29 黒幕は?
「う~ん、予想以上に酷いね。ヴァルティーノの王家は教育係の選定が手抜きだったのかな?」
王太子オースティンが報告書をパラパラと捲りながら頭を抑える。――頭痛かしらね? と冷めた目で見ているのはオフィーリア・アガスティヤだ。
因みに今日の彼女は金髪に戻っている。
「いえ、第3王女までは代々王家の女性を教育して来た教育係だったのですが、高齢で引退したようなのです。その後を引き継いだ弟子が、どうやら例のワイアット・ボーフォート将軍の娘だったようですわ」
彼女は書類に書いてある内容を王太子に掻い摘んで報告する。
「そこで教育が歪んだのか」
オースティンが、書類を机の上に置いた。
「まぁ、王家簒奪を目論むなら第4王女では厳しいでしょうが、元々ボーフォートの狙いは我がアガスティヤ領にある港のようですからね。あの国は港がありませんから」
資料に目を通すオースティン。
「成る程。だから君にダメージを与えたがったのか」
「えぇ。先の戦争も父が死んだ途端にスティール国への武器や火薬、食料等の流入がピタリと止まりスティール国内の物資が不足して停戦となりました。今考えるとおかしいですよね」
「ああ」
「跡継ぎの兄が優秀でしたので直ぐに公爵位を継ぎましたが、兄は馬車の事故で亡くなりました。本来なら今頃は中継ぎの後継者が何とか回すといった程度だったはずです」
「だがリアが居た」
「ええ。兄も何かを感じていたのでしょう。公爵位を継ぐ前から私に当主の仕事を教え込みましたからね。なので私が間をおかず後継となった」
執務机に肘を乗せて、頬杖を付く王太子。
「君の年齢と性別を侮ったんだろうな」
オフィーリアが頷いた。
「敵の目論見は外れ、アガスティヤは揺るぎませんでした。不幸中の幸いとでも言いますか兄が亡くなったばかりだったので目立ったお披露目を省き、高位の貴族家に書簡で知らせるだけにとどめましたから私が当主だということを知らない当主も多かったようです。この間のハインド元伯爵がいい例です。或いは知っていても殿下の言う通り年齢や性別で侮っていた可能性もあるでしょうね」
「王家が後ろ盾だから、却ってリアの事はお飾り当主くらいに思ってたんだろうな」
「ええ。だから私にダメージを与えるために婚約者のアンディを何とかしたかったという所でしょう」
そう言いながら肩を竦めて首を横に振ると窓から入る日差しが当たり、金の髪がキラキラと反射する。
「その為のトラップにしてはお粗末だったねぇ。この王女じゃ」
報告書にもう1度目を落とすオースティン。
「暗殺は私の護衛が強すぎで手が出せませんからねぇ。公爵家に入り込もうとする輩は多いですが、その中にヴァルティーノ国の間諜もいましたし。余程アンディの方が簡単だと思ったんでしょう。私の精神的なダメージも狙ったんでしょうけど。ハニートラップだとしてもお粗末ですが、王女は見た目だけなら可憐な美少女ですからね」
手にずっと持っていた、許可証を王太子に渡すオフィーリア。
「もうちょっとで私は第2王子に婚約破棄された醜聞持ちの女にされる所でしたよ。ああ、辺境伯領行きの許可をお願いします」
「・・・」
黙ってそっと手で鳩尾を隠す王太子殿下。
目の前のオフィーリアの笑顔は黒かった・・・




