7 王女フロイライン
『アバルティーダ王国の国防を担う片翼である公爵家当主が急死した為、あの国の国防力が弱体化している』
『今ならアバルティーダを内側から崩し、領地の拡大を図ることが出来る』
それが我が国の将軍の言い分だ。
将軍は、アバルティーダ王国の乗っ取りを国王であるお父様に再三訴えているけれどお父様は首を縦には振らないし、引退したお祖父様も同じ考え方なので答えはNOだ。
私にはよくわからないけど。
×××
我がヴァルティーノ王国と山岳地帯を挟んで隣接しているアバルティーダは、大きな海を南に持ち北は山脈にコの字型に守られるような形で存在している王国だ。
守りには辺境伯家、攻めには国王派の公爵家という二大勢力があって攻守共に手堅く手出しができない強い国だとお祖父様が昔から言っていた。
我が国には海がない為陸路で珍しい外国の物資を輸入するしか方法がない。
なので我が国としては侵略など考えずに南の外海の向こうの大陸から輸入する珍しい品物を港から直接輸入出来るアバルティーダ王国とは共存したほうが利口だと言われ続けているし、関税等も他国に比べるとヴァルティーノ王国は優遇されていると教えられた。
山を挟んでいるだけで距離的にはどの国よりも近いからというのが理由らしい。
それ以外に私達女性にとって有名なのはアバルティーダの王族に際立ったイケメンがあまりにもいない事。
各国の王族というのは、どちらかと言うと、顔の造作が良い傾向があるものらしく、我が国も例外ではない。
周りの貴族達が王家と縁を持てるよう、できる限り王族の目に止まるようにと、見目の良い娘達を差し出してきた歴史があるからだという。
従って国外の王族同士の婚姻でもどっちかと言うと生まれる子供の容姿は美形が多くなる傾向がある。
私がいい例よね?
でもあの国は違っていた。
お兄様の婚姻式で顔を合わせる機会があったけど、確かに吃驚するほど普通顔の王太子だったのを覚えているわ。
でも今年10年目を迎える両国の友好条約の巻き直しのために、外交の練習も兼ねて行って来いとお父様に言われて渋々訪れたアバルティーダ王国で、私の眼の前に現れたのは御伽話に出てくる騎士様のように立派な体格をした素敵な第2王子アンドリュー様。
サラサラの黒髪に切れ長で涼しげな濃い青い瞳。
鼻も高くて口元もきれいだし顎はシャープで男らしいのよ?
何で? この国の王族って『平凡顔』ばっかりじゃないの?! って思わず二度見したわよッ!
「そりゃあ、偶に『鳶が鷹を産む』様な事もありますよ」
とか、女性事務官が言ってたけど自分だって頬を染めて二度見してたわ。
因みに私の好みは昔から騎士様なのよ・・・彼って将来的には、軍事面を任される予定らしいから逞しいのよねぇ。
ジュルリ・・・あらやだ何かしら、なんか膝に水が・・・
そう言えば気が付いたんだけどこの国の近衛騎士って美形がやたら多いわよね? 王族だけが平凡顔ってなんか可愛そうじゃない?
決~めたっと。
アンドリュー様が私と結婚すれば、両国は戦争を回避できてお互いに平和だし美人な私との子供なら他国にバカにされないで済むでしょう?
なんて素敵な考えなのかしら!!
私と彼との結婚式の姿を思い浮かべて思わず客室で踊っちゃったわ!! バンザイ!!
×××
そう思って取り急ぎ身辺調査をしたら、もう婚約者がいるって?! 彼、私より1歳上なだけだから17歳でしょう? もう婚約者がいるなんて嘘に決まってるわよね!?
そう思ってたら歓迎の夜会で彼が婚約者ていう女を連れて出席してた。
何よアレ?! どっか他国の王族の間違いじゃないのッ?? この国の王家より王族らしい美しさ? ってどういうコト??
王太子の妹っていう王女よりず~っと美人じゃん・・・何かおかしく無い?
でもまぁ、アンドリュー様は冴えない容姿の王族の中でも際立ってイケメンだけどね。ウフフ。
今晩中にアプローチして振り向かせてやるんだから。隣国の王族である私を無下に出来ないでしょ?
そう思ってファーストダンスを近寄って行って誘わせるために声を掛けたら、あっという間に婚約者と一緒にダンスをする為に去っていっちゃった・・・
え〜ウソやん。私、隣国の王族だわよ?
そしたら王太子が『ダンスのお相手を』なんて言ってくれちゃって、断る隙も無く真ん中に引っ張っていかれちゃったわよー。クッソ。
王太子妃が妊娠中だからいくらでもパートナーを努めてくれるって。
トホホ・・・そうじゃないのよ〜察しなさいよ〜〜しかも、
『あの二人は相思相愛ですからお互いしか見てませんからねぇ』
とか笑ってダンス中に言うのよ。何よそれ?! 私がアンドリュー様にフラれるって暗に言ってるの?!
他にも色々言われたけど、頭にきて覚えてないわよッ!!
こうなったら何が何でもあの女との婚約は破棄して貰って私の夫になって貰うんだからねッ! 見てなさいッ!!