第二十八集 さよニャら! 大猩拳!
タマの修行が一段落したので、大猩拳の森を発つことになった。
大猩樹の中ではシンシンさんと大猩拳のゴリラ数名が、お別れの宴の準備をしてくれていた。
その外にある広場では、僕とウー大師が向き合っていた。
タマとエノは僕らの近くで「ウホウホウホー」と、ゴウリの真似をして遊んでいた。
「では、エノ君。
いきますよ」
「はい、お願いします!」
約束通り、大師が最後の助言をくれることになった。
大師がいつものように背中から棒を出す。
「その前にこれを渡しましょう」
大師はそう言うと、たった今背中から取り出した棒を、こちらへぽいっと投げてきた。
「わー! っとっと……」
咄嗟なことで慌てたけど、何とか上手く掴めた。
「その棒は差し上げます。
エープにしか自生していない、サルボクという木から出来ています。
非常に硬いうえ、軽いので扱いやすいのです。
餞別として受け取ってください」
「ウー大師……、ありがとうございます!」
思いがけない贈り物に涙が出そうになる。
ただタマとレサがやって来て、「へー」だの「おー」だの言って、遠慮なく棒を突っついたりするもんだからすぐに引っ込んだ。
大師はそんな僕らの様子を微笑ましそうに見ていた。
「では改めて、最後の助言を贈ります。
と言っても、なんという事もありません。
砂塵障壁を使う際、棒に獣力を纏わせるのです」
「じゅ、獣力?
獣力って僕にもあるんですか?」
ウー大師がゆっくりと頷く。
「獣力とは少し違うものかもしれませんが、生きとし生けるものは皆似たような力を持っています。
もちろん、エノ君も」
僕にもそんな力が……。
すぐには信じられないが、ウー大師の言う事に嘘はないと思う。
大師と修行したこの期間で、信頼は揺るぎないものになっていた。
「その力を纏わせた棒を高速で回し、地面を擦る事で土煙が立ちます。
力を纏わせ無くとも出来ますが、纏わせた方が早いし、棒も長持ちするでしょう」
「なるほど」
とりあえず獣力云々は置いといて、棒を回してみる。
「これは……」
これまで使っていた棒とは全然違う。
軽いし、何より手に馴染む。
これならかなり早く回せそうだ。
そう思って、出来るだけ早く回してみると、タマとレサから拍手が起こった。
「おおー!
エノ、やるニャー」
「やるー……」
吊られたのか、ウー大師も拍手をくれた。
「回すのはその調子です。
獣力というか、仮に"ヒト力"とでも呼びますか。
その扱い方はタマ君やレサ君から学ぶといいでしょう」
「任せるニャ!」
「任せるニャ」
タマが自分の胸をドンと叩いて言うと、レサは何故かタマのお尻をドンと叩いて言った。
「なんでワタシの尻を叩くニャ……?」
「そこに尻があったから……」
「名言っぽく言うニャ!」
この二人もなんだかんだで、いいコンビになってきた気がする。
そういえば、レサはこれからどうするのか?
ずっと一緒にいるのが当たり前になってるけど、レサはサルでこのエープの住人だ。
フェリダエに一緒に行くのは難しいかもしれない。
そんな事を考え込んでいると、いつの間にかウー大師が僕の側へと来ていた。
「エノ君、これでひとまずウー式護身棒術の修行は一区切りになります。
私がいなくても精進して、砂塵障壁を習得してください」
「ウー大師……、本当にありがとうございました!」
大師に向かい、心の底から感謝の気持ちを込めて抱拳礼をする。
気持ちが伝わったのか、大師も力強い抱拳礼を返してくれた。
また少しウルッときたところに、虎皇拳にも届きそうなゴウリの大きな声が鳴り響き、涙は何処かへと吹き飛ばされた。
「宴の準備が出来たゴリー!
早く中に入るゴリー!」
「お腹すいた……」
ゴウリの声を聞いて、レサが一目散に大猩樹の中に入っていった。
その小さな背中を見ていると、このままレサとお別れするのは寂しいという気がしてきた。
「ねぇ、タマ。
レサとはやっぱり黒猩拳でお別れかな?」
そう言うと、タマは何故かキョトンとした顔になった。
レサがいるのが当たり前になっていて、お別れの事は頭に無かったのかもしれない。
「エノは聞いてニャいのか。
レサは私たちと一緒に虎皇拳まで行くって言ってるニャ」
「ええー!」
驚いて、思わず大きな声が出てしまった。
嬉しいけど、勝手に決めて大丈夫なのか?
「既にゴウリ様の許可も取っているらしいニャ」
流石レサだ。
そういう所は抜け目ない。
仮にジーショウがダメだと言っても、ゴウリの許しがあれば無敵だ。
「心配して損した……」
なんだか力が抜けて苦笑いをしていると、ウー大師が僕の肩をポンと叩いた。
「ゴウリ様も二人の身を案じているのです。
だから、レサ殿をお供に付けたのです」
なるほど、レサだけの考えじゃなかったのか。
僕らは本当に周りに恵まれている。
「早く来るゴリ!
レサがご馳走を全部食べる勢いゴリ!」
「ふざけるニャー! レサ!」
慌てて大猩樹の中へと駆け込むタマ。
僕とウー大師は微笑みながら、その後ろ姿をゆっくりと追いかけた。
読んでいただきありがとうございます。
レサは小さな体でよく食べるようです。
次回は再びトラ達の登場です。
よろしくお願いします。




