第三十七集 兄と妹 その一
「いい気になるな!
受けてみろ! 猫爪乱舞」
ミケがタマに向かって突進していく。
そして今度は、さっきの技を上回る速さで連続攻撃を繰り出してきた。
初めは何とか躱していたタマだったが、次第にミケの攻撃がタマの体を掠る様になってきた。
とうとうミケの廻し蹴りが、タマの顔面を捉えそうになる。
たがタマは落ち着いて、その蹴りの軌道に肉球を合わせた。
「柔弾肉球!」
威力十分のミケの廻し蹴りだったが、その勢いは完全に肉球に吸収された。
顔をしかめるミケ。
対象的にタマは自信に溢れた顔をしていた。
「いいぞー! タマ!」
「私の廻し蹴りを……」
渾身の蹴りをタマの肉球で受け止められ、信じられないといった顔のミケ。
蹴りを戻すと、一旦引いて距離を開けた。
「スゴい、タマ!
完全にタマのペースだ!」
「いや……」
僕はタマの奮闘に興奮しきりだったが、レサは至って冷静だった。
「守りはいいけど、タマには決定打が無い……。
回転ネコ波无智も見切られたし……」
「あっ……」
確かにレサの言う通りだ。
このまま守り続けるだけでは勝てない。
ミケが疲れるのを待つか?
でもタマの体力だって無限じゃない。
「獣力はどうなの?
タマの獣力の量は並み大抵のものじゃないって……」
「多分、僅かにミケの方が上……」
「そんな!」
闘技場の上では激しい攻防が再開されていた。
相変わらずミケが攻め、タマが守る形だ。
タマも肉球で弾き返してなんとかして反撃しようとするが、ミケはその反動さえも上手く利用して次の攻撃に繋げていた。
「あんなにずっと攻撃してるのに、ミケさんは全く息が切れてない。
対してタマは……」
タマの顔には大粒の汗が光っていた。
表情も何処か苦しそうだ。
「守る側は相手からの重圧も受ける。
間違えたらやられるっていう。
こっちからもカウンターの重圧を与えられればいいけど……」
とうとうミケの蹴りがタマの胸の辺りを捉えた。
「がはっ!」
闘技場の隅へ飛ばされるタマ。
胸を押さえて片膝を着いている。
「どうしたタマよ、もう終わりか?」
蹴りを放った一本足の体勢のままミケが言う。
言われたタマは、胸を押さえながらもすくっと立ち上がった。
「蹴り一発で勝った気になってるのかニャ?
まだまだこれからニャ」
「減らず口を!
猫爪乱舞!」
またしても猛攻を仕掛けようと突進するミケ。
それを見て不意に、ウー大師の技を受けるタマの姿が脳裏に蘇った。
「タマ! 肉球の壁だ!」
「ニャニャニャニャニャー!!」
タマが両の掌を前方に向けて、円を描くように素早く動かす。
するとタマの前に肉球の壁が出来上がり、ミケの攻撃を全て弾き返した。
「おのれ! 奇っ怪な技を!」
攻撃を全て防がれたミケが、焦ったように言い捨てる。
ミケも段々と余裕が無くなってきている。
だがそれ以上にタマの消耗は激しかった。
「くっ……」
苦悶の表情を浮かべ、またしても片膝を着くタマ。
「体力も獣力も限界に近い……」
レサが珍しく無表情を崩し、心配そうにタマに目を向ける。
いつも冷静なレサのそんな様子を見て、僕の不安も加速した。
「タマ……」
闘技場の上では、膝を着くタマをミケが離れた位置から見下ろしていた。
「タマよ……。
私相手にここまでやるとは正直驚きだ。
だが、それもこれまで。
猫爪乱舞!」
「負けないニャー!!」
ミケの猫爪乱舞に合わせて、肉球の壁を張るタマ。
だがミケは正拳を繰り出すと見せかけ、なんとタマの手首を掴んできた。
「ニャ!?」
「ええ!」
「甘い!」
ミケは掴んだタマの手首を引っ張り上げると、タマをうつ伏せの状態にして肩に担ぎ上げた。
そしてそのまま空中へと高く飛び上がった。
「これで終わりだ! タマ!
猫爪三日月落としー!」
タマを担いだまま空中で逆さまになるミケ。
このまま石の闘技場に、タマの体を打ち付けるつもりだ。
あんな高さから硬い石に打ち付けられたら……。
これは絶体絶命だ……。
「タマーー!!」
思わず絶叫してしまう。
だが隣のレサが、さっきとは打って変わって冷静さを取り戻していた。
「タマの目は死んでいない!」
レサがそう言うと、タマは固められながらも必死で体を捩る。
「喰らえー!」
闘技場に激突する寸前、タマがお尻をグイッと突き出した。
「柔弾尻ー!!」
━━ぽよーん
タマとミケ、二人の体がボールの様に空中に投げ出された。
「な、何が!」
ミケは現状を把握できていないみたいだった。
対してタマはすぐに体勢を立て直した。
すると、うつ伏せの状態で地面と水平になったミケの体が、まるで吸い寄せられるかのようにタマの足元へと飛び込んできた。
「粉砕肉球踏ー!!」
タマは胸に抱えるように縮めた両足を、ミケの背中目掛けて真っ直ぐに伸ばした。
「ぐはっ!」
空中でタマの両足に背中を踏みつけられた格好になったミケは、うつ伏せのまま闘技場へと叩きつけられた。
闘技場に砂埃が舞う。
不意に一陣の風が吹いて砂埃を払うと、そこには気絶してピクリとも動かないミケの姿があった。
「勝者タマ!」
そう叫んだアムの声はとてつもなく大きくて、きっと大猩樹のゴウリの耳にも届いたんじゃないかと僕は思った。
読んでいただきありがとうございます。
勝者タマ!でした。
次回、破れた兄は何を語るのか。
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