第十六集 旅に危険はつきものニャ!
ゴウリに指導を受けるため、タマと二人、エープに向かうことになった。
旅立ちの日、虎皇拳のみんなが見送ってくれた。
アムはハンカチを噛んで泣いていた。
それって悔しい時とかにするやつじゃ……。
しかも自分から行けって言ってくせに。
本当に規格外のトラだ。
「本当に案内は必要無いのですか?」
フーは忙しい中、旅の準備を色々手伝ってくれた。
案内役もつけてくれようとしたが、タマが大丈夫だと断わった。
ティグはがっかりしていたが、リースにそもそも候補に上がらないとハッキリ言われていた。
「とりあえず豹猟拳までの道はわかりますニャ。
そこから先はそこでまた考えますニャ」
「そうですか。
では、これをお持ちください。
アム様からゴウリ殿へ宛てた手紙です。
私からリバへ書いたものもあります。
それと、お言葉に甘えてこちらも……」
そう言ってフーは2通の手紙と紙の束を差し出した。
紙の束はフェリダエ武獣研鑽会の案内だ。
ついでなので豹猟拳へ届ける役目を買って出た。
それらを受け取り、大切にカバンへ入れた。
「お忙しい中、手紙までありがとうございます。
案内も必ず豹猟拳へ届けます。
本当にお世話になりました」
「ありがとうございニャす!
行ってきますニャ!」
タマと一緒に、虎皇拳のみんなに向かって抱拳礼をする。
「お元気で。
研鑽会でお会いしましょう」
「タマちゃん、エノちゃん、お土産よろしくね」
虎皇拳のみんなも抱拳礼を返してくれた。
アムだけは親指を立てた独特の動きだった。
こうして僕らはエープに向けて出発した。
■
「タマ、お疲れさま。
変わるよ」
虎皇拳を出発して数日がたった。
ここまでの旅は順調だった。
今日は中間地点の森の中で夜を明かす事にした。
「おはようニャー、エノ。
じゃあ後は頼むニャー」
タマはそう言って、僕と入れ替えでテントへ入っていった。
夜はこうして交代で寝ることにしていた。
「おやすみー」
「ニャー」
タマがテントへ入ると、すぐにドッタンバッタン聞こえてきた。
寝相は相変わらず悪いが、寝付きはいい。
昼間、タマは僕に気を使ってくれる。
僕は武獣家の体力にどうしてもついていけない。
タマもその事は分かっているので、ゆっくり歩いたり、休憩をこまめに取ってくれたりするのだ。
〈気疲れみたいなのもあるのかな……〉
そんな事を考えながら火に薪をくべていると、少し先の草がガサガサと音を立てていた。
注意して見ていると、不意に大きな影が見えた。
「!?」
とりあえず足元にある紐を引っ張る。
何かあった時、その紐を引くとテントの中の鈴がなる仕組みになっていた。
鈴が鳴り、しばらくするとタマが目を擦りながらテントから出てきた。
「どうしたニャー、エノ?
何があったニャ?」
僕は影の方を無言で指差す。
といっても既にそれは影ではなく、その姿を露わにしていた。
二足歩行の馬鹿デカいトカゲだった。
それを見たタマは一気に目が覚めたようだった。
「えーと……、あれはフェリダエオオトカゲっていって、非常に凶暴なやつニャ。
あいつらはグルメじゃニャい。
何でもぺろりニャー!」
タマが叫ぶと、フェリダエオオトカゲが走ってこちらへ向かってきた。
「わー!」
「ニャー!」
慌てて逃げ出す僕ら。
後ろからはドシンドシンと大きな音を立てて、フェリダエオオトカゲが追ってきていた。
「追ってくる!」
「あれを一人で相手するのは厳しいニャ!
並の武獣家なら五人は必要ニャ!」
幸いなのはフェリダエオオトカゲがそれ程速くないことだった。
でも引き離すのは厳しい。
タマ一人なら出来るかもしれないけど。
僕を置いて逃げて! 何て小芝居をやる余裕は無い。
「こーなったら仕方ニャい……。
エノ、"あれ"を出すニャ!」
"あれ"と言われてピンときた。
"あれ"を使うのは久しぶりだ。
「じゅーそーえーしょくー!」
「何を呑気に言ってるニャ!」
カバンから"獣総栄食"を出してタマに渡す。
何故か変な言い方をしてしまった。
前世の影響かもしれない。
「でもタマ、空腹じゃないでしょ?
太るよ?」
「半分だけ食べるニャ!」
タマはそう言って封を切って、獣総栄食をパクリと食べた。
半分残ったやつは僕に渡してきた。
「きたきた、きたニャーー!!」
タマが急ブレーキをかけ、フェリダエオオトカゲの方を向く。
〈やるのか!? あれを!〉
「猫爪波!」
タマが叫びながら爪を振り下ろす。
すると青白い刃がタマの爪から飛び出し、フェリダエオオトカゲに向かっていった。
しかし狙いが少しずれ、刃は腕にあたった。
フェリダエオオトカゲの腕から鮮血が飛び散った。
「ギャォォォ!」
フェリダエオオトカゲは悲鳴を上げる。
しかし、それもすぐに収まり、こちらをギロリと睨んできた。
「外したニャ!
手負いのナントカは何とかニャ!」
「ほとんど知らないじゃん!」
フェリダエオオトカゲがゆっくりとこちらへ近づいてきた。
後ずさりして距離をとる。
「タマ、猫爪波ってまだ使えるの?」
「あと二三発は撃てるニャ。
でも正面から撃ってもあの太い腕で防がれるかもしれニャい」
確かに。
さっきの攻撃も腕を切り落とす事は出来なかった。
確実に胴体に当てるにはどうすれば……?
「そうニャ!
エノ、あの木に登るニャ!
木に登ってあいつの気を引くニャ!」
見ると太い枝が、オオトカゲの上の方まで張り出していた。
でもあそこまで行くなんて、タマならまだしも僕には厳しい。
「無理だよ! タマじゃないんだから!」
「獣総栄食を食べるニャ!
さっき私が食べたやつが半分残ってるニャ!」
タマに言われ、慌ててカバンから半分の獣総栄食を出す。
〈でも、待てよ。これは獣用だぞ……。
えーい、ままよ! ヒトも獣だ!〉
迷ったが、バクッと一口で食べた。
食べると不思議な事に体中からみるみる力が湧いてきた。
「わぁ!
これはスゴい!
これなら行けるかも!」
急いで横から回り込み、木に登ってトカゲの上に出た。
体が軽く、簡単に登れた。
枝は太く、安定していた。
その枝の上に立ち、両足で踏んでガサガサ音をたてた。
「ギャ!」
フェリダエオオトカゲが僕に気がつき、手を伸ばす。
しかし、ギリギリ届かない。
でもジャンプでもされたら、枝ごと持っていかれそうだ。
「ナイスニャー! エノ!」
頭上の僕に向かって両手を上げた事で、フェリダエオオトカゲのお腹が剥き出しになっていた。
タマはその隙を見逃さなかった。
「猫爪波ー!!」
今度は両手で2発、フェリダエオオトカゲにぶち込んだ。
その衝撃で砂埃が舞う。
不意に風が吹き砂埃が晴れると、フェリダエオオトカゲがお腹にバツ印の傷を付け仰向けに倒れていた。
「やったー!」
両手を上げて喜ぶと、枝がバキッと音をたてて折れた。
お尻から地面にドシーンと落ちる。
痛かったが、それより落ちた時の柔らかい感触が気になった。
タマがノソノソと傍にやってくる。
「エノ〜、大丈夫かニャ〜」
タマは前回と同じようにまるまると太っていた。
半分でもダメだったか……。
「タマちゃん、名前の通り"玉"のようだね……」
苦笑いでそう言うと、タマも苦笑いを返してきた。
「エノちゃん、あなたも"タマ"の仲間入りニャ……」
「え?」
そっか、
さっきのお尻の感触は、そういうことだったのか……。
「あと、ヒゲも生えてるニャ……」
触って確認すると、タマと同じ様な3本の長いヒゲが、両頬からピョンピョンと生えていた。
読んでいただきありがとうございます。
太りました。
今度はエノも。
次はまたチーター達とのお話です。
よろしくお願いします。




