第十二集 最強のトラ! アム!
翌朝、朝食を食べていると、約束通りリースが迎えに来た。
「おはようございます。
昨夜はよく眠れましたか?」
「おかげさまでゆっくりできました」
「朝までぐっすりニャ!」
タマは相変わらずの寝相で、朝起きたら床に寝ていた。
それでもよく寝られたようで何よりだ。
料理を運んできたチーが、僕らの会話を聞いて嬉しそうだった。
リースもニコリと笑った。
「良かったです。
では、準備が出来たら道場に向かいましょう。
急ぎませんので、ゆっくり準備してください」
リースはそう言って、自分もお茶を注文した。
朝食は美味しく、あっという間に食べ終わった。
準備といっても、大した荷物もないのですぐに用意できた。
「おまたせニャ」
「それでは道場までご案内します」
リースに続いて宿を出る。
虎皇拳の里は大勢のトラで賑わっていた。
時々、道着を着た武獣家のトラとすれ違った。
治安維持のため、道場の者が見回りをしているのだとリースが教えてくれた。
「ねぇ、リースさん。
アムさんってどんな方なのかな?」
道場まで無言というのも気まずいので、リースに気になっていた事を訊ねてみた。
「アム様はお優しい方です。
真の武獣家は心技体、全て兼ね備えておられます。
アム様も然りです」
「それは言えてるニャ」
「そっか。
安心したよ」
他にも虎皇拳の事を聞いたり、逆にリースから豹猟拳の事やここまでの旅の事などを聞かれたりした。
そんな事を話していると、不意に長い階段が目の前に現れた。
見上げると階段の先に立派な門が見えた。
ただ、階段が長すぎて上の部分しか見えなかった。
「着きました」
「はぁ~、階段だけでも威厳がすごくて尻込みしちゃうよ」
僕はあまりの迫力に圧倒されていたが、タマはワクワクが抑えられないといった表情をしていた。
「エノ、私は先に行くニャ!
頑張って登ってくるニャー!」
タマはそう言うと階段を駆け上がっていった。
「我々はゆっくり行きましょう」
リースのお言葉に甘えて、僕は一段一段ゆっくり登らせてもらった。
肩で息をしながら何とか上まで辿り着くと、門の前でフーとタマが待っていた。
「エノ殿、ようこそ虎皇拳へ」
フーが抱拳礼で出迎えてくれた。
「フーさん……わざわざ、で、出迎えていただいて、あ、ありがとう、ございます……。
こんな格好で、す、すみません」
よろよろになりながら抱拳礼を返した。
「エノ、よく頑張ったニャ!」
「ええ、武獣家以外の方がこの階段を登ると、大抵皆さんそうなります。
お気になさらず」
タマが肩を貸すかと言ってくれたが、流石に情けないので遠慮した。
「では、参りましょう」
フーとリースに付いて門をくぐる。
門の先は中庭のようになっていた。
真ん中に石で出来た通路が続いていて、その両脇で門下のトラ達が整列して鍛錬をしていた。
その様子をタマは目を輝かせて見ていた。
「はい! はい! はいはい!」
鍛錬するトラ達の横を通り過ぎる。
正面に大きな建物があり、その中へと案内された。
「ここが道場になります」
中はいわゆる道場といった感じだった。
ただ、とてつもなく広かった。
豹猟拳の道場も広いと思ったが、その倍はあるかもしれない。
中でも外と同じようにトラ達がびっしりと並んで、型の練習をしていた。
ふと見ると、その広い道場の一番奥は少し高くなっていた。
そこに玉座の様な大きい椅子が置いてあり、その椅子には岩かと思わせる程、縦にも横にもデカいトラがどっしりと座っていた。
そのトラと目が合う。
ギロリと睨まれた瞬間、"弱肉強食"の四文字が僕の頭に浮かんだ。
〈く、喰われる……〉
体が硬直し、冷汗が止まらなくなった。
タマも固まって、耳を前にペタンと伏せていた。
「お二人、どうぞこちらへ」
フーに促され、前にすすむ。
だが、思うように足が前に出ない。
ギクシャクしながらトラ達の間を進む。
そして遂に玉座の前に辿り着いた。
「アム様、こちらのお二人が昨日お話した方々です。
猫爪拳のタマ殿。
ヒトのエノ殿です」
〈こ、これがアム……。虎皇拳の主……〉
フーに紹介されたので、何とか声を絞り出し挨拶する。
その間にも鋭い眼光がこちらを見下ろしていた。
「タ、タマでございますニャ」
「エノと、も、申します」
アムがカッと目を見開く。
思わず悲鳴を上げそうになるが必死に押し殺す。
すると、道場中に甲高い声が響き渡った。
「タマちゃーん! エノちゃーん!
よく来てくれたわ〜
会いたかったのよ〜」
アムは立ち上がると、その巨体をクネクネと動かした。
「へっ?」
頭が混乱する。
タマも目を丸くしている。
これは、何だっけ?
思い出せ、えーと……そうだ!
〈オネェ! オネェの人だ!〉
「アム様、お二人が困っておられます。
素を出し過ぎないようにお願いします」
「だって〜、二人が可愛すぎるんですもの。
抱きしめちゃいたいわ〜」
「お二人が死んでしまいます」
「もうフーったら!
遠慮がないんだから〜」
二人の軽妙なやり取りに呆気にとられる。
このオネエの方がこの国最強の武獣家?
「私がアムよ。
よろしくね。チュッ♡」
うん……。
確かに最強かもしれない。
読んでいただきありがとうございます。
アム登場です。
次回はアムの強さが垣間見れます。
よろしくお願いします。
ブックマークもありがとうございます。
嬉しいです。




