び出た私は驚きのあまり言葉を失った。なぜならそれは奏は洗濯場に行ってはなく、まだ廊下にいて……。


「スンスン、お姉ちゃんの匂いだ〜。いい匂いで落ち着く〜。」


…私のワイシャツを温もりを求めるように抱きしめて、あまつさえ匂いを嗅いでいたからだ。


なっ!なななななっ!!!


「お姉ちゃん、大好き〜〜!!本当は前みたいにぎゅっとしてほしいんだけど無理かな〜。仲良くご飯楽しみ〜。でももうちょっと、もうちょっとだけお姉ちゃんを感じてたいな〜………って!?ええっ!お姉ちゃん!?ご、ごめんね、こ、これは…その……。」


慌てた奏に私は近づいていくと、抱き抱えられていたワイシャツを奪い取る。


「なにをしている、奏。お前変態か?」


奏は私のその言葉を聞いた瞬間、目に涙を滲ませた。


「う、ううう…ご、ごめんなさい……お姉ちゃん嫌だったよね…もうしないから、嫌いにならないで……。」


しょんぼりと俯く奏を、家にいた頃は奏の下着を毎日のように盗み出し、嗅ぐだけではなく、ゴムがダメになってしまうかもしれないのに無理やり履いてナニしたりなんてこともしていた私は、人のことは一切言えないにも関わらず、性欲の赴くままにというのは極力見せないように、ぎゅっと抱きしめた。


「なぁ、奏、私もお前が大切だよ。だからこんな勿体な…コホン、こんなことしなくていいんだ。抱きつきたいなら、抱きついてくれていい。お風呂に入りたいなら、一緒に入ろう。なんなら一緒に寝たいなら、毎日だって寝てやる。だからこんなこともうするな。わかったな?」


「お、お姉ちゃん!!」


「おっ、おっふ……っ!!」


奏は下着姿の私が欲望をそのまま口にし、さらにはこんなメス丸だしの声を上げていて、あまつさえパンツなんてびっしゃびしゃにも関わらず、そんなことに気がつくこともなく、力強く抱きしめてくれると、私の肩を微かに濡らした。


それから奏が落ち着くまでそうしてやり、夕飯を食べると、どうやら奏はもうすでにお風呂には入っていたらしく、一緒にお風呂は断念し、寝るのはもう子供じゃないと断られてしまった。


しかし、私にはこれがある。


奏が宝物のように抱きしめていたワイシャツだ。


私はそれを再び着ると、いつものように励むのだった。


そして、嬌声は夜中響き渡る。



「はい、今日はここまでお疲れ様でした。」


監督がそう言うと、みんな一様にして片付けもせずに、このスタジオを出ていってしまった。


そんなに我慢してたなら、()()()()()()してくればいいのにと鼎が思っていると、あずさが護衛としてなぜか貸してくれた金森姉妹以外に一人残っていた人がそこにいたのでせっかくだから、しっかりと挨拶をしておこうと思った。


彼女は背は高く、クールな印象で演技中以外はずっと無表情の、どこか作り物めいた美しさを持つ人だった。


「えっと、僕カナって言います。よろしくお願いします。えっと…。」


「…ヨル。」


「えっとヨル先輩ですね。これからよろしくお願いします。」


「よ、ヨル先輩!」


「はい、ダメ…でした?」


「……いいけど……。」


「けど?」


「別に媚売らなくていい。演技とかされても困る。(演技じゃないって言って。)」


そうどこか残念そうに口にしたヨルに鼎は思わず笑ってしまった。


「あはは、媚ですか?」


「なに笑ってるの?(まさか演技…嫌っ!!)」


「ごめんなさい、僕そういうつもりというか、芸能界でやっていくつもりなんてないんです。だからその…何といいますか……。」


「?」


「実はこれが素だったりとか…?」


「素?(素?)」


「……はい。お恥ずかしい話なんですけど…。」


実のところ、鼎がホストクラブでしている子供みたいなそれは、最も素に近い。これは前のホストクラブで働き始めた時に、正統派、俺様系など色々なキャラを試してもまったくと言っていいほど合うものが掴めなかったので、先輩に頼ると、SやれMやれの本能的なもの、ある種の性質から探るといいんじゃないかと提案された。それで鼎のそれを知るために、彼が知り合いの催眠術師に頼んで僕の深層心理を探ってくれたのだ。


その時に出てきたのがこのお子様な本性だった。


元々年齢相応の人格こそ素だと思っていた鼎は分析するに、どうやら孤児院で年上になるにつれて作られた人格であり、そんな無理のせいで心が少し疲れていたらしく、さらに人気がなかったのだとか…。


「そう……ならいい。(よかった。本当によかった。好き。)よろしく、カナ。(末永く。)」


「はい、よろしくお願いします。ヨル先輩。(この撮影が終わるまで。)」


そうして、握手する鼎とヨル。


その時のヨルの胸中を鼎は知らない。


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