第三十四集 対するは大耳拳カル!
大会も順調に進み、一回戦も第七試合まで終わった。
タマの兄で猫爪拳代表のミケは、タマに対して尊大な態度を取るだけの事はあり、第七試合で対戦相手を一蹴した。
試合が終わったばかりなのに、涼しい表情で闘技場を後にするミケ。
待機場所で出番に備えていた僕らの事は、一瞥もせず去っていった。
〈余裕って感じかな……〉
ちなみに僕とエノも、タマと一緒に闘技場の側で控えていた。
大会の規定で出場選手には、介添人が一人二人付いても良いという事になっていた。
もしかしたらフーが、僕らの事を考えてくれたのかもしれない。
いや、それは自意識過剰ってやつか……。
ミケに無視された形になった僕らだったけど、タマもあえてなのか、ミケの試合を見ることはなかった。
そしてミケの試合が終わったという事は、次はついに我らがタマの出番だった。
「次が前半戦最後の試合になりまーす!
まずは主催者推薦タマ!」
進行役のリースがタマを呼び込む。
「タマ! 頑張って!」
「タマー……」
「ニャ!」
闘技場へと足を踏み出したタマの背中に、僕とレサで声をかけるとタマは元気よく応えた。
「対するは大耳拳カル!」
続いて対戦相手のカルが登場する。
大きな耳にふさ毛、相変わらず特徴的な耳だ。
タマとカルが闘技場の上で向き合い、抱拳礼を交わすと互いに構えた。
いよいよタマの闘いが始まるとドキドキしていると、カルが構えたままタマに声を掛けた。
「タマ、全力でいくぞ!
主催者推薦、楽しみにしてるぞ!」
「肩書きニャんてどうでもいいニャ!
カル! 負けないニャ!」
互いに言い終わると、タマがカルに向かって飛び出した。
両手の爪を出し、タマが仕掛ける。
「ネコ波无智!」
両手を振るい、タマが連続攻撃を繰り出す。
「いいぞ! タマ!」
しかし、それらは見事に全て躱された。
タマの攻撃も鋭いと思ったけど、カルの身のこなしもかなりのものだ。
「むっ……」
レサが珍しく難しい顔をして唸る。
「レサ?」
「いや……」
その後もタマが猛攻を仕掛け、それをカルが躱す形が続いた。
それにしても尽くタマの攻撃が躱される。
まるで動きが読まれてるみたいだ。
「へっへー!
おい! どうしたタマ!
こんなもんか!」
カルが逆立ちをしながらおどけた様に言うと、タマは地面をドンドンと踏みつけて悔しがった。
「ニャー!
まだまだニャ!」
タマがカルに向かって突撃する。
カルはそれをヒラリと躱し、右足で一撃を加えた。
「ほい!」
「ニャが!」
だがカルの攻撃は当りが浅かったようで、ダメージは大したことない感じだった。
一旦離れた両者は、そのまま間合いを取り、相手の出方を窺っている。
「分かった……。
あの耳だ……」
レサが突然呟く様に言う。
「耳?」
「多分カルは異常に聴覚が優れているんだ……。
タマが動き出す時の、微妙な擦れの音で動きを察知してる……」
そんな事が出来るのか……。
流石武獣家、凄い世界を生きている。
「レサもスゴイね。
まるで武獣家だ」
「ナメんなよ……」
レサが鼻息荒くし、胸を張る。
つい冗談っぽく言ったけど、レサもれっきとした武獣家なんだ。
「でもその事、タマは気づいてるのかな?
もし気づいていてもどうすれば……」
「大丈夫、ワタシに策がある……」
レサの目がピカンと妖しく光る。
何か良からぬ事を考えてるんじゃ……。
しばらく様子を窺っていた両者だったが、今度先に動いたのはカルだった。
「しゃあ!」
カルも爪を出し、タマに向かって振るう。
たがタマも上体を反らして躱す。
するとカルは体勢を低くして、タマの懐に潜り込もうとしてきた。
その時、レサの目がカッと見開いた。
「タマ! ゴウリ様の真似ー!」
「!? ウホウホウホー!!」
初めて聞いたレサの大声に、タマが思わずといった形で反応する。
タマは胸を手のひらでバンバンと叩きながら、大猩樹に届けとばかりに大声でウホウホと叫んだ。
「うるさーい!!」
それはかなりの声量で、少し離れた僕でも耳を塞ぎたくなるくらいだった。
「これぞ大猩模倣騒!」
レサは何故か平気なようで、腕を組み得意な顔をして言う。
いつも眠そうな目がバキバキだ。
「ギャー!」
懐に潜り込み、タマの顎を正確に捉えようとしていたカルだったが、耳をつんざく大声を出され、思わず両手で耳を塞ぐ。
そのためカルの胴体はがら空きとなった。
「隙ありニャー!」
タマは右腕を大きく後ろに引くと、カルの土手っ腹めがけ掌を思いっきり打ちつけた。
「肉球掌底!」
がら空きの腹に肉球の掌底を受けたカルは、闘技場の場外へと吹き飛ばされた。
砂埃を立て地面に倒れたカルは、目を回し微動だにしなかった。
それを見たアムが右手を上げて叫んだ。
「勝者タマ!」
「ニャーー!!」
雄叫びを挙げて両手でガッツポーズをするタマ。
僕とレサがタマに駆け寄り飛びつく。
「タマーー!!」
「タマ、ナイス……」
涙が止まらない僕と笑顔のタマ。
レサはいつもの眠たそうな顔に戻っていたが、何処となく嬉しそうに見えた。
〈あれはアタシの"愛・アム・レディ"……。
流石タマちゃんね。
アタシとゴウリちゃんが見込んだだけの事はあるわ〉
喜ぶ僕らを見て、アムの口元が少しだけ綻んだ。
読んでいただきありがとうございます。
タマ、一回戦突破です。
次話は初戦の感想戦?です。
よろしくお願いします。




