第七十二集 ニャンとも不思議! 虎体縮溜!
変化したファンの姿に、僕らも驚きを隠せなかった。
「さ、更に大きく……」
「それに牙が、耳も……」
ただタマだけは何故か黙ったままだった。
「タマ……」
声をかけても、前を見据えたままで何も言わなかった。
戦場では、変身したファンがまたしても鼻を振り回して、ワンフーへと襲いかかった。
「ごわっす!」
足元を掬うように襲い来る鼻。
それを飛び上がり躱すワンフー。
ファンがそれを見てニヤリと笑う。
「もらったぞ!
伸象牙!」
ファンがそう叫ぶと、鼻の横の二本の牙がワンフーに向かって伸びていった。
何とか体を捻って躱そうとするワンフーだったが、空中では避けきれず肩を貫かれてしまった。
「ごわっ!」
肩を押さえて膝を付くワンフー。
それを見てファンが更に勢い付く。
「まだまだ!」
ファンの鼻と牙との連続攻撃がワンフーを襲う。
必死で躱すワンフーだったが、ファンの老獪な攻めを何度もその身に受けてしまった。
「ご……、ごわ……す」
呼吸を荒くしてうずくまるワンフー。
その姿をファンは満足気に見下ろした。
「ワンフーよ、誇ってよいぞ。
儂の本気を相手にして、ここまで粘った者はいない。
だがそれも次で最後だ」
そう宣告したファンは、徐ろに鼻を扇風機のように回転させ始めた。
「ま、まずいよ。
何か大技がくる感じが……」
狼狽える僕。
周りを見ると、リバやライ、雪尾拳の二人も顔が引きつっていた。
一方で、フーそしてタマは顔は険しいものの、決して悲観的な表情ではなかった。
「タマ……」
僕が呟くと、タマはゆっくりと頷いた。
「研鑽会が終わって、ワタシとワンフーはずっと一緒に修行してきたニャ。
その中でワンフーは、アムのオネーサン相手に自分より大きい者との闘い方を模索してたニャ。
ワタシがあのファンを、ワンフーの相手に指名したのもそういう経緯があったニャ」
「そうだったんだ……」
二人は好き勝手に暴れていると思っていたが、ちゃんと色々と考えていたのか。
なんて感心していると、フーがタマと目を合わせ、話を引き継いだ。
「本能が働いたのか、ワンフーは研鑽会の前からそんな事を言い始めました。
アム様も共感するものがあったのか、それに応えてくださいました。
ただ二人の修行は秘密裏に行われていました。
私も何もしていたのか知りません」
「ワタシもニャ。
ワタシの前では普通に組手をしてたニャ。
でも、それ以外にも何かやってるみたいだったニャ」
タマが頷くのを見て、フーが続けた。
「あの二人がやる事です。
少し心配な面もありますが……、尋常な事ではないでしょう。
だから私には、ワンフーがこのまま終わるとは思えないのです」
「ニャ!」
フーとタマが、二人同時に戦場のワンフーへと目を向ける。
その顔には、右目に希望、左目には信頼と書いてあるようで、僕らも吊られてそんな目でワンフーを見つめた。
戦場では、ファンが鼻扇風機に加えてその大きな耳でも風を起こし、巨大な風の渦が巻き起こっていた。
「喰らえワンフー!
耳鼻暴風撃!」
「!?」
巨大な風の渦がワンフーを襲う。
その威力は凄まじく、ワンフーの巨体も安々と宙へと吹き上げた。
「ごわーす!!」
「目が回らんといえど、この嵐の中では体の自由は利くまい!
終わりだ!
超獣拳奥義、三刺一体突!」
ファンがそう叫ぶと、鼻と両の牙が空中に向かって伸びていった。
そしてそれらは途中で一つに合わさり、一本の太い棘となった。
「ワンフー!!」
「あれはマルコの……。
だが、威力といい技の完成度といい、段違いだ!」
嵐の中で身動きの取れないワンフー。
そのワンフーをファンの放った太い棘が襲う。
今にも棘が突き刺さろうとした瞬間、ワンフーが叫んだ。
「ごわごわすー!!」
するとなんと、ワンフーの体がぐんぐんと小さくなった。
ワンフーの胸の当たりを捉えていたファンの棘だったが、標的を失い虚しく空を通過した。
「なんじゃと!!」
目を見開いて信じられないといった表情のファン。
驚きの為か耳の動きも止まり、吹き荒れていた風も収まった。
それを受け、今やレサと同じくらいの大きさとなったワンフーがファンの棘へと組み付いた。
「あの体の全てをこの小さな体に凝縮したでごわす!
この一撃に掛けるでごわす!」
太い棘となったファンの鼻と牙をガイドに、その周りを螺旋状に回転しながらファンへと向かっていくワンフー。
その姿はまるで、枝の先に止まった小鳥を狙う大蛇の様だった。
「ティグ! お主の技を借りるでごわす!
蛇身虎爪撃!」
「パ、パオーン!!」
光輝く蛇となったワンフーがファンの体を通過する。
空中で時が止まったように佇む両者。
が、次の瞬間、ファンの首から鮮血が吹き出した。
「ば、馬鹿な……」
茫然とするファン。
そのまま真っ逆さまに地面へと落ちていった。
対するワンフーも、その後を追うように地面に降り立った。
息も絶え絶えのファンが、首を持ち上げワンフーを見る。
「まさか……、体を縮めるとは……。
巨大な体はお主の誇りではなかったのか……」
ファンの言葉を受け、ワンフーが口を開く。
「その通りでごわす。
体のデカさはそれがしの一番の強みでごわす」
そう言うと、ワンフーの体がボンっと音を立て元の巨体へと戻った。
「だからそれがしは、更に体をデカくデカくと思っていたのでごわすが、アム様にそれではキリが無いと言われたのでごわす」
「虎皇拳アムか……」
ファンがボソッと呟く。
ワンフーはそれに構わず続けた。
「自身の特性を強みにするのは良いが、それに囚われ過ぎてはダメだとアム様は言ったでごわす。
確かにそれがしはデカくするばかりに目がいって、体の均整が取れていなかったのでごわす」
「ふっ……、未熟よの……」
ファンが皮肉を込めて言うが、その表情は穏やかだった。
「アム様より授かった技。
虎体縮溜。
これが本当にそれがしの拳と呼べるのか……。
自分でも分からんでごわす」
「だが、こうして儂を倒した。
強みを捨て、逆を取ったお主の拳、これも一つの答えよ……。
武獣の道に終わり……などない……がな……」
ファンはそう言うと気を失った。
「お主の言う通りでごわす。
それがしはこれからも闘い続け、強さとはそして武獣家とは何なのかを模索していくでごわす」
ワンフーは横たわるファンへ抱拳礼をすると、振り返り僕らの方へと歩き出した。
読んでいただきありがとうございます。
ワンフー、迷いながらの勝利でした。
次話、遂にタマの出番か!?
よろしくお願いします。
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