第二十四集 ラオ=タン=ウー参上!
高名な武獣家、ラオ=タン=ウー大師に会うため、大猩拳の森にみんなで来ていた。
ウー大師は、武獣家でありながら武獣家嫌いといった変わり者らしい。
だから逆に武獣家じゃない僕には、何か身を守る術を教えてくれるかもしれない。
僕はウー大師にそんな期待を抱いていた。
「この辺だったゴリかな?
ラオ=タン=ウー大師ー!」
ゴウリが大きな声でウー大師の名前を呼んだ。
「ゴウリ様の声なら黒猩拳からでも聞こえるニャ」
タマが褒めてるのか貶してるのか分からない事を言う。
すると突然、頭上の木がガサガサと揺れたかと思うと、上から誰かが飛び降りてきた。
そしてドーンと、派手に音をたてて着地した。
降りてきたのは、処々に茶色の長い毛が生えたヒト型のサルだった。
長身で手足が長く、綺麗な顔をしていた。
〈美人!〉
飛び降りてきたサルは、着地の姿勢のまま中々動き出さなかった。
「足痺れ……フガ!」
レサが指を差して、遠慮の無い事を言おうとしたので口を塞いでおいた。
余計な事を言って機嫌を損ねでもしたら大変だ。
そうこうしているうちに、そのサルがようやく口を開いた。
「お呼びになられましたか? ゴウリ様。
ラオ=タン=ウー、参上」
そういってゆっくりと髪をかきあげる。
この方がラオ=タン=ウー大師?
想像と全然違った……。
自己陶酔系っぽいぞ?
それに声が……イイ声!
これはもしや?
〈男か!〉
「ウー大師、元気そうで何よりゴリ」
「ゴウリ様におかれましてはご機嫌麗しゅうございます」
ウー大師がゴウリに向かって畏まった礼をする。
〈あ、レサが言えないやつだ……〉
「ぐぬ……」
僕の横にいたレサが珍しく感情を露わにして、悔しそうに歯ぎしりしていた。
顔を上げたウー大師がゴウリに近づく。
「ゴウリ様自らいらっしゃるとは、何かございましたか?」
ゴウリが頷いて答える。
「ふむ。
実はちょっと面倒を見てほしい奴がいるゴリ。
武獣家じゃないから安心するゴリ」
「ほう……」
ウー大師は初めは少し怪訝な顔をしたが、武獣家ではないと聞き元の澄まし顔に戻った。
「それは興味深い。
私は既存の武獣家に用は無いのでね。
で、その方はどちらに?」
「こいつゴリ」
ゴウリが鼻をほじりながら僕を指差した。
〈紹介、雑だな!〉
少しだけイラッとしたが、ウー大師に向かって頭を下げて自己紹介した。
「エノと申します。
種族はヒトです。
牙も爪もありませんが、何とか自分の身くらいは守れるようになりたいと思っています。
どうかご教授お願いいたします」
そう言うと、ウー大師は僕を眺めながら、僕の周囲をグルグルと回りだした。
そして突然ピタッと止まると、嬉しそうに微笑んだ。
「素晴らしい!
頼りない体つきにバネのない足腰、そして本当に牙も爪も無い!
貴方こそ私の探し求めていた方です!
ゴウリ様、ありがとうございます!」
凄い言われようなんだけど、褒められてもいるので複雑な気持ちになる。
ウー大師が右手を差し出してきたので、その手を握り返した。
「うんうん。
やはり力も無い。
これは私の助けが必要ですね!」
「大師!
教えてくだされ!
何故、エノ殿なのですか?
何故、拙者では駄目なのですか!」
ジーショウがウー大師にすがるように訊ねる。
「誰ですか、あなたは?
あなたは十二分に闘う力を持った武獣家でしょう。
私が追い求めているのは"持たない者"のための術!
そう! それこそがウー式護身棒術である!」
ウー大師はそう言うと、背中からスルスルっと一本の長い棒を取り出して構えた。
明らかに大師の背丈より長い……。
「背中からって、物理的におかしくないですか?」
「エノ君、細かい事を気にしてはいけません」
全然細かくないと思うけど、この世界は本当にみんな大らかというかなんというか……。
「道具……、道具を使うのですか?
それは、なんというか、武獣家としては……」
ジーショウが戸惑ったように言う。
タマも複雑な表情をしている。
でもウー大師は、それも想定内といった感じで余裕の表情だ。
「既存の武獣家には抵抗があるでしょう。
ただ先程も言いましたが、この棒術は"持たない者"のためのもの。
己の身を守るための術なのです
あなた方の拳とは、そもそもの存在理由からして違うのですよ」
ウー大師に言われ、ジーショウは腕を組み、うーんと唸っている。
タマは頭にハテナを浮かべていた。
レサは相変わらずの眠そうな顔で、何を考えているのか分からなかった。
「エノ君、君にウー式護身棒術を授けましょう。
いかがですか?」
棒術、しかも護身術か。
これなら僕にも出来るかもしれない。
ウー大師はちょっとクセがありそうだけど……。
「はい!
是非お願いします!」
ウー大師に向かって抱拳礼をすると、大師も笑顔で返してくれた。
「エノ、良かったニャ!
お互い頑張るニャ」
「うん!
ありがとう、タマ!」
「お、終わったゴリか?
じゃあ、帰るゴリ」
その辺で寝転んでいたゴウリがノソノソと動き出す。
もう少し僕にも興味を持ってほしい。
まぁここまで連れてきてくれただけでも感謝か。
「修行は明日からにしましょう。
明日の朝、ここに来てください。
道はわかりますか?」
「あ、えーと……」
多分、分からない。
こういうところも周りに頼っちゃってるな。
「任せて……」
帰りにでも覚えようと思っていると、レサが手を上げて答えた。
「え? レサ、僕の修行に付き合ってくれるの?」
僕が言うとレサは小さく頷いた。
「ワタシがいないと画が持たないから……」
よく言ってる意味が分からないが、レサなりに気を使ってくれているのだろう。
「ありがとう、レサ」
「大丈夫なようですね。
ではまた明日お会いしましょう!」
そう言うと、ウー大師は高くジャンプし、木の上へ消えていった。
強烈な個性の持ち主だが、とりあえず信頼しても良さそうだ。
ゴウリの仲介というのもあるし。
「じゃあ、改めて帰るゴリ」
ゴウリに続いて大猩樹へと戻る。
その道中、ふと前を歩くジーショウが目についた。
「ジーショウさんは、明日からどうするんですか?」
ジーショウはよくぞ聞いてくれたとばかりに、こちらを勢いよく振り返った。
「拙者は明日より、タマちゃんの応援だ。
全身全霊を込めてタマちゃんを応援する」
「ええ〜、別にいいニャ……」
タマは勘弁してくれといった表情だ。
対象的にジーショウの目はギンギンだ。
「ジーショウは帰るゴリ」
「はいですニャ……」
ゴウリの鶴の一声で、ジーショウの目に絶望の二文字が宿った。
さらに、肩を落とすジーショウのお尻にレサが正拳突きを放った。
「お前はサルだろ……」
読んでいただきありがとうございます。
次話は修行の模様です。
よろしくお願いします。




