前編 婚約者と心通わせることが出来たのにピンクブロンドをひと目見ただけで婚約者の心を奪われる。
前後編の2話+1で完結予定です。
婚約者候補のカリスタ・バンドリア様の容貌は十人並みの平凡な方だった。
婚約者候補のメリッサ・コンドルカ嬢の容貌は、まぁ人並み、可もなく不可もなくと言ったところだった。
二人は互いに相手のことを平凡だなぁ〜と思いながら、現実とはこんなものかと心の中でため息をついて、婚約することになった。
この婚約が取り結ばれたのは同世代に女児が少なく、早くに婚約者を決めないと、結婚ができないままになる可能性があるからだと言われていた。
だからメリッサを大切にしなさいと両親に言われていた。
そう言われても、子供のカリスタは理解できてはいない。
でも、お友達感覚で仲良くはしようと思っていた。
初めは互いに義務のみの付き合いである。
当たり障りなく手紙を送り合い、花を送ればハンカチに紋章が刺繍されたものが送られてきて、可愛い花柄の万年筆を見つけたので送れば、まだこの世界では珍しい置き時計が送られてきた。
互いに物理的に距離があったために会えるのは三ヶ月に一度くらいで、手紙のやり取りはいただきもののお礼などが増え、頻繁になっていった。
二人は手元に届く手紙を心待ちにするようになった。
三ヶ月に一度会っても、恥ずかしくて思いの半分も口にはできなかったけれど、手紙では思いの丈を伝えることができた。
二人が学園に通う年齢の十六歳になり、同じ学園に通うことに決めた。
二人は学園で会ってもやはり恥ずかしくてあまり口は利かなかった。
けれど二人は交換日記を毎朝交換するようになった。
その日の楽しかったこと嬉しかったことを書いて翌朝渡して口にはできない感情を文字として残していった。
カリスタは父親に頼んで特別予算を組んでもらった。
父は喜んで特別予算を組んでくれて、交換日記に次の休日に一緒に出かけないかとメリッサに尋ねた。
メリッサは初めての外出にとても喜んでくれて、次の休みに一緒に出かけることが決まった。
学園が始まって半年目の出来事だった。
奥手な二人は奥手なりにゆっくりと想いを育んでいた。
次の休みの日、メリッサは交換日記がなくても会話をするんだと意気込んでいた。
メリッサは無口なカリスタに「今日はどこへ行くのですか?」と尋ねた。
カリスタに少しはにかんだ笑顔で「内緒」と言われてその上、手を差し出して「手を繋ぎたいんだけどいやじゃない?」と聞かれてメリッサは声も出ず、真っ赤になって小さく頷いてカリスタの手に自分の手を差し出した。
二人は初めて手を繋いだ。
御者に「着きました」と声を掛けられ、カリスタは先に降りて、メリッサが降りる時に手を差し出して、初めてエスコートをした。
メリッサはもう自分の中の許容範囲が超えていると悶えながらも必死で平静を保っていた。
もちろんカリスタも同じで一杯いっぱいになりながらもカリスタの正念場はここからだと自分に活を入れていた。
メリッサは降りた先にある店を見て、必死で保っていた平静が何処かに飛んでいってしまったのに気が付かないままカリスタの顔を見た。
カリスタははにかんでいて「私の婚約者に婚約指輪を贈りたくて・・・」とメリッサに伝えた。
メリッサはそのカリスタの言葉で悶え死ぬかもしれないと思った。
カリスタは一生涯でこんな恥ずかしい思いを後何回しなければならないのかと、ちょっと冷静になった。そしてメリッサが喜んでいてくれるのを見て、これからも頑張らなくてはならないと思った。
店の中に入ってカリスタが名乗ると、既に準備されていたのか、目の前に婚約指輪になる予算内のものがズラズラと並べられた。
カリスタは父に感謝して「メリッサはどれが好みだろう?一生身につけるものだから、飽きが来ないものを選ばないとね」と伝えるとメリッサは私の手を取って手を繋いで、キュッと力を込めて「ありがとう」と言った顔は真っ赤になっていた。
この顔を一生忘れないようにしようと心に誓って、メリッサが婚約指輪を選ぶのを笑顔で眺めていた。
メリッサはあまり買い物に時間を掛けないタイプなのか、それとも一目で気に入るものがあったのか、選ぶのは早かった。
サイズ直しに一週間掛かるので来週取りに来る事になった。
二人で初めてのカフェに行って一緒にお茶と甘いスイーツを半分ずつ食べて頬を緩めた。
今までは恥ずかしくてあまり話せなかったけれど、婚約指輪を贈って腹が決まったから、会話ははずんだ。
これからは一緒に昼食を食べる約束をして、学園の寮に帰り着いて少し名残惜しかったので「あと少し一緒にいないか?」と学園のカフェに誘った。
メリッサは嬉しそうに微笑んでカフェまで手を繋いで歩いた。
翌週メリッサが「婚約指輪のお返しに腕時計を準備しております」と言って婚約指輪を注文した宝石店で、ズラズラと腕時計が並べられた。
こうやって指輪と時計の交換が行われるのかと感心して、私は好みの時計を選んで、時計の裏にメリッサの名前が彫られ、婚約指輪にはわたしの名前が彫られることになった。
私がメリッサに指輪をはめて、メリッサが私に時計をはめてくれた。
このときから二人の距離は縮まった。
友人に教えられた美味しい昼食を食べさせてくれるレストランへと赴き、私は魚をメリッサは肉のコースを頼んで、互いに半分ずつ食べて交換した。
人が手を付けた食事を気にならずに食べられるのは婚約者のカリスタが口に付けたものだからだろうか?
先週のスイーツも半分ずつ食べて二度美味しい思いをした。
メリッサは優柔不断ではないが、どちらも食べたいと思う時は多々ある。
とてもいい関係を紡げていると心から思った。
日記も相変わらず続いていて毎日恋文を交換しているようで、気持ちは一層盛り上がっていた。
婚約指輪と腕時計をしていった日、二人はからかいの的になったがそれは嬉しいからかいで、頬を染める二人を周りは温かい目で見守ってくれていた。
学園で二年生になりカリスタとメリッサは同じクラスになった。二人は喜んで席も隣同士に座り一緒に宿題をしたり、図書館で一冊の本を二人で読んだりしていた。
一年生で凄く可愛い子が入学してきたと噂が流れてメリッサとカリスタはどれほど可愛いのかと何処かで見かけることを楽しみにしていた。
メリッサは自分の容姿が平凡極まりないことを知っていたので、少しその一年生に出会ってしまうことに、胸に嫌な痛みを感じたが、私より可愛い子が他にもいる中でカリスタは私に婚約指輪を贈ってくれたことを信用したいと思っていた。
二年生に上がって一週間ほど経ったとき、学園の食堂でその可愛らしい一年生と出会ってしまった。
彼女はミスティ・ライン。男爵家の娘で、かわいい顔に見事なピンクブロンドの髪をお尻の下まで伸ばしていて、その髪は陽に当たり光り輝いていた。
私はミスティという子を見て息を呑んだ。
ほんとに息を呑むほど可愛らしい子だったのだ。
私は慌てて隣にいるカリスタの顔を見ると、頬を染めてポーッとしていた。
激しく胸が痛み、嫌な想像が頭をよぎった。
私の視線に気がついたのか、コホンと空咳をして「本当に可愛い子だったね?」とカリスタは私に言った。
「ええ。まるで女神様みたいだったわ・・・」
メリッサは心臓の音が激しく速く打っていることを自覚しながら、カリスタに同意した。
変わらずに日記の交換も昼食も一緒に食べているけれど、カリスタの体はメリッサの方を向かずに、いつも遠くにいる誰かを探すようになった。
メリッサは諦めとともにカリスタの心変わりを受け入れるしかなかった。
恋は恋、実現は出来ないのだから、ひと時の心の移ろい位大目に見なくてはならないと自分に言い聞かせた。
ミスティは身分の高い人達に囲まれてキラキラと輝いていたから、私達のような凡人に手を出してくるとは思っていなかった。
それなのにミスティはカリスタも取り巻きの輪の中に入れた。いつもメリッサの隣にいたカリスタは、メリッサの隣からいなくなってしまった。
メリッサは返事の来ない日記を毎日書き綴り、カリスタがミスティとどのように過ごしているのかの証拠にもなった。
メリッサは学生の間のひと時の出来事なら目を瞑ろうと思っていたけれど、カリスタは王子の側近の補佐という立場に納まることになってしまっていた。
三年生になってメリッサとカリスタは同じクラスになった。
それでもカリスタはメリッサの隣にいないまま。
卒業間近まできたけれど、交換日記が交わされることはなかったし、昼食を一緒に摂ることも、休日に何処かに出かけることもないままだった。
同じクラスのアウレス・ガンダイムに「君達、婚約指輪と腕時計の交換しているんだよね?」と聞かれて「一応・・・」としか答えられなかった。
「婚約を解消したらどうだい?」
「・・・・・・」
「決断はできないのかな?」
「・・・はい」
「ひと時の気の迷いでも、長すぎるんじゃないかな?と私は思うんだけど・・・。これで学園を卒業して結婚して、カリスタに大切にされるとでも思っているのかい?」
メリッサは何も考えていなかったことをアウレスに気付かされた。
「あはっ!ははっ!・・・」
メリッサは自分の未来を思い描いて、カリスタに大事にされる日などありえないと気がついた。
「ありえませんね。大切になど扱われるはずはありません」
「だろう。だったら、学生の間に婚約を解消しておくべきだよ。今なら自分で相手を選べるよ。例えば私とかね」
そう言われてメリッサはアウレスのことを見上げた。
メリッサはアウレスの言うことは本気に受け止めなかったけれど、婚約解消はしようと心に決めた。
明日UPします。