第四十九集 雪の中の伝説ニャ!
「皆さん、長旅お疲れ様でした。
あそこに見えるのが獅子爪牙拳の里です」
辺り一帯を見下ろせる丘の上に立つと、眼下に建物がたくさん並んでいるのが見えた。
「虎皇拳の里に似てるニャ!」
タマの言う通り、中心に道場があって、そこから同心円状に里が並んでいる造りは虎皇拳とそっくりだった。
「獅子爪牙拳も虎皇拳も、古の同じ里を参考にしたと言われています。
古い言い伝えです。
詳細は分かっていませんね」
フーがみんなの疑問に答えてくれた。
相変わらずの博識ぶりだった。
「それにしても、フェリダエボストカゲとの闘いは皆さん凄かったですね!
タマちゃんのトドメの一撃もお見事だったよ!」
「いや~、照れるニャ〜。
オネーさんとの組手の成果が出たニャ!
でもフーさんやワンフーの、その前の攻撃あっての事ニャ!」
頭を撫でながら、ニコニコと笑うタマ。
吊られてワンフーも笑顔で言う。
「それがしはレサ殿の技に驚いたでごわす!
まさかレサ殿に、あんな隠し技があったとは!」
カバンから出て珍しく歩いていたレサが、ワンフーの背中にピョンと飛び乗った。
「起きたらみんなが怪物に襲われてたから、流石に焦った。
思わず秘密の技を使ってしまった……」
「失敗した」という様に頭を掻くレサ。
レサも武獣家だから闘えるのだろうとは思っていたけど、ワンフーの言う通りあれにはびっくりだった。
「エノだって頑張ったニャ!
エノの風の後押しも効いたニャ!」
「実は暑いときに、レサに扇風機代わりをさせられてたんだ。
まさかあんな形で役に立つとはね」
「常に先を読む……
これぞ真の武獣家なり」
ワンフーの肩の上から、レサが達観したように言った。
「ホントならスゴイけど……」
レサの言葉に苦笑いで応える。
そんな僕らの一連のやり取りを見て、「ふふふ」とシズが上品に笑った。
「とにかく皆さんお見事でした。
あんな伝説級の怪物を仕留めるとは。
良い土産話が出来ました」
「土産話に花を咲かせる余裕があるといいですが……」
フーの一言に、和やかだった空気が一気に引き締まった気がした。
そういえば僕らは未曾有の事態に対峙するために、遥々やって来たのだった。
「我々が旅している間にも、何か動きがあったかどうか……」
ティグが道場の方を見つめて呟く。
シズがその言葉を受けゆっくりと頷いた。
「とにかく道場へ。
そこで全てわかる筈です」
「急ぎましょう」
そう言って駆け出すフー。
その頼もしい後ろ姿にみんなで続いた。
■
「皆様、ようこそおいでくださいました。
ご足労いただきありがとうございます」
獅子爪牙拳の道場は、虎皇拳の道場に比べると少しだけ小さい印象を受けた。
ただその分、何処か煌びやかな感じがした。
なるほど、リオンやライが住む場所に相応しい所だった。
道場へ着くとすぐにシズが奥へと案内してくれた。
そこではリオンとライ、そして白い妖艶な二人に加えて、見慣れないクリクリ頭のヒト型の武獣がいた。
「ライ殿、シズ殿より話は伺っております。
フェリダエに迫る未曾有の危機やもしれません。
共に手を取り、その危機へと立ち向かいましょう」
フーが力強く抱拳礼をする。
受けたライも優雅な仕草で返した。
「頼もしいお言葉です。
虎皇拳の皆様、そしてタマさん御一行のお力があれば、最早危機など去ったも同然でしょう」
そう言ってライは、僕ら"タマさん御一行"にも抱拳礼をした。
「任せてくださいニャ!」
僕ら三人は最近、"タマさん御一行"と呼ばれていた。
確かに種族も流派も違うので、まとめて呼ぶ時にはこうなってしまうのかもしれない。
でも僕は、この呼び方を気に入っていた。
タマとレサは、特になんとも思っていないようだった。
「リオン様、何かお言葉を」
ライがそう告げて、後ろにいたリオンの方を向いた。
「ええ」
リオンは装飾の施された長椅子に、半分寝そべる様な感じで座っていた。
そして相変わらず気だるそうにしている。
これで大陸一の働き者だというのだから信じられなかった。
「よく来てくれた。
感謝するわ。
アムは残ったのね。
相手の動きが読めない中、賢明な判断。
さすがアムね」
「はっ! "南の守備は任せなさい"との事でした」
「投げキッス付きね。
安心だわ」
フーが苦笑いで答えると、リオンも少しだけ頬を弛めた。
リオンへの挨拶を終えると、再びライがこちらへと向き直った。
「それからこちらのお三人を紹介しましょう。
雪尾拳のお二人、ハク殿とシュエ殿。
そして梅花拳のパド殿です」
紹介された三人が一斉にこちらへと抱拳礼をしたので、僕らも揃って返した。
「ハク殿! 久しぶりでごわす!」
ワンフーが前へ出て一際大きい声で言うと、髪の長い方、ハクは穏やかな笑顔をワンフーへと向けた。
「ワンフー様、其の節は……」
そういえばこの二人は、研鑽会で闘っていたのだった。
ハクの技をワンフーが耐えた所で、ハクが自ら降参するという妙な闘いだった。
そういえば雪尾拳の二人は表彰式でも浮かない顔をしていたな……。
「ば、ば、梅花拳のパドと申します。
ご高名な皆様にお会い出来て光栄でございます」
パドはそう言ってペコペコと頭を下げながら改めて抱拳礼をした。
フーは微笑み、頭を上げる様にと優しく促した。
「パド殿、梅花拳の事はとても残念でした。
あなただけでも無事で何よりです」
フーの温かさに触れ、涙を滲ませるパド。
だが、そこはぐっと堪え話を続けた。
「ハク様とシュエ様に救って頂いたのです。
私など、あのジラと申す者の前では木っ端同然でした」
俯きながら、そう言葉を絞り出すパド。
ここでタマが桃色の肉球を高く掲げ、話に割って入った。
「そこニャ! 不思議ニャのは!
どうしてハクさん達は突然現れたのニャ?
予知能力でもあるのニャ?」
タマが首を傾げてそう言うと、ハクとシュエが二人揃って一歩前へと進んだ。
「タマ様が不思議に思うのも無理ありません。
ただ我々雪尾拳には、昔からの伝説があるのです」
「伝説でごわすか?」
ハクが隣のシュエを見る。
すると今度は髪の短い方、シュエが話し始めた。
「"ネコ集いし時、北より審判の時が訪れる"
これがその伝説です。
我々はこの伝説の事もあり、研鑽会へと参加したのです」
「ネコ集いし時、北より審判の時が訪れる……」
何か含みのある伝説にみんなが息を呑む。
少しの間静まり返った道場には、レサの寝息だけが響いた。
気まずくなったタマは、レサを道場の隅へと床を滑らせ放った。
「我々は、研鑽会で必ず何かが起こると思っていました。
自ら降参したのも力の温存のため。
しかしご存知の通り、結局は何も起こりませんでした」
「そういう訳でごわしたか……」
ワンフーが納得した様に大きく頷いた。
ハクが続ける。
「でもその後も、我々は監視を怠らなかった。
道場のある猫雪山に戻ってからも、常に北を注視していました。
そんなある日、確かに北より異様な獣力が迫って来ているのを感じたのです」
「つまりそれが……」
シュエが頷く。
「はい。
それは猫雪山の方ではなく、平地へと向かっている様子でした。
我々は慌てて山を降りました。
と申しましても、異様さは感じても正確な位置まではわかりません。
そこでとりあえず近隣の梅花拳へ向かった所、偶然にも超獣拳の者と出くわしたのです」
「なるほど……。
合点がいきました」
フーがスッキリとした顔で雪尾拳の二人を見た。
二人はフーと目を合わせ軽く微笑んだ。
「運が良かったのです。
お陰でパド殿を救えた。
ただ、ジラというあの武獣家……。
かなりの使い手でした」
「超獣拳ジラか……」
「リオン様! ライ様!」
若獅子が一人、僕らの下に急に飛び込んできた。
これは何かが起きる時のお決まりの流れだ。
「門に! 門にこんな手紙が!」
「手紙?」
長椅子に寝そべるリオンの眉がピクリと動いた。
読んでいただきありがとうございます。
雪尾拳の研鑽会での行動には訳がありやした。
伝説の文言は素直過ぎでしたかね?
もっと謎解きっぽく出来ればよかったけど……。
まぁ難しいですね。
次回、エノがおセンチになります。
よろしくお願いします。
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