後編 ピンクブロンドと関わった者は本人も含めて誰も幸せになれなかった。
父に二年生になってからの出来事を話して、カリスタの気持ちはミスティにあること、これ以上の婚約は続けられないことを伝えた。
同様の手紙をカリスタの父親にも送り、婚約破棄ないし婚約解消をしたいことを伝えた。
両親がカリスタの現状を調べてくれて、カリスタの父からしたら、立場が上の人達に可愛がられている状況に何の文句がある?!と聞かれて、カリスタが上位の方たちとお付き合いするようになってから、同じクラスにも関わらず一度も会話をしたことがないこと、プレゼント一つ貰ったことがないと伝えた。
カリスタの父親は「そんな筈はない!!我が家で設定しているメリッサの予算は全額使われている」と言ってきたので、ミスティに使っているのだろう。と返答した。
私は何も貰っていないことを繰り返し伝えた。
その代わり「私もカリスタ様に一切予算を使っていません」とも伝えた。
カリスタのお金の用途が調べられてカリスタの父親から「すまない」と返事が来て「暫く様子を見てもらえないか?」と言われ「様子を見てどうにもならないから婚約解消を申し出ています」と伝えた。
その後「婚約解消を受け入れる」という返答が来た。
カリスタはメリッサと婚約解消されたと聞いて驚くことになった。
どうしてそんな勝手なことをしたのかと父親に食って掛かったら「メリッサから婚約解消の申し出があった。現状を調べてお前に非があると判明したので、受けざるを得なかった」と言われた。
「ほぼ二年、メリッサへの予算を一体何に使った?」
父に聞かれてカリスタは返答に窮した。
「自分で自分の行いは解っているだろう?メリッサに愛想を尽かされたんだ。仕方ない。お前に贈った時計は捨てて欲しいと言われた。メリッサもこちらから贈った婚約指輪は処分するとのことだった。メリッサに使われるはずだった予算の倍額を婚約破棄の賠償に当てた。お前の予算から月々返してもらうからな」
カリスタは父から婚約解消の話を聞いて、翌日メリッサの元に行くと、既にメリッサは新しい指輪を着けていて、その返しの腕時計の相手は同じクラスのアウレスだと友人に聞かされた。
同じクラスにいて、そんなことにも気が付かなかったなんて。自分の愚かさを呪った。
「メリッサ・・・話がしたいんだけど・・・」
「アウレス様がご一緒で良ければ、お伺いします」
メリッサを久しぶりに見ると、メリッサが恋をしているからか、メリッサがとても可愛らしく見えた。
あの恋する視線は私に向かっているものだった。
それが私ではない者に向けられている。
「婚約解消の話を聞いたんだが・・・」
「申し訳ありません。おじ様には卒業まで黙っていてくださいと申し入れたのですが、話してしまわれたのですね」
「どうして婚約解消など?!」
「四月の十五日にミスティ様にカリスタ様が恋をされて、五月十二日にはミスティ様の取り巻きになられて、四月の二十三日から交換日記も、プレゼントも、会話も行われなくなりました。三年生になってからも会話は一切なく、バンドリア家の私のための予算はミスティ様に使われていると判明しました。婚約を解消しない理由が何処かにありましたでしょうか?」
「そ、それは・・・」
「どうぞミスティ様とお幸せに」
「私が愛しているのは・・・」
「言われずとも解っております。ミスティ様ですよね。私は私で幸せになりますのでお気遣いなく、どうぞミスティ様の取り巻きで幸せにおなりください」
アウレスがメリッサの肩を抱いて「失礼するよ」と言って私の前から二人がいなくなった。
ミスティが私を選ぶことなどありえない。
王子はありえないだろうが、ミスティは宰相の息子や侯爵家の息子を選ぶだろう。
ミスティが全員に結婚はできないと言われたら、王子の愛妾を選ぶだろう。
私を選ぶことなどありえない。
私は一体この一年以上何をしていたんだ?!
あんなにも愛おしいと思っていたメリッサとの交流も止めてしまって、ミスティなどという相手に恋して溺れてしまって・・・。
私は気を落としてミスティを取り囲む、同じようにミスティには選ばれない者たちのところへ行って、婚約解消されたことを話すと「馬鹿だな」と笑われた。
私は「お前達も婚約解消されていないか調べたほうがいいぞ」と言うと「そうなる前に親から連絡があるはずだ」と笑っていた。
「私の婚約者は卒業まで黙っているように両親に婚約解消の条件としてつけたらしい。自分は大丈夫は通用しないかもしれないぞ」
そう言って、私は乾いた笑いを浮かべた。
私の様子に心配になったのか、各々婚約者の下に走っていく者、婚約者に聞けずに両親に手紙を出す者、それぞれ婚約解消されていることがわかった。
ミスティを取り巻く者たちがそのことを知って宰相や公爵家、侯爵家の息子達も慌てて婚約者達に確認を取ると、ほぼ全員婚約が解消されていた。
恐ろしいことに、王子ですら婚約解消されていた。
私達の同世代は女性が少なく、今まであぶれていた者達が婚約者を得て、私達が婚約者を持てないあぶれ者になってしまった。
それぞれ慌てて婚約者を探し始めたが、時既に遅く婚約できる相手は年上の出戻りの方か、十三歳以下の子供になってしまう。
卒業前に王子は婚約解消されたことで王太子になれないことが決まり、第二王子が王太子に選ばれることになった。
私の、王子の側近の補佐になれるという話も消えてしまっていた。
ミスティを取り巻いていた者たちは解散して、ミスティは蝶よ花よと持ち上げられていたのに突然その手を離されて不機嫌になって取り巻いていた男たちを呼び出していたが、誰もミスティを相手にする気にはなれなかった。
現実が目の前にやってくると、あれ程焦がれていたミスティに何の感情も抱けなかった。
ちょっと可愛いだけの我儘気儘でチヤホヤされることを知ってしまった嫌な女の子だったからだった。
唯一婚約者がいない女性、ミスティには誰も婚約を申し入れたりはしなかった。
冷静に考えたら遊ぶのにはいい相手だったが、自分の妻にと考えた時ありえないと全員がそう思った。
ミスティに関わった者は当分誰も結婚できないことが判明した。
隣国から女性を招いて交流を持つ者達もいたが、婚約解消された男というレッテルが貼られた男の市場価値はなかった。
それに反して、一度婚約解消をした女性の結婚は何故か早い傾向にあった。
新たに婚約者に納まった男達が、前の男に奪い返されては敵わないと考えたからか卒業後直ぐから、教会は平日でも結婚式が行われていた。
カリスタは友人の結婚式に週に一度は招待されて出席をしていた。
そこで婚約をしていない女の子を探したが、考えることは皆同じで婚約者のいない女の子は本当に小さな子供ぐらいしかいなかった。
平日の結婚は結婚式は本人と親族だけで行われて、披露宴は夜十九時頃から行われるという変則的なものだった。
披露宴は略式的なものが多く、お披露目パーティーといったほうがいいものだった。
卒業から一ヶ月後メリッサとアウレスの結婚式が行われた。
それは元々私とメリッサの結婚式の日取りだった。
メリッサの結婚式は休日のきちんとした結婚式で、披露宴のみ招待状が届いた。さすがに出席は出来なくて欠席の返事を出した。
メリッサの結婚式の日付は私の心に一生残ることになった。
そしてメリッサから送られてきた交換日記。
メッセージカードに『私は処分できないので申し訳ありませんがカリスタ様に処分していただきたく思います』と書かれていた。
そこには私がミスティに心奪われてしまって、ひと時のことならばと耐えているメリッサの心情が日々綴られていた。
私はこんなにもメリッサに辛い思いをさせていたのだと涙が出た。
私は交換日記を処分することは出来なくて、大事に取っておくことにした。
自分でも女々しいと思ったが、幸せだった頃のことを取っておきたかった。
私の結婚相手は見つからない。
他国でも結婚相手を探したがこの国のあぶれた男は皆、移り気な男と認識されていて、全く相手にされなかった。
第一王子ではないが、私もいつ子供ができるか解らないからと言われて嫡男の立場を婚約者のいる弟に譲ることになった。
私は三年後、若くして夫を亡くした子爵家へと婿入りすることになった。
若くしてといっても私より八歳年上で先の夫との間に子供が三人いて、その子供が成人すると直ぐに子爵家の全権を譲らなくてはならないという契約を交わした上での結婚だった。
妻は既に男との性交渉に飽きているせいか、それとも私が嫌なのか?私の求めに断りはしないが、嫌々だということははっきりと分かる態度だった。
私の子は一人生まれたが女の子で良かったと心から思った。
妻は私の子にあまり関心が無いようで教育に手は抜かなかったが、愛情は掛けなかった。
先の夫の子が成人して、私はすべての権利を奪われた。
お客さんのように本邸で扱われても行くところもなく、この家に寄生して生きていくしかなかった。
娘が嫁に行く時一緒に連れて行って欲しいと心から思ったが口にすることは出来なかった。
娘は私の心配をしていたが嫁ぎ先に迷惑を掛けることもできず、二度と会えない涙の別れとなった。
私は自分の人生を振り返ってミスティなんかに心奪われて人生を潰したことが本当に悔やまれた。
メリッサはアウレスととても幸せそうにしていると聞いている。
アウレスが手に入れたものは私が手にするはずだったものだった。
ミスティは男が余っているにも関わらず誰からも望まれず、今も独身のまま親の世話になっていると聞いている。
一度覚えた贅沢が忘れられなくてよく癇癪を起こしているとも聞いている。
第一王子も結婚相手を見つけられないまま、独り身だ。
本当にミスティに関わった者は誰も幸せにならなかった。
あぁ、夢を見る。
メリッサと結婚して笑い声に溢れた家での暮らしを。
カリスタは娘が嫁ぐとあっさり亡くなった。
カリスタは動かなくなっているメリッサの名前が入った腕時計をして、メリッサとの交換日記を抱えるようにして亡くなっていた。
妻は子爵家の墓に入れることは出来ないと言って、葬儀後カリスタの家へと遺体を引き渡した。
カリスタの弟は兄の不幸せを思って涙し、メリッサの名前が入った腕時計と共に霊廟の末席にカリスタの遺骨を納骨した。
明日UPします。