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14 宣戦布告?

あずさは慌てていた。


あの南院の次期当主である夏希がホストクラブ【太陽は東から昇る】に来たというのだ。


あの陰険クソババアの娘が。


てっきり先日のあれに懲りて、店までは来れないと思っていた。


あの家系は陰険も陰険で、さらにキレるとなにをするのかわからない。


事実、あずさの先祖もそれで痛い目に会ってきたのだ。


あずさの目から見て、あの娘はだいぶマシに思えたが、どうやら測り違えたらしい。


今回来たのはおそらく前回のあずさのからかいにブチギレて、実力行使、おそらく無理やりにでも鼎のことを南院に引き込むのだと思われた。


「忍!」


「わかっております。」


以心伝心。


すぐさま立ち上がり、店へと向かい、受付に詳細を聞く。


「え、えっと…私も困惑しておりまして、んっ!…み、見て貰えれば、わかりますので、そこ、そこですから!」


そう言うと、店の奥へと引っ込んでいってしまった。


彼女は顔を真っ赤にして、もじもじとしていた。


正直意味がわからないが、おそらくなにやらまずいことが起きたのだろう。


すぐさまそこに駆けつけると……。



「夏希お姉ちゃん、はい、あ〜ん。どう?おいしい?」


「うん、おいちぃ。じゃあ今度はカナにしてあげるわね?あ〜ん。」


パク。


差し出されたスプーンからあんみつを食べる鼎。


すると、笑顔がさらに輝きを増した。


「うん、とってもおいしいよ、夏希お姉ちゃん。夏希お姉ちゃんが食べさせてくれるからかな?」


「えへへ~、私もカナが食べさせてくれると、とってもおいしいわ♪」


「夏希お姉ちゃん。」


「カナ。」


ぎゅっ。



心配してきてみれば、そんな光景が繰り広げられていた。自然とあずさの目は遠い目をしており、ついてきた忍に告げる。


「……帰りましょうか、忍?」


「…………はい。」


それからトボトボと歩き、イチャイチャする二人の声をBGMに店を出ると、エレベーターで執務室に戻り、ドカッと腰を下ろし、天井を見つめる。


忍も同じようにソファに腰を下ろして、それから何時間か。


主従仲がいいためか、同時に正気に戻り、顔を合わせると、その顔は憎しみに満ちていた。


「あんのクソガキ!」


「目にもの見せてくれるわ!!」


「ヤりに行くわよ!」「ええ!」


二人して肩を怒らせ、下に行くと、その頃には、夏希はいなくなっていた。


「くっ…遅かった…。」


「チッ、逃げ足の早い。」


怒りのぶつけどころがなく、イライラしていたあずさと忍。すると、ちょうどカナがフリーだったので、問い詰めようと受付の花江に二人同時に告げた。


「「カナを指名したい!」」


「ひゃ、ひゃいっ!!こ、こちらです!」


どうぞと店の中を指し示され、ズカズカと歩いて行くと、すぐに鼎のことを見つけた。


「鼎くん、あなた…っ!?」「鼎、貴様っ…!?」


すると、カナはこちらへと気がついたのか、顔を向けた。


そう!広いテーブルを小さな身体をめいいっぱい使ってフキフキするカナがこちらに笑顔を向けたのだ。


「あっ、あずさお姉ちゃんと忍お姉ちゃんどうかしたのですか?もしかして僕に会いにもしかして来てくれたとかですか?嬉しいです。」


鼎は物凄く嬉しそうだった。


笑顔なのだが、少し恥ずかしいのか、目線が偶に逸らされるが、それこそいいアクセントになっていて、邪気が失われ、ほんわかとするあずさと忍の二人。


そして、今二人の心は一つになった。


「うん、お姉ちゃん、鼎くんに会いにきたの。」


「ああ、お前の仕事ぶりを見にな…頑張ってるようじゃないか、鼎。せっかくだから、接客の練習に付き合ってやるとしましょう、主。」


「うん、忍の言う通り、私達には監督責任があるものね。鼎、よろしくね。」


そんなやりとりをしていると、憎いあンちくしょうのことなど、もう頭の隅っこにすらなかった。


その頃、都内某所にある和風屋敷、南院邸にて。


「なにをしている!この馬鹿娘が!」


ピシャリ!


「なにをって謝罪です。悪いことをしたならば、謝る。それは上に立つモノこそしなければならないことでしょう。」


なんて、正論もド正論をぶちかましてくるのだから、やりきれない。


「なんて馬鹿なことを……。」


「馬鹿なこと?」


オウム返しでそう繰り返すと、怒髪天。


「なにをふざけたことをおっしゃいます!これは次期当主としてしなければならない当たり前のことでしょう!」


それからもむしろこちらがどれだけ礼を失する行為なのか、人としてという部分でと、夏希は春乃に訴えかけた。



この娘は私の娘とは思えないほどに真っすぐで、優しく、そして気高い。


そのため、今回の行動は予想できたのだが、先日あれほど美羅にまで、「かの人物は東院あずさの男」だと言い聞かせられていたのだから、押し留まると思っていた。


しかし、それだけでは、どうやら夏希のことを抑えきれなかったらしい。


「…もうよい!話すことなどありはしない。出て行け。」


「ええ、こちらこそ!」


バタンッ!


障子に穴が空くほど力強くそれを閉めると、ぶつかりあったそれぞれ衝撃で、微かに外の景色が見えていた。


そこに月はなく、星のみが輝いていた。



実は先ほど南堂美羅から連絡があったのだ。


美羅の母が独断専行し、東堂テレビでやる予定のドラマキャストを引き抜いたというものだった。


南院次期当主の東院あずさの男への来訪当日に、揉めていた東堂と南堂のこのやりとり。



これは状況から見れば、明らかな宣戦布告である。


南院春乃の胃のあたりが微かにキリッと痛みだした。


誰もいなくなった部屋でお腹を抑えて呟く。


「……どうしよう……。」


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