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13 夏希、いざホストクラブへ

南院夏希は家に帰り、当主謁見後、自分の部屋に帰った頃、ようやく正気を取り戻した。


今日は本当に頭がゴチャゴチャで、それに怒り過ぎのせいか、正気に戻ったと言ってもやはりぼ〜っとはしている。


縛った青い髪を解くと、口の中から湿ったわたをとり、かなり大きく膨らませていた爆発しそうな胸元から盛々にしていたパッドを取り外し、自分としては気に入っているほどほどの大きさの胸を取り戻した。


そのままベッドに身を投げ出して、しばらくぼーっとしていると、不意にあずさの憎たらしい微笑みを思い出し、怒りが湧いてきたので、なぜか未だ手に持っていた生暖かいパッドを天井に向けてぶん投げる。すると、パフという形で2つのそれが自分の胸のあたりにピッタリと重なった。


……ブチッ!


「あんの年増め〜〜っ!!」


さらに苛立ちがつのり、寝てなんていられるかと身体を起こすと、不意にポケットからポロリと黒色の会員カードが出てくる。


怒りに任せて、それを2つ折りにしようとすると、思わず立ち止まった。


「……はあ…なにやってんだか…。」


ポイッとベッドのほうにそれを投げるとゆらゆらと漂いながら、音もなくそれは座った。まるでこここそ自分のものだという雰囲気を漂わせるそれに怒りをぶつけてしまおうかと思うが、それはやめた。


私は南院の次期当主である。


正直、木本なる人物のことはどうでもよかった。母はできれば、確保してこいとは言ったが、夏希としては詳細を聞く限り自業自得なので煮るなり焼くなり好きにしろという感じで、夏希本来の目的は純粋な謝罪にあった。


東院の奴らは気に入らないが、やったことはやったこと。


顔に泥を塗るということをしてしまったからには、どれだけ気に入らない人物だろうと頭を下げるまではする。


今回はこちらが悪いのだから、当然だ。


だからこそ、今回もそのつもりだった。


しかし、血は争えないのだろう。なぜかはわからないが、本能的に喧嘩腰になってしまったのだ。あの母から信頼の厚い美羅でさえ、謝罪なしの始めっからの交渉という礼を欠くようなことをしてしまったのだから、まだ若い夏希では仕方がないのかもしれない。


最悪それでもと思い、せめて例の男性には謝っておこうと思ったのだが、あずさにからかわれ、それもなし。


今日は何を成すこともなく、本当にただただ身体を運んで、持ち帰ったというだけで終わってしまった。


そういえば、あずさが店?で指名をすれば会ってもいいと言っていた。


夏希は慌てて、カードに書かれた場所を確認すると今日行った場所と同じ場所の階違いだったので、明日は予定があるので、明後日にでも、()()()()()()謝罪に向かおうと思う。



一日空け、その店に入るとき、夏希は不機嫌だった。


理由は単純明快である。


会員カードにはしっかりと南院夏希の名前が書かれていたのだ。


あの日、夏希は親友である南堂愛羅の名前と姿に変装していたというのに……。


どうやらバレていたらしく、にも関わらずそれに言及することなく、ただただ遊ばれたということだ。


ギリッ!


屈辱だ。


夏希がそんな風に怖い顔をしていると、ふと声を掛けられた。


「あの~、お姉さんが僕を指名した方ですよね?」


夏希が怒りをそのままにキッ!と睨みつけると、その少年は苦笑いを浮かべていた。


夏希はそれが目的の人物だとわかると、慌てて頭を下げた。


「ご、ごめんなさい。私ったら、謝りに来たのに、こんなイライラしてて。」


ふと相手は男だからそのまま頭でも踏みつけられるのでは?流石にそこまで許す気はなかったので、身体を起こそうとすると、彼は夏希の肩を掴み、身体を起こす手伝いをしてくる。


「えっと、やめてください。僕になにを謝りたいのかわからないですけど、ここは女性の方に夢を与える場所なんですから…。」


「いや、でも流石に木本の件は……。」


「えっ?木本さん?」


「うん、あいつをここで働かせようと働きかけたのは、うちの家だから…。」


「それってお姉さんに関係ないんじゃ…。」


「ううん、残念ながら関係はあるのよ。私はその家の次期当主なんだから……だから…本当に申し訳ありませんでした。あなたの言うことならできる限り叶えさせて貰いますから、どうかそれで許してください。」


夏希がようやくしっかりとした謝罪をする。


すると、彼はとても困った顔をしていた。う〜んと悩むように腕を組むと、少し経っていいことを思いついたと、提案してきた。


「うん!それじゃあお姉さんは、今日僕を思いっきり甘えさせてください。それで許します。」


ん?甘えさせる?


えっと、どういうこと?


意味不明の言葉に思わず顔を上げ、困惑していると、彼が夏希の隣に座ってきた。


すると、どんどん、見たことがないほどで内心驚いていた美少年の顔が夏希に近づいてくる。


えっ?えっ?えっ?


「僕はカナ。お姉さんのお名前は?」


「えっと……夏希だけど……。」


「うん!じゃあ夏希お姉ちゃんだね。」


「お、お姉ちゃんっ!?」


そんなの妹にも呼ばれたことないのにっ!?


でもなにこれ?凄くいい!


困惑する夏希。


それに対し、カナはそんなの関係ないとばかりに抱きついてきた。


バフッ。


「ふぇ?」


「夏希お姉ちゃん、温かいし、いい匂い。」


「にゃ、にゃにをしてるの?きゃ、きゃなっ!?」


「うん?夏希お姉ちゃんに甘えてるんだよ。言ったでしょ?僕本当はこうするのが大好きなんだ。でもずっと我慢してたの。」


「なっ!なっ!なっ!?」


大混乱の上、結構な性的衝動が起こり始め、目がトロンとし、股のあたりがむずむずし始めた夏希。


彼女はなんとか理性を振り絞ると、カナの両肩を掴み、身体を引き離した。


「こ、こういうことを男の子がしてはいけません!女は狼なんですよ!襲われてしまいます!だからもっと自分の身体を大切にっ!?」


自分に打ち勝つため、なんとか言い切ろうとし、終盤に近づいたため、顔を上げるとカナは悲しそうな顔で目元に涙を溜めていた。


えっ…ちょっ……。


「夏希お姉ちゃんは僕のこと嫌いなんだ……だから僕にくっつかれるのが嫌なんだ……ごめんね、夏希お姉ちゃん。」


目元を拭うカナ。


カナは夏希より背が低い、そのせいか、彼は自然と上目遣いとなっており、夏希の湧き上がる衝動に対してそれはあまりにもクリティカルだった。


「そ……。」


この時がおそらく最後だったのだろう。抵抗し、バリケードを張ることができたのは……。


可愛いらしい顔立ちに、いい匂い、演技かもしれないと思うがそれをすると心が苦しくなるほどの振る舞い。


そんなものに抵抗できるのは、女ではない。


当然ながら、夏希も堕ちて。


「そんなわけないでしょ!!」


ガバッとカナのことを引き寄せると、嬉しそうな笑い声とともに、夏希の背に腕がまわってきた。


「僕、夏希お姉ちゃん、だ〜いすき。」


「私もカナのこと好き〜。」


夏希の耳に届く甘えたメスの声。果たしてそれは誰のものなのだろう?


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