第十集 タマは"かわいい"!?
虎皇拳の道場までの旅は初めての事だらけだった。
今度はそんなに急ぐという訳でも無かった。
なのでみんなと一緒に歩いた。
旅の間の食べ物は、基本的には豆だった。
豆の粉で作った薄いパンや炒った豆が主食だった。
「このパン美味いニャ!」
「気に入ってもらえて良かった。
虎皇拳の里で取れる、トラ豆を使ったパンです」
肉もよく食べた。
狩りで得たトカゲやカエルの類の肉だった。
初めは躊躇したが、食べてみるとそこそこ美味しかった。
あとは途中の森で採取した果物や木の実だ。
「これはネコ梨ニャ。
フェリダエの名物でみんな大好きニャ」
「へぇー。
結構酸っぱいね。
でも、美味しい!」
寝るのはテントで、これも初めての経験だった。
「エノ殿はどうします?
広いから私のテントでも構わないが?」
フーからのありがたい提案だったが、トラ達からの殺気が凄かったので丁重にお断りした。
そもそもフーの隣なんて緊張して多分寝られない。
トラ達も「我々のテントへどうぞ」と言ってくれた。
でもトラと雑魚寝というのも正直気が休まらない感じがしたので、こちらも丁重にお断りした。
「エノは私のテントで寝るニャ!
私のテントも広いから大丈夫ニャ」
「あー、うん。
ありがとう。
そうさせてもらおうかな」
結局タマのテントにお邪魔した。
これが一番安心して寝られる気がした。
よく考えればタマも異性なのだが、その辺を意識することは無かった。
ただタマの寝相は恐ろしく悪かった。
裏拳、レッグラリアートなど技のオンパレードで、寝ている間に何度も起こされた。
爪で引っ掻かれなかった事は幸いだった。
「エノ、隈が出来てるニャ。
よく眠れなかったニャ?」
「タマ……、夢の中でも闘ってるの?」
「ニャー?
夢なんて見てないニャ」
二日目からは、トラ達が折りたたみ式の衝立てを貸してくれたので何とか寝られるようになった。
タマはバンバン衝立てに当たるのでうるさかったが、寝られない程では無かった。
頑丈な衝立てで良かった。
「もっとこう腰を入れるニャ!」
「はい! 師匠!」
時々拳法の練習もやった。
何があるか分からないから身を守るためにと、タマに勧められて始めた。
ただ僕は爪も牙も無いので、攻撃よりは体捌きを覚えた方が良いだろうと、フーにアドバイスを受けてトラ達に教えてもらう事になった。
タマも身のこなしは苦手だったので、結局二人でトラ達の特訓を受けていた。
「獣力の使い方は得意な方なんニャけどニャー」
「獣力?」
獣力という聞き慣れない言葉に反応するとタマが説明してくれた。
獣力は体内から生み出される力で、武獣家はそれを自在に操れるように鍛錬するのだとか。
タマが使った猫爪波やフーの虎気砲、ジーショウの硬猿毛なども獣力を利用した技らしい。
〈そうだ、ジーショウといえば、ずっと気になっていたことがあったんだ……〉
ジーショウの名前を聞いて、以前思った疑問が再び頭に浮かんできた。
「ねぇタマ、ジーショウは何であの時タマに挑んできたんだろう?
ルートさんとか虎皇拳の皆さんとか、他にもいっぱい武獣家がいたのに……」
僕に言われてタマも不思議に思ったようだ。
「そう言われればそうニャ。
大体武獣家ってのは強いやつと闘いたいものニャ。
あの中には私より強い武獣家がたくさんいたニャ。
ジーショウならそれ位わかったはずニャ……」
「ふむ……確かに。
もしかしたら、タマ殿の潜在能力を見抜いたのかもしれませんよ」
フーが考え込みながら言うと、タマは慌てて首をぷるぷる振っていた。
みんなで「う〜ん……」と唸っていると、やがて一人のトラが僕らの前に出てきた。
「その疑問には私がお答えしましょう!」
「おや? ティグではないですか?
珍しいですね。
いつもは控えめなあなたが前に出てくるなんて」
ティグと呼ばれたトラがフーに向かって低頭する。
「出過ぎた真似をして申し訳ありません。
ただ、今回の件は私の専門のようでしたので、お役に立てるかと思いまして」
フーは驚いたような顔をしたが、ティグに向かって「どうぞ」と、先を促した。
それを受け、ティグが僕らに話し始めた。
「ジーショウ殿がタマ殿に挑みかかった理由。
それは……、
タマ殿が"かわいい"からです!!」
「えー!!」
その場にいた全員が驚いて声をあげた。
まさかそんな理由?
確かにタマはかわいいけど……。
この世界ではあまり容姿は気にしないんじゃなかったっけ?
「ティ、ティグ……。
あなた、何をふざけているのですか?」
フーが戸惑いながら言うと、ティグは間髪を入れずに否定した。
「フー様、私はふざけてなどおりません。
この世界には一定数いるのです。
私やジーショウ殿のような者が。
"かわいい"を、いや……"かわいくて強い"を至上とする者が!」
ティグの目がカッと開く。
「あの時、ジーショウ殿はルート殿に向かうつもりだった。
しかしその直前にタマ殿に気づいたのです。
かわいい!と。
そして、どうやら武獣家らしいと。
そうなれば強さを確かめずにはいられません。
それ故ジーショウ殿はタマ殿に挑んだのです」
ティグはまるで難しい謎を解き明かすように、闊歩しながら語った。
「私はそれを見て共感するものがあったので、あの日すぐにジーショウ殿を訪ねました。
そしてタマ殿の魅力を大いに語り合い、我らは竹馬の友となったのです」
ティグはその時の事を懐かしむように目を細めて、空を見上げた。
「フー様、貴方様の元にもお慕いするといった類の手紙が届くでしょう。
大半はフー様の強さ、闘い振りを見ての事でしょう。
しかし、中にはフー様の容姿も含めて、総合的に熱狂的に支持している者もいるのです。
それが我々の同士"ギーク"と呼ばれる者です」
「そういえば他とは毛色の違う、熱量が異常にこもった手紙を頂くことがたまにある……。
リバもそのような事を言っていたな」
フーが何かを思い出したようにハッとする。
「フー様、ご安心ください。
ギークは決して害のある者ではありません。
陰ながら熱狂的に、しかし節度を持って対象を支持するものであります。
その一挙手一投足でもって、我々に歓喜をもたらしてくれる対象の、その幸せを何より願う者であります」
ティグはそう言って、再びフーに対して低頭した。
いつもは控えめとかフーが言ってたけど、そんな事は全く感じさせない凄い熱量だった。
でも好きな物へのその熱量は、なんだかとても懐かしい感じがした。
ふと、タマの様子が気になったので見てみた。
タマは何が何だがわからない様子で、目を点にしてぼーっとその場に立っていた。
ティグがそんなタマの様子に気がつく。
するとティグは興奮してタマの近くまで行くと、なんとその場で踊りだした。
「タマ! タマ!
タマのかわいさ、ガオガオガー!」
「ティ、ティグ!?」
フーを初めとした虎皇拳のみんなが、慌ててティグを取り押さえようとする。
しかし、ティグはそれでも踊りをやめなかった。
いや、やめられなかったと言うべきかもしれない。
「なんニャ!
なんなのニャー!」
タマは目の前でものすごい熱量のこもった踊りを見せられ、驚いて近くにあった木へと駆け登った。
取り押さえられるティグを木の上から見て、タマは反応に困っていた。
僕はティグが興奮のあまり、タマに抱きついたり触れたりしなかった事にホッとしていた。
そして、ギークとはティグの言う通りの者かもしれないと、人知れず感心していた。
読んでいただきありがとうございます。
このお話では、ギークはいわゆるオタと捉えてください。
実際は違うみたいですが。
次回はトラ達の拳法、虎皇拳を訪れます。
よろしくお願いします。




