+1 アウレスとメリッサ恋模様〜
メリッサは自分の状況変化についていけていなかった。
カリスタと婚約破棄をした瞬間からどこからそのことを知ったのか、大量の釣書が我が家に届いたらしい。
それがそのまま寮へと転送されてきて今私の目の前に山積みになっている。
アウレスからの釣書もあって、あのときの言葉は本気だったのだと知った。
私が生まれる少し前に女性だけが罹る流行り病が流行して私の三〜四歳上から五歳くらい下まで、女性の数が男性五に対して女性が一か二くらいしかいないらしい。
学園でも男女比は五:二くらいだった。
その婚約からあぶれた人たちが次から次へと釣書を送ってくる。
ミスティに侍っている男性達の婚約者は卒業前にと急いで婚約破棄をしているので、これでも分散されている筈だと思うのだけれど、それでも凄い数だった。
学園に行くとアウレスが私の側にやってくる。
「釣り書は届いたかな?」
「・・・はい」
少し恥ずかしくて、伏し目がちにアウレスを見た。
「ちょっとだけ人に会話を聞かれないところに付いてきてもらえるかな?」
「その誘いに乗る女性はいないと思いますが・・・」
「いやっ!違う!!変な意味じゃないんだっ!!」
アウレスの慌てぶりにおかしくなり私はクスリと笑った。
アウレスに付いていって、人からは見えるけれど会話は聞こえないだろうと思われる廊下の死角に付いていった。
「私はメリッサに婚約者がいる頃からメリッサのことが好きだった」
「えっ?」
「君が幸せそうだったから邪魔する気は全く無かったんだけど、ここ最近は幸せそうではなかったから、婚約破棄することを進言したんだ」
「あの時は気付かせてくださってありがとうございました」
「いいんだ。私の為の進言だったから。・・・少し手に触れてもいいかな?」
「えっと・・・はい・・・」
私の右手をとり、アウレスは跪いた。
「私、アウレス・ガンダイムはメリッサ・コンドルカ嬢のことを愛しています。私と結婚してください」
驚いて返事もできずに私は呆然としていた。
授業が始まるチャイムが鳴って、アウレスは立ち上がって「返事は卒業までにもらえると嬉しい。考えてみて欲しい」そう言って私の指先を握ったまま教室へと向かい、教室の近くまで来たところで手が離された。
繋がっていた手が熱を持っていることに気がついて一気に羞恥が溢れた。
それから時折釣書を送ってきた人達に呼び出されて、人となりを知って欲しくてと言われて、学園のカフェでお茶をしたり、立ち話だったり色んな人と話した。
こんなに男性と話したのは初めてで毎日ドキドキした気分を味わっていた。
いつの間にかアウレスは他の人とは違うと気がついた。
他の人達は結婚相手が欲しいのであって、私を好きなわけではないと気がついた。
熱量のあり方が違っているアウレスと話す時は頬が熱くなった。
母が昔「愛されている人と暮らすのはとても幸せなことよ。そして愛し返せる人ならばもっと幸せなことだわ。だから私はとても幸せなの」と言っていた。
その言葉を思い出してから私はアウレスを好きになれるか?愛せるのか?の自問自答だった。
他の話しかけてくる人たちのことは意識にのぼらなくなっていた。
父に『ガンダイム家以外の釣り書は送り返して欲しい』と手紙を送った。
『ガンダイムに決めたのか?』と聞かれ『まだ考えているところですが、ガンダイムに決めるかもしれません・・・』と父とやり取りをして私は恥ずかしくて仕方なかった。
『ガンダイムを徹底的に調べるから返事をするのは待ちなさい』
『解りました』
この時、アウレスが駄目だと言われませんようにと心の中で思ったことで、私は既にアウレスを選んでいるのだと気がついた。
ただ、告白されて浮かれているだけかもしれないという思いもあって、父に待ったを掛けられて冷静に考える時間が出来て良かったと思った。
教室に行くとアウレスが嬉しそうな笑顔で「おはよう」と挨拶をしてきて、二言三言言葉を交わして席に着く。
この間までは振り返るとそこにいる感じだったのが、少し距離が開いたような気がして少し気になった。
友人と一緒に昼食を食べていると友人の婚約者が「交ぜてもらってもいいかな?」と聞いてきて、見渡すと空席がなかった。
友人が「一緒に食べよう」と嬉しそうにしているのを見て、私もカリスタとこんな風だったのかもしれないと思って、アウレスとこんな風になれるだろうか?と考えてアウレスを見るとアウレスは私を見て微笑んでいた。
その瞬間、真っ赤になって私はアウレスに「ばかっ!」って言うと声を上げて笑われた。
もう駄目だ。私はアウレスの手のひらの上にいる。それに気がついてしまった。
好きだと思っていたカリスタへの気持ちよりもっと大きな思いにいつの間にか育っていた。
カリスタのことは好きだったけれど、今はもうアウレスに心を奪われてしまっている。
私はカリスタのことをとやかく言える立場ではなくなった気がした。
こんなにも短い期間に簡単に心を奪われてしまった。
その日、昼食を一緒に食べたメンバーで街に遊びに行くことになって、友人は婚約者にエスコートされ私はアウレスにエスコートされることになった。
私はアウレスを意識しすぎてしまって友人に「熱でもあるの?」と心配されてしまった。
それから一週間ほど経って父から『ガンダイムとなら話を進めてもよい』と手紙が来て『ではアウレス・ガンダイムとの話を進めてください』と返答した。
そこからは早かった。
父親同士で話し合いが行われ、アウレスと私に婚約が成立したと連絡が来て、私が知ったその日には婚約指輪を買いに行くことになり、サイズ直しが出来上がった日には腕時計を購入していた。
アウレスにお願いされて、カリストとの婚約指輪は商人に買い取りに出した。
持っていても仕方のないものだったので、ちょうどいいタイミングだと思った。
父親同士の話し合いで、結婚式はカリスタと予定していた教会をまだ押さえたままだったので、そのまま結婚式を行うことになり婚約からたった三ヶ月半で結婚することになった。
卒業一ヶ月前にカリスタから話がしたいと言われ、話をすることになったけれど、アウレスがずっと私と手を繋いでいてくれた。
私には何の不安もなかったのだけれど、アウレスの方が不安だったのかもしれない。
私は婚約はOKしたけれど、アウレスに好きだとは伝えていなかったから。
カリスタと別れてから、私はアウレスと手を繋いだまま向き合ってアウレスの耳元に唇を寄せた。
「アウレス様、愛しています」
その瞬間にアウレスは真っ赤になって「私もメリッサを愛しているよ」と答えてくれた。
卒業式の少し前、王子が婚約解消され第二王子が王太子として選ばれた。
国内外では大騒ぎになったけれど、学園内ではやっぱりなという意見が多かった。
卒業パーティーで、ミスティの取り巻きだった人達は一人でぽつんと疎らに立っていて、ミスティに侍っていた人は本当に全員婚約解消や破棄されているのだと知った。
ミスティがパーティーに参加していないことに女性陣は首を傾げた。
卒業と同時に私は物凄く!忙しくなった。
元々卒業後婚姻予定だったのでそれほど慌てることはなかったが、カリスタに嫁ぐ準備をそのまま流用するのは気が引けたために、色々な準備の変更が出た。
一番始めはウエディングドレスの変更をしなければならなかった。正直、カリスタと話もしていない頃の注文だったのでこのままでもいいかな?と思わなくもなかったのだけれど、アウレスはきっと不満に思うだろうと思った。
レースを変更できるところは変更して、アウレスの瞳の色、ブルーの宝石を胸元に散りばめ、髪色の赤色の石のネックレスを付け足した。
嫁入り道具は家格がガンダイムの方が上だったので持ち物は格を一段上げてもらうことになった。
持っていく衣装は薄手のものを増やした。
ガンダイムは私達の領地よりまだ南にある。暖かい日が長いと聞いている。
招待状発送はお母様がすべて済ませてくれていて本当に助かった。
招待状を自分で書かなければならなかった場合、私は卒業試験に落ちていた可能性があった。
お母様、ありがとう!!
ちゃんとお母様にも伝えました。
欠席の返信が来て初めて知ったのですが、カリスタに披露宴の招待状を送っていたと知って驚きました。
お母様なりの嫌味なのでしょうか?怖くて聞けませんでした。
欠席なのですから私は触れません。
荷物が全てガンダイムに運び込まれ、後は私と日常使いの必要な物を持っていくだけになりました。
たまに実家に帰ってくることもあるので、衣装も置いていくものは残されています。
滞りなく結婚式も披露宴も終わって、初めてガンダイムの家へ足を踏み入れました。
ここまで急でなければ、本来なら何度か泊まりに来たりして家に慣れてから移り住むものなのですが、婚約も急だったし、結婚はもっと急だったので私が連れてきた使用人とアウレスしか知る人がいません。
私は使用人達からの歓迎を受けて、ドキドキしながら私の部屋へと案内されました。
アウレスがなにかと気を遣ってくれたので、居心地良くガンダイムの家に少しずつ馴染みました。
私が二人の子供を生んだ頃に風の噂でカリスタがかなり年上の方と結婚したと聞きました。
あまり良い待遇を受けていないと社交界で噂が流れています。
長い間婚約者だったので気にはなりますが、私たちは友人ではないのでしてあげられることはありません。
アウレスが未だに嫉妬するのでカリスタの名は口には出来ません。
愛されていると確認できてとても幸せを感じますが。
★。・。☆。・。
上の子三人が結婚した頃にカリスタが亡くなったと連絡がありました。
葬儀にはアウレスと一緒に参列しました。
カリスタが棺の中で着けている時計は私が贈ったものでした。
足元には私達の交換日記が置かれています。
今まで捨てずにずっと持っていたのだと、その思いが恐ろしくなりました。
それらを大切にしていたからなのか、元々そういう約束だったのかは解りませんが、婿入した子爵家ではなく、バンドリアの霊廟に納骨されたと聞いて驚きました。
そのあと直ぐに四人目の子供が結婚することになり、五人目も結婚することになり、カリスタのことを二度と思い出すことはありませんでした。
私とアウレスは嫡男に全て任せて、二人だけの小さな家に移りました。
結婚して子供が生まれてから初めての二人きりです。
今更ながらに私のどこを好きになったのか?と聞くといつもニコニコしている顔が可愛らしくて好きだったと言われ、それと社会学の宿題を忘れた時に写させてもらったことがあったんだ。と。
社会学の教師は本当にうるさい先生だったので心から感謝していたのだと。
そのことは私も覚えていて昔話に花が咲き、婚約してからが本当に忙しかった話で盛り上がり、楽しい夜を過ごしました。
孫が産まれてひ孫を三人抱いてアウレスが先に逝き、一月後にアウレスの後を追いかけて私も逝きました。
本当に幸せな人生でした。