第二十集 小さな案内人ニャ!
「見えた。
あれが黒猩拳の里だ」
黒猩拳の里は豹猟拳の里からすぐだった。
元々はエープの外れ、今とは反対側にあったらしい。
でも前回の騒動の結果、豹猟拳と交流出来る事になったので、フェリダエとの国境近くに引っ越してきたのだった。
エープのサルは木の上に住処を作る種族も多いが、黒猩拳のチンパンジー達は地上に家を作っていた。
豹猟拳の里を参考にしたらしい。
どおりで似ていると思った。
「今日はもう遅いので、案内役は明日紹介しよう。
客用の小屋があるので今晩はそちらへ」
ジーショウは自ら色々世話を焼いてくれた。
無骨な印象だったから意外だった。
ジーショウに連れられて、客用の小屋に行く。
こじんまりとしているが、綺麗な小屋だった。
「この小屋、一部屋しかないですよね。
タマギーク的には……」
「エノ殿は安パイだからな」
ジーショウが表情を変えずに言う。
無害とかって事なんだろうけど、なんか悔しいんだよな。
「また言ってるのかニャ。
先にお風呂もらうニャー」
「あ、ズルいぞ!
お姉さんだろー」
そう、黒猩拳の里にはなんと風呂があるのだ。
この世界にも、場所によっては湯船に浸かる習慣があるらしい。
タマも何度か入った事があるのだとか。
道中にジーショウから聞いた時は歓喜した。
タマが風呂に行くと、ジーショウがこちらをじーっと見てきた。
「部屋は一緒でも、風呂は別だぞ。
タマギーク的にダメだぞ」
「僕的にもダメですよ。
世の中的にも」
そう言うと安心したのか、ジーショウは「明日の朝、迎えに来る」と言って出ていった。
ジーショウが出ていくと、タマが風呂から帰ってきた。
「早っ! タマ早いね」
「お風呂は気持ちいいけど面倒ニャ」
結局タマはいつものようにお湯を浴びるだけにしたらしい。
お湯を浴びて、ニャニャニャと洗って、すぐ出てきた(タマ談)
「もったいないなぁ。
まぁいいや。
じゃあ、お風呂行ってくるね」
「ニャー」
久々の風呂は最高だった。
危うく風呂で寝てしまうところだった。
風呂からあがると、タマは既にベットでドタバタやっていた。
今日は稽古もして、移動もしてで疲れたんだろう。
「おやすみタマ」
「ZZZ……」
翌朝、体に重みを感じて目を覚ました。
〈お、重い……〉
タマは隣のベットだ。
立ち歩かないと僕のベットまでは来られない。
いくらタマでもそこまで寝相は悪くないはず。
薄っすらと目を開けると、僕の胸の上に人形みたいな女の子が乗っていた。
「おはよう」
「え? あ、おはよう……」
胸の上の少女は落ち着いた声で挨拶してきた。
驚いたけど、少女の落ち着きに吊られて普通に挨拶してしまった。
耳がピンと立ったヒト型の子だ。
でも、なんて動物だろう?
大きな目だけど眠そうな感じだ。
何だっけ?
ジト目?
「あなたネコ?
でも耳も小さい、ヒゲもない。
聞いてたのとは全然違う……」
「ネコじゃないよ。
ネコはあっちで寝てる。
僕はヒトなんだ。
名前はエノ。君は?」
少女は胸の上に乗ったまま聞いてきた。
地味に重いからそろそろ降りてほしい。
「ヒト……?
聞いたこと無い。
わたしはレサ。
よろしく」
「あ、こちらこそ」
マイペースな子だなと思っていると、タマが起きた。
「んん〜?」
タマが目を擦りながらこちらを見る。
僕の上のレサを見ても、タマは驚きもせず欠伸をした。
眠気が勝っているのか?
「なんニャ〜、その子は?」
「おはよう」
レサがタマに向かって言う。
勝手に入ってきた割には、律儀に挨拶はする。
面白い子だ。
「おはようニャ。
わたしはタマだニャ。
あなたは誰ニャ?」
「わたしはレサ。
よろしく、タマ」
「よろしくニャ〜。
レサ」
タマもレサに吊られたのか普通に会話している。
いや、タマは通常運転か。
二人の様子を見ていたら、小屋の扉がノックされた。
返事をすると、ジーショウが入ってきた。
「ぬ!
レサ! お主、何をしておる!」
「あ、ジーショウさん……。
おはよう」
レサを見たジーショウが、慌ててこちらへとやって来る。
「挨拶などよい!
ここは客用の小屋ぞ。
お主、何処から入った!」
「そこ……」
レサが壁の上の方を指差す。
換気用なのか、小さな小窓があった。
普通なら無理だが、レサなら通れそうだ。
「全く、お主は……。
後で行くから待っておれ、と言ったではないか」
「早起きしたもので……」
そう言って頭を掻くレサ。
悪気があった訳ではないようだ。
「あの~、とりあえず僕から降りてもらえる?
そもそも何故乗ってるのかな?」
「あ、ゴメン……。
見たことない種族だから気になって」
レサがノソノソと僕から降りる。
床の上に立ったレサは思ったより小さかった。
僕らの膝より少し高いくらいだった。
「エノ殿、朝からお騒がせした。
何を隠そう、この娘がゴウリ様の下への案内役だ。
我楽護拳のレサだ」
「よろしく……」
まさかこの子が案内役とは。
ということはサルで、しかも武獣家なんだ。
悪い子じゃないのは分かるけど、マイペースな感じが少し心配だ。
「おお!
レサが案内してくれるニャ。
楽しくなりそうニャ!」
タマがレサの手を取ってブンブンと振る。
レサはその勢いに振り回されるが、眠たそうな顔のままだった。
「少々おっとりとしているが心配いらぬ。
ゴウリ様の下へも何度も行っている。
それにレサは夜目がきくのだ。
エープには夜行性の危険な生き物がいるのでな。
その点、レサがいれば安心だ」
ジーショウに紹介されたレサは、その足下でピースをしていた。
表情は相変わらずだけど、なぜか得意気に見えた。
「任せて……」
読んでいただいてありがとうございます。
レサ初登場です。
次回はゴウリが再登場です。
よろしくお願いします。




