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1 僕、売られた?

「ん?」


美馬鼎は気がつくと、頭を抱えていた。


場所は見覚えがあるようなないようなところ。


どこかフローラルな香りがする。


そこには座れるくらいの大きさの陶磁器があり、上に機械仕掛けで温度調節なんかができるものが置かれ、細い水が出るようなものも搭載されている。


それの蓋を開けると、陶磁器部分に水が張られており、座った横にはグルグル巻きになった紙が引き出しやすいように…………。


うん、これ以上言わなくてもわかるだろう。


ここはトイレだ。


鼎はなぜかわからないが、目を覚ますと、トイレで頭を抱えるような仕草でいた。


自身でそんな特殊な睡眠法は編み出した覚えもなければ、聞いた覚えもない。


もう混乱の真っ只中だ。


なんで?ホワイ?……ダレカオシエ〜テク〜ダサイ…。


鼎がとりあえず出ようと思っていると…。


ドンドンドンッ!! 


目の前のドアを激しく叩く音がする。


はいはいはいと我慢の限界が来た人物が急かしているのだろうと思い、急いで出ようとドアに手を伸ばしたのだが、次の瞬間、鼎は固まった。


「美馬!美馬鼎!いるんだろう!!開けろ!!」


なぜならそれは女性の声だったからだ。


それも相手は怒っていて、鼎を害しようとしているのが明白だった。


「えっ?」


鼎は混乱していたからか、思わず声を出してしまった。


「なんだ……いるんじゃないか、それならさっさとしないか。」


どうやら彼女は鼎が逃げたのではないかと思い、怒鳴り声を上げたらしい……ということは、鼎は()()()()()()()()()()ようなことをしたということ以外には考え難い。


絶対に出たくない。即座に鼎はそう思った。


しかし、声を上げた以上、居留守という手段が使えなくなったので、出ていくほかはない。


鼎は一応用を足していましたよというポーズとして、水を流すとなんでもないかのようにドアを開け…。


「お待たせしました……。」


…鼎はドアを開けた瞬間、無言になった。


「ほらさっさと手を洗え、もう主がお待ちだ。」


「は、はい…。」


鼎は洗面所で手を洗うと、女性はハンカチを差し出してくれた。


手を拭きながら、あっ…意外にいい人かもと思うのだが、やはりどう考えてもその想像は厳しい。


なぜなら彼女は黒塗りのスーツにサングラスという出で立ち。その姿は明らかに……。



鼎が案内され着いたのは、どこか重厚な印象を受ける両開きの扉の前。


その扉の両側に鼎を案内してきたようなブラックな女性がそれぞれ一人ずつおり、その扉の先にいるであろう人物がブラックな社会の人物であることを伺わせた。


鼎に付き添った人物が右側にいる方に耳打ちすると、彼女は小型マイクを使った。


すぐに耳にしているイアホンから指示を受け取ると扉は開かれた。


「美馬鼎、主が入出を許可するそうだ。」


「は、はい…。」


すると、そこから通されるのは鼎のみで案内してくれた女性は来ないらしい。


中々前に進もうとしない鼎に彼女は声を掛けてくる。


「ん?どうした?早く行かないか。」


急かされる鼎は心細さに思わず声を上げてしまう。


「……一緒に来てくれないんですか?」


「っ?!……コホン、悪いが、主はお前のみをお呼びだ。」


残念だ。本当に残念だ。


なんかいい人っぽかったから、なにかあったら助けてくれそうだったのに……。


鼎はトボトボとその中に入って行く。


鼎が中に入ると、ゆっくりとドアが閉められ、ガタンという音がすると内心心が震えた。


「よく来てくれたわ、美馬鼎くん。私は東院あずさ。どうやら体調は戻ったようね……これからよろしく。」


耳に届いたのは、綺麗な色気のある声だった。


誘われるようなその声にようやく顔を上げるとそこには、妙齢ながら色っぽい女性がいた。


艶っぽい赤髪の女性。


大きな胸が覗き込めそうなくらい胸元がパックリと割れたドレス、彼女は脚を組んでおり組み替えた時、ハラリとスカートから太ももが覗き、少し心を揺さぶられた。


「端的に言ってあなたは私に買われました。でも安心なさい。あなたの働きによっては、それほど時間が掛かることなく開放されることでしょう。」


「え?」


さらに困惑する鼎。


「ふふふっ、あら、聞いていないのかしら?」


あずさは楽しそうに笑うと、いいわと言って説明してくれた。


僕は貧しい家に産まれながらも蝶よ花よと愛でられながら育ったらしい。


母親は借金をしてでも、姉も大学に行くこともなく、その金を僕に貢ぎ続けたそうなのだが、我慢の限界が来て、遂には僕は売られたのだという。


現代日本ではありえな……いといいなと思うような出来事であり、受け入れ難かった。


しかし、鼎にとって受け入れ難かったのは他にあった。



うん、これ……どう見ても僕の記憶と違いすぎる。


僕は孤児院育ちなので、親はいないはず。


それに僕は高校を出てすぐに就職したし、蓄えもそれなりにあったはずで養われたりもしていない。


これを反論するべきかとも思うのだが……なんとなくこの女性の機嫌を損ねるようなことはしないほうがいい気がするので、やめとこうと思う。



いや〜〜やけに身体が若い気がすると思ったら、他の人の身体だったんだね♪


それにしても顔、マジクリソツ、もう!若い頃のアタシそっくり!


うんうん……。


……いや、マジ…このクソガキなにしてくれてやがるんだ……。


ねぇ、これって臓器?玩具?保険?……もう嫌なんですけど…。



「ということで、早速あなたには……。」



僕は彼女の言葉を耳にした。


この続きを聞くと、それは鼎にとってあまりにも都合がいい言葉だったのだ。


すると、怖がっていたのが嘘のように自然体となり、首肯していた。


「うん、わかりました。今からですか?」


「えっ?」


ひどく驚いて、可愛らしい表情をするあずさ。


彼女の絶対的強者的な様子が崩れ、年齢よりも幼さが出た。


鼎としては、もっとそんな表情を見たい、からかってみたいという気持ちに駆られるが、そんなことをして目の敵にでもされ、命が狩られては堪らないので、甘えるように微笑むだけにする。


「っ!?」


「これからよろしくね、あずさお姉ちゃん。」


キャラ替え、もしくは引退を考えていたホスト美馬鼎はこうして息を吹き返すのだった。


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